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身辺がバタバタと忙しい事を言い訳に歯の痛みをほったらかしにしたまま、新しい任地、f植物園に赴任した主人公。
その任地で歯医者に行くが、どうもその歯医者が少しおかしい。
そもそも自分以外患者がいない。
また、助手も兼ねている歯科医の妻は、前世がイヌだったため、忙しくて、なりふり構っていられなくなるとイヌの姿になってしまうという。
その事を「髪が乱れてる」くらいの感覚で受け止めているし、他人にもそのような感じで説明する。
さらに、下宿先の大家は時折、頭だけ雌鶏になる。
時間の進み方もなにかおかしい。
いつもと同じ日常のようで、どこか違う世界。
記憶を辿ってみると、巣穴に落ちた以降の記憶が途切れ途切れで、しかも巣穴から出た記憶がない。
出た記憶がない以上、まだ自分は巣穴の中にいるはず。それなのに日常のような世界にいる、という事は、ここは異界。
ここを出るにはどうしたらよいのか。そのためにさまよい歩く。
読み進むうちに主人公がさまよい歩く「異界」は、主人公の「記憶」の中だという事が分かってくる。
出てくるものは主人公の記憶の中の何かを象徴するものだが、分かりやすいものもあれば、一体、何の関係があるのか、よく分からないものも出てくる。
よく分からないからこそ、記憶の中の世界なのかもしれない。
最初は、わけも分からずさまようが、次第に、この「異界」で「探すべきもの」が見えてくる。
ただし、いずれも現実の世界では会う事ができなくなった者たち。つまり死者。
彼ら、彼女らとキチンと向き合うために記憶の中の世界をさまようことになったのか、と思うが、そもそもその記憶を抑え込んでしまった理由が今ひとつ分からない。
想像すれば、さもありなん、という気もするが、果たして、そこまで記憶を改変してしまうものか、という点が腑に落ちない。
ただ、そのために読むのが進まない、といった事もない。
手に汗握る展開はなく、どちらかというと緩やかに物語が進むのが自分のペースに合っている感じがする。
ところで、自分の記憶の中の世界をさまよう事になったら、どんなモノが登場するだろう。
本当は、あまり見たくないのだが、少しだけ興味がある。
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少し昔の日本を舞台にした何ともいえない雰囲気が味わえる。
川の流れ・洞・歯痛・草原などモチーフが重層的な意味を持って迫ってくる。
ちょっと雰囲気にのめり込めず残念。
ラストにいたってさすがにちょっと疲れてしまった。
感動的と言えば言えるのかもしれないけれど。
『家守奇譚』のような雰囲気を期待しすぎたせいかもしれない。
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最後よかったー…。もう一度読むと伏線が分かる!というか、一読目はそれが伏線であることにすら気づかないで読むしか無い、というのが苦痛ですらある。幻想的な描写も多いけど、その曖昧さが必要なものと感じさせられる、説得力のあるところが好き。そうそう、このテーマにこんなアプローチなのねふんふんて感じ。自己とか愛とか生命とか、この人好きだよね。俺も好きです。158/188/193/219/207/
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人は、どこかで必ず自分が抱えてきた深い傷と向き合うことになるのでしょう。その時は、逃げても、いつかきちんと対峙する必要がある。植物園で働く佐田豊彦が過去と現実が混ざり合った不思議な境界の中で、迂回してきた過去を受け止める。いや、受け入れる旅をする。あぁ、こういう結末が待っていたのかとほっとした。梨木さんの紡ぎ出す物語は、「優しい」。その優しさは薄っぺらいものではなく、なんというか深い優しさ。だから好きなんだなと再確認した。この物語も、これから何度も何度も読むことになると思う。
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梨木果歩の小説は境界が曖昧だ。隣を見れば異世界。親しい人は幽霊。
今回はそれが顕著で、まるで夜明け近くの夢の中にいるようで、はっきり筋が通っているようなのに現実味が欠けている奇妙な感覚だった。
村田も家守もわりと時間をかけて読んだが、半年以上かかるとは予想だにしなかった。
面白いが入り込むまでに時間がかかり、そこから浮上するのにも時間がまたかかる。
本当なら自分一人の時間が楽しめる場所でゆるゆる読むべき本なのだが、あいにくそんな贅沢な時間は持っていない。
しかし、千代たちについては彼の記憶は生々しい。そこだけ妙に精彩だ。
最後にはすべて明かされ、ものすごく納得しました。
やっぱりあのシーンと、千代さんとの思い出は泣いてしまいました。
全体的に和風を強くした「裏庭」ぽいです。
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今ここが、夢なのか現なのか。それが分からなくなる世界に足を踏み入れ、それに慣れていく。前世が犬であった歯科医師だとか、突如現れ口をきく福助の在る世界に。
そして、いきなり視界が開ける瞬間がおとずれる。まさに、「鳥肌」。
これがあるから本の穴に迷いこむのはやめられない、と思える一冊。
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夢オチ?
途中までは、佐田さん、果たして生きているのか、死んだのか、気が気でなかったが、最後はホッとする、暖かい結末で良かったと思う。
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夢かうつつか。こういう本は頭が混乱して疲れる。だが自分の内にもこういう感覚はあって、全く異世界とも思えない。いずれ夢かうつつか、過去か現在か訳がわからない穴ぼこに落ちる時が来そうだ。
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夢みたいな非現実的な所謂梨木ワールド全開な作品。
歯医者での場面がとても良い。
この歯医者がまたいい加減でいい加減で良い。
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うまく言えないけれど、
自分がこの世に生まれてきて、今ここにいることが、
心にストンと落ちる。
読み終わったあと、世界が優しく見える本。
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夢と現が交錯してこんがらがった話の筋が
主人公の記憶がよみがえるにつれ紐解かれていく様は
離れ離れだった島々が引き潮によってひとつに
繋がっていくようだった。
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家守綺譚のようなものを期待して読んだので、序盤はちょっと期待はずれかなぁ~というように感じました。しかし、カエル小僧?が出てきたあたりからの終盤の展開で一気に引き込まれまれてしまいました。ちょっと泣けます。
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歯と心という点で、わたくし率、イン、歯ー、または世界?と思ったんだけど、あとがきにも書かれていた。
だからなんだというはなし。
今年ある植物園に足を運んで以来、植物園というものに対しての浪漫を抱いているため手にしたけれど、読みにくい印象だった。モチーフは好みだけど。
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現在から過去へ、過去から現在へ
時間が波のように流れていき、その波の中をぐるぐると漂う。
全ての積み重ねが今の自分、ということをよく表している物語だと思う。
最初は何のことを言っているのか難しくて無理無理読んでいたのに気付くとすーっと物語に引き込まれていた。
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やっぱり私は梨木さんが好きだなぁ、と再認識。喪失と、再生の物語です。
虫歯に耐えられなくなった主人公が歯医者に駆け込むけれど、何かがおかしい。次第に現実が溶け出していき、夢か現かわからない、過去と現在が何層にも重なった世界へと降りていく。
虫歯にできた大きなうろは植物園の椋のような木のうろとリンクし、歯にも心は宿る、ということは心に大きな穴が空いているということ。
主人公が失ったものとは、そしてそれを取り戻し、木のうろから抜け出ることはできるのか…というお話。
幾重にも重なったの暗喩や、いたるところに張り巡らされた伏線など、読むたびに新しい発見がありそうです。
2013.01.07