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特に何か凄い事件が起こるわけではないのに、日本の近代文学史が描かれているせいか、非常にワクワクして面白かったです。
明治21年生まれの菊池寛が作家になり『真珠婦人』をヒットさせ文藝春秋社という会社を立ち上げ、雑誌『文藝春秋』を創る話です。
1話目の寛と寛(ひろしとかん)には芥川龍之介が登場します。芥川龍之介は『鼻』が認められ、文壇でどんどん名をあげていくのに対し菊池は『真珠婦人』までヒットがありません。
大正12年に菊池は『文藝春秋』を創刊します。
そして芥川は神経を病み自殺。
菊池寛の本名はひろしと読みますが、芥川は自分の長男に比呂志(ひろし)という名前をつけていました。
2話目は貧乏神
直木三十五の話です。
横光利一、川端康成などとともに直木三十五も登場します。
直木三十五の本名は植村宗一ですが、筆名の由来を初めて知りました。
直木は働き過ぎて、結核から脊椎カリエス、脳膜炎を併発して亡くなります。
この2話で、今、毎年二回必ず話題になる文学賞、芥川賞、直木賞の創設の意図がよくわかりました。
第3話会社のカネでは、社内で起きた横領事件。
第4話ペン部隊では満州事変。
第5話文藝春秋では会社の立て直しの様子が描かれます。
明治から昭和初期の文化人の名前がたくさん出てくるので(夏目漱石、柳田國男、小林秀雄、石井桃子、向田邦子他多数)その頃の文学がお好きな方には面白く読める本だと思います。
菊池寛には『真珠婦人』のヒットはありましたが、文化人というより会社人間として成功した人だったのだと思いました。
菊池寛の死因は、接待などでの暴飲暴食による狭心症でした。
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門井さんの読みやすい文体で、菊池寛という人が破天荒に生きている感じで描かれていました。
こんな風に会社が出来上がってくるんだな~と、興味深く思いました。
ちょっと独りよがりでワンマン的な、ものすごいエネルギーのある人で、それが周りの人をも動かすチカラとなっているのかなとも感じました。
有名な作家さんの名前がたくさん出てきますが、歴史上の人物のように現実味がなかったのが、さらに歴史を感じました。
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柚木麻子さん作『ついでにジェントルメン』の一章に「Come Come KAN!!」があった。文芸春秋社のサロンで、主人公の新人女性作家がそりの合わない担当編集者と打ち合わせをしていて、菊池寛の銅像が突如話しだすという奇想天外な展開で始まっている。文藝春秋社を菊池寛が興したと初めて知った。菊池寛と云えば、随分前に昼ドラでドロドロとした愛憎劇『真珠婦人』をやってて菊池寛の原作だとわかり、それまで持っていた『父帰る』のイメージが裏返ったのを思い出した。いつか彼の作品を読んでみたくなった。
タイミングよく、門井慶喜さんによる本作が今春に出版されていて、まずは菊池寛さんの経歴を知ることにしようと思い立って読み始める。
芥川龍之介や直木三十五、川端康成などのそうそうたる小説家が登場する中に、彼の助手として石井桃子さんが出てきて、そしてその流れで向田邦子も登場するのが意外で興味深い。菊池さんは同時代に活躍した所謂文豪たちと異なっていたのは、小説を書くだけでなく『文藝春秋』を創刊する経営者としてのノウハウや度量があった。実業家として手腕をふるう一方で、小説家であることもあきらめなかった菊池寛。何かの本で読んだ蔦屋重三郎が浮かんだ。蔦重は、自身もそれなりに描いていたが自分に才能がないと見切りをつけ、才ある人たちの作品を売り出す側に回った人だった。蔦重と比較するのは間違いかもしれないが、彼は二足の草鞋を選ばずに、貸本・小売を手掛ける本屋「耕書堂」を開業。『文芸春秋』が引き継がれているように、江戸時代に創業した蔦屋重三郎に由来するとも云われているのを現在に残している。名高いカルチュア・コンビニエンス・クラブが手掛ける、レンタルや書籍販売などを行う複合量販店チェーン「TSUTAYA」がそうらしい。
菊池寛は結婚相手には資産家の娘と結婚することを考え、金持ちの妻を娶る。高松藩の旧・藩士奥村家出身の奥村包子(かねこ)と結婚し、妻側からの莫大な援助を得ている。さすがだ。経営者としての意識が強まったことで、学友に対する扱いが無意識のうちに疎かになってしまった。大きかったのは(本書によると寛さんの思うところではなかったらしいが)戦争を進める政府に迎合して、結果的にペン舞台を繰り出す素地を作ってしまった。終戦後GHQから、菊池寛は日本の「侵略戦争」に文藝春秋が指導的立場をとったというのが理由で、公職追放になった。その間「大映」の社長に就任し、国策映画作りにも奮迅していたのだから止むを得ない。
菊池寛は思う存分、時代を駆け抜けた日本人離れした人に思える。
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門井さんの伝記フィクションはたのしい。おもしろい。と同時によくこんなに取材してあるなと感動だ。社員の横領、文学賞の設立、戦時中の苦悩など、慣れ親しんだ「文藝春秋」の歴史の一部を教えてもらった。今でこそ文春といえば、一部の人たちの敵なのだろうが、やはりとても社会に大きな価値をもたらす出版社だと思う。登場する作家たちの中には私は知らない人も出てくるが、どんな人たちなのか気になる。 菊池寛ってこんなにすごい人だったか!と読後にじわじわ、しみじみ。文学はすばらしい。21世紀もその先も、大切にしていきましょう。
