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カントの『実践理性批判』を、本文の構成にしたがってパラフレーズした解説書です。
著者は「はじめに」で、カントが実践理性の根本法則を「君の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として妥当するように行為せよ」という定言命法によって規定したことに触れて、「その内実は、いくつかの理由で近代社会の倫理の本質を表現している」と述べています。著者の『近代哲学再考』(径書房)などを読むと、近代社会における「自由」の本質について著者自身は独自の考えをもっていることがわかりますが、本書ではそうした著者の思想を開陳することは抑制されており、もっぱらカントの文脈の中で「自由」の概念がどのように規定されているのかということがていねいに論じられています。
著者自身の思想に関心のある読者のなかには、本書と同じ「完全解読」シリーズから出ている『完全解読フッサール『現象学の理念』』(講談社選書メチエ)に比べると少し抑制が効きすぎているのではないかという印象を抱く向きもあるかもしれません。
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人間と社会についての根本的に新しい展望と構想が拓かれるべき時代が来ているのだ。そしてその課題を引き受けるのはつねに新しい世代である。さまざまな古い叡智とともに、近代についての基本構想として現われた西洋哲学の再理解が、いまなによりも重要なものとなっている。
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完全解読シリーズの趣旨も良く調べず手に取ってみましたが、基本原著をベースに適宜解説を加えるといった読み応えのある内容とは露知らず、寧ろモチベが高まりました。
「純粋理性批判」は難読で有名ですがこの「実践理性批判」はそこまで理解し難いことはないとの評判でしたが、やはりこの独特の言い回しと同じ主張を角度を変えながら論じていくスタイルは自分のレベルでは読み解くのに難儀。
とはいえ、欲や快楽などの傾向性に基づく行動や思想は経験的な出所で道徳的なものとは言えず、アプリオリに認識される道徳法則に基づく「~すべき」という定言的命法と自律(マキシム)が一致することこそが唯一の道徳的なもの、ひいてはそこに「自由」がありその意思に尊敬を引き起こすことにより「最高善」へと導かれる。
このような主張は、あながち自分の感覚と相違はないのかと感じていたり。(できているかは別問題)
いわゆる自己的な利他ではなく、報酬や見返りを求めない献身的な利他こそが真の道徳であり、人間が生得的に秘めている能力なのでしょう。
しかしどうも自分の内面的な処理に完結しがちで、自然的(物自体)との関わりとか影響がやはり幸福という認識はありなのではないでしょうか?という素朴な疑問は沸き上がってきますね。一度通読するだけで決して腹落ちしていないのは確かで、折に触れて、理解を深めていきたいテーマと作品でございます。