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日中、太平洋戦早期に軍事費を捻出したしくみを紹介する一冊だが、
関係の薄いエピソードの脱線が多く、肝心の内容が薄い。
特に一、二章はそれが顕著で、
筆者の戦争観や知識が数多く披露されるが、
読者の求める内容と乖離があると感じた。
後半はその色もやや薄くなり、比較的読みやすい。
賀屋興宣の考え方や生涯についてはまた触れてみたいと感じた。
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この本は『極東国際軍事裁判速記録』で読んだアメリカ国務省が提出した検察側資料を想い起させる。
この裁判で検察側は1931年から1941年にかけて公表された大日本帝国の各年毎の一般会計予算総額と陸海軍予算総計を統計表で示し、開戦に至るまでの10年間は軍事費は常に総予算の50%以上、それも年を経る毎に増大し、開戦の年の1941年には実に75%に昇ったことを明らかにして、日本側の弁護団を大いに慌てさせたのであった。
本書では一般会計予算ではなく、臨時軍事費特別会計という大日本帝国の<隠し金庫>に焦点をあて、その支出が一般会計予算総額にほぼ匹敵することを図示しているが、これを上記国務省の資料と合わせ読めばどうなるか。すさまじいばかりの金額が日中戦争から太平洋戦争に投ぜられたことになる。
著者は議論はさまざまにあるとはいえ、数字に表れた国の方向は見間違うべくもないと述べているが、これはこの国で久しぶりに見る快論といえるだろう。江戸時代のサムライは数字は唾棄すべきもので、数字にうるさい人間をバカにした。同様に昭和前半の軍人たちも数字を蔑視しながら<飲み打つ買う>に励んだ。本書に示された数字は、そのような国の歩みがどのような結果をもたらすかを示したものといえるだろう。
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太平洋戦争に突入する頃の日本の政府予算の1つ「臨時軍事費特別会計」に注目して戦争を振り返る本。
臨時軍事費特別会計は支那事変以後だがそれの少し前から取り上げられている。
聞きなれない言葉だが文字通り臨時に必要になった軍事費のための特別な会計で、戦争(軍事費が必要な事案)の勃発から集結までを一会計年度とし不足分は追加予算で補われるもの。毎年決まった時期に予算案を提出する必要もなければ詳細の報告もいらないお手盛り予算バンザイ制度。
軍が向こう見ずな暴走に陥ったのはこの制度のお陰で予算に制限がなかったのが大きいと思われ、本のタイトルでもあり話の中心ではあるのだが、多くを割いて説明しているのは当時の状況。お金の話を絡めての説明は非常にイメージをつかみやすいものだが、軍事費についての詳細を知りたいと思った人には完全に物足りないのはいなめない。
当時としては満州をはじめあの一帯での衝突は邦人の利益のみならず現地で暮らす人々の財産や生命に関わる案件であり、そのため「戦争」ではなく「事変」と呼称していたこと。
アメリカ依存の経済であったこと。
この2点は特に重要なことであり数字を見ると異論を挟む余地はないように見える。
具体的な数字ではないが、日本は「アメリカは大西洋で忙しいので日本と戦争しないだろう」アメリカは「東洋のちっぽけな島国がこっちに戦争はけしかけないだろう」とお互いに相手を甘く見ていたフシがある話など興味深い見解も多かった。
無責任なマスコミ等による世論誘導などもあるが、経済状況は明らかにアメリカなしに成り立たないものであり、しかも同盟を結んだドイツは中国に武器を輸出してたりするわけで、なぜあのような選択肢を選ぶことになったのかと思うと不思議でならない。
経済に素人が国家財政の財布の紐を握った結果だと考えると帝国日本を破滅させた魔性の制度の副題にもなっとくできるとともに、同じ過ちを犯さないために必要なことも見えてくるような気がする。
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2013年刊行。著者は大学受験予備校世界史講師。
戦争は武器がなければ行えないが、その武器と人を動かすためには「金」が必要。
戦前の15年戦争期に日本はどのようにその金を用意したか。その仕組みは如何に。あるいは、当時の国家財政はどうだったか、また、貿易収支等経済の実態はどうだったか。
この疑問、すなわち、戦時下財政問題は、ある種当たり前の切り口であるが、専門書以外で叙述されることはさほど多くはない。
いわゆるABCD包囲網の内、繊維など軽工業中心の日本の取引相手国、軍事物資を含む原材料輸出元の過半(7割以上)が、ABD(ないしその植民地)であったという。
彼らと戦争すれば、商売をしてもらうことはなくなり、単純に考えても、自国の売上が7割減少する。そんな相手国と戦争をできると考える能天気さが浮き彫りになってくる。
加えて、戦争前こそ財政・租税民主主義による歯止めの重要性が判るが、そもそも日本の国会議員はそういう発想をしない点が、政治の未成熟さを言うのだろうか。
かように国力と関係する15年戦争当時の経済実態については、当該為政者の叙述が少なく、分析書も一般には多くはない。この印象の下で見れば、なるほど本書は大したことは書いていないものの、その存在は貴重かもしれない。
また、戦費を捻出した国債や戦時補償債務。この戦後の帰趨も余り触れられないテーマか。
そのうち国債は元利とも支払継続だが、一方の戦時補償は紙切れと化したという。
もっとも、本書全体の傾向として、テーマと無関係の余分な記述が多く、また、軍事支出が経済成長に繋がるとの短絡的結論(短期的フローは兎も角、売却目的でない軍艦や軍需品は使い捨て。民生用船舶や道路・機械部品と違って新たな利益を生まない)を衒いなく言い切ること。
(半)植民地国のナショナリズムや植民地の国富回復運動を一面的叙述で切り捨てるなど首を傾げる叙述も多い。
テーマだけなら三章以降のザッピング読破で十分。
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2021/02/03臨時軍事費特別会計 鈴木晟あきら
「昭和の軍国日本史」を軍事費・国家財政の視点で整理したもので、「お金は本質を示す」点でもユニークな分析と評価。(Amazon書評は不当に厳しすぎると思う)
コロナ戦争で財政支出が巨額になっている中、国民の要請、社会的必要性、議会のチェック停止など、現代の国家財政に通じるものがある。
最終的には国民負担になるのだが、「政治力学」次第で、受益者と負担者は異なる。