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英国の法人類学者・解剖学者、スー・ブラック博士の回顧録。
原題は ALL THAT REMAINS だが、
日本語読者の好奇心をそそる
若干いかがわしい邦題となっている(そこがnice)。
法人類学(forensic anthropology)は
人類学的見地から人種や年齢、性別等の
身体的特徴を識別する方法を用いて
白骨死体や腐敗・損傷死体の個人情報を抽出・研究する学問で、
英国の法律において法人類学者は医師ではないので、
死体検案書の作成はできないという。[p.29 訳者コラムより]
解剖に携わる専門家の職業倫理について、
著者自身の近親者との死別のエピソード、
時代の移り変わりによる葬儀・服喪の様式の変化について、
孤独死した人、あるいは紛争や大規模災害による死者の
身許を確認すること、延いては著者の死生観などが
ウィットとユーモアに満ちた口調で語られる大著。
他者の死を悼み、遺族の悲しみに寄り添いながら、
自分自身が将来家族を置いて旅立つことについては
極めてドライな態度が清々しい。
※詳しいレビューは後日ブログにて。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/
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自分は「普通」に「生きている」
それをつくづく感じたのは、
法人類学者が「異常」な「死」を語ったから。
人体の基本的な構造や働きから、自身の家族の臨終体験、死にまつわる社会的なアレコレ、英国内の身元不明遺体の解明、コソボ紛争やインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波での仕事など
ミクロな視点からマクロな視点まで、プライベートなことから社会的なことまで、多くの経験と事実が描かれる。
わたしが驚きつつ知った印象的なことは
SDGsな遺体処理方法•埋葬方法
身元不明死亡者や犯罪者の個体識別の方法
国際的な災害における犠牲者身元確認(DVI)のやり方
解剖に至るまでの遺体保護処置のやり方
遺体損壊の犯行意図による5分類•遺体損壊のやり方
死、行方不明、殺人、災害死。
普通の人が経験できない、経験したこともない、生きてるうちに経験することもないこと
それと向き合う人がいて、確立された仕事や知識•学問体系があって、それにも関わらず多くの課題がまだまだあること
本書ではそれを知ることができる。
特殊すぎる、陰惨ともいえる世界の記述が多いが、それ以上に印象に残るのは、その描写のすみずみにあらわれる著者の死や死者、そして遺族への優しい眼差しである。
そこにこころが動かされることで、沈んだ気持ちになりながらもページをめくり続けることができた。
とは言え500ページを超す大著で、テーマもテーマだけに、普通の方が通読するのは困難だろう。
各章は独立してかつ内容も多彩で充実しているので、興味がありそうなところから読んでもいいと思います。
それでもこの感情を揺さぶられる驚くべき未知の世界を十分に覗くことができます。
私がぜひ読んで頂きたいところは「第9章死体損壊」、「第10章コソボ」、「第11章惨事の衝撃」です。
ただし描写(事実)は衝撃的なので、ご注意下さい。
*本書では多くの主張や自身の意見の表明がなされている。多くは肯定的に受けられたが、一部過激で、さらにその一部は誤解を招くだろうと思った。
医療者として2つだけ指摘する。
エピローグの後半の
①「生きている価値もない体で」長生きしたくない
②症状もないのに検診をうける必要性を感じない
というものである。
不適切な描写だろう。
個人の心情としては理解できる。しかし本書をここまで読み進めて著者の経験と知識に裏打ちされた人格に魅力を感じている読者には、これは拡大解釈(誤解)されかねない。
つまり個人の意見の表明ではなく、それが正しいことだと受け止められかねない。
これは正しいのか?もちろん正しくない!
①どんな体でも長生きしたいと思っていい。生の価値を決めるのはほかでもない自分である。生きている価値もない体と他人に判断させる必要はない。
②無症状でも(だからこそ)検診を受ける必要があります。本書の記述は大腸がん検診のことと思いますが、大腸がん検診を受けることで(症状がなくても)大腸がん死亡リスクを減らすことができます。
よろ���くお願いします。
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分類は随筆・エッセイだけど、著者の法人類学と死者への思いが濃密で、なかなか読み応えのある1冊でした。
法医学者や法人類学者の書いた本は、何冊か読んだことはあるが、国の違いや性別の違いで、法や考え方がこうまで違うとは。
変わらないのは死者の声を聞いて、社会に貢献すると言う使命感と責任感だと思いました。