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安定の門井慶喜作品。流行作家から今も続く文藝春秋を創刊した菊池寛。今や絶滅した文豪の生き様を菊池寛のほか、芥川龍之介、直木三十五らとともに描く。
新進の作家に発表の場を与えるために創刊した同人誌的な内容から日本を代表する総合誌へ。そして戦争の影。
ハズレのない門井慶喜の伝記小説は今回も安定の出来。
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菊池寛を描いた物語。
文藝春秋創刊に至るまでの文士として、戦前・戦中・戦後の社長として、社長退任後の晩年までをしっかり描かれた良作でした。
石井桃子や向田邦子も出てくるので自分の世代とも地続きだと思いました。
朝ドラの「マー姉ちゃん」でフランキー堺が演じていたのを鮮明に思い出しましたが、長谷川町子はこの小説の中では出てこなかったなあ。
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ノンフィクションやインタビューではない、出版社創業フィクションは老舗ならでは。他の本で書かれていたことや、過去に読んだ石井桃子の自伝などともリンクして、グイグイ読めた。
ゴシップ話が大正時代になってから人気が出た、という話が印象的だった。
もちろん、同社からの出版物だし故人なので、好意的かもしれないが、それも含めてもよかった。
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愛すべき人。今までほとんど知らなかった。よくぞ文藝春秋社を創立した。直木賞、芥川賞を創設した。川端康成など、同時代の作家さんがたくさん出てくるのも楽しい。
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まず、表紙が良い。
誰のことなのかすぐに分かった。
私のような特に学もない庶民が読書を最大の楽しみと言えるような世の中を作ってくれた人、菊池寛。
高尚も知るが民衆目線に降りることを選んだ人だ。
人の財布が気になる。
困っているのではないかと思えば、仕事を探してやりたくなる。
若くして亡くなった二人の友を偲び、芥川龍之介賞と、直木三十五賞を創設した。
若い才能の芽を摘むことなく、たくさんの作品を発表してもらえるよう、賞金と記念品で励ました。
まずは、長生きだな。
と言っていたのに、ご本人は戦後間もなく59歳で、少々早く生涯を閉じた。
しかし、充分やり切った、いい人生だったと思う。
『寛(ひろし)と寛(かん)』
夏目漱石の弟子の末席に名を連ねた。弟子たちは皆、漱石のような小説家になることを夢見ていた。
弟子の中でも可愛がられていた芥川龍之介との友情、交流と、彼の自殺。
『貧乏神』
出版を手掛けては失敗して、そのたびに借金を膨らませる直木に「文藝春秋」を手伝わせる。
彼が穴埋めに載せたちょっとしたゴシップ風文章が「文春」の行方を決める。
『会社のカネ』
かつての上司のアドバイスで、「文藝春秋」を同人組織ではなく正式に会社とする。
原稿は文筆家に依頼し、会社には編集、販売、広告などを専門にする社員を置く。
信頼していた人間の裏切りにあう。
『ペン部隊』
満州事変から急激に軍国化が進む日本で。
『文藝春秋』
終戦。
今までの価値観の破壊と再生の時期。
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幼少期を皮切りに、漱石先生の葬式からはじまる
第1章「寛と寛」では芥川龍之介、第2章「貧乏神」では直木三十五とふたりの盟友に焦点を当てている
菊池寛から見た芥川龍之介、芥川とのすべてのやりとりが感無量で全部頭に突っ込みたい
芥川龍之介を芸術主義者と評する菊池寛
推敲、推敲、推敲、、、
菊池寛の口から語られて芥川龍之介の痛いほどの繊細さが浮かび上がる
柳田國男との座談会での河童kappaの読みの話、、死期を感じて胸にきた
座談会型式って菊池寛考案なんだぁと驚きました
“世はまさしく雑誌の時代”
硬派の雄 総合雑誌「改造」「中央公論」
軟派の花 読物雑誌「講談倶楽部」「婦人倶楽部」
文芸誌「新潮」
大正十二年(1923)一月、雑誌「文藝春秋」創刊
菊池寛から見た川端康成ら第六期新思潮、創刊号当時を振り返る川端康成も史実、、、「雑文雑誌」と言い得て妙
直木三十五ってこんなかんじなん!!??と。ふざけたペンネームをして菊池寛がストップをかけて三十五で通ってるとだけの知識でしたが、直木の人物像を見るとイメージ違かったwとても参考になりました
横光利一の“長い前髪をかきあげて”という描写に教科書の写真のまんまかな?と笑いました
『蝿』は文藝春秋 第五号の特別創作号が初出!
直木三十五の経歴というか動き、大衆文学を書き始めた当時のこと、菊池寛がどうしても見捨てられない人物、、、これが直木賞に繋がってるんだなぁって。。。
雑誌記者時代の元上司・千葉亀雄。カイゼルひげ。
「新感覚派」と呼んで流行らせた人物。
「新感覚派」川端康成、横光利一、今東光
↹ 従来の「現実派」
よくある文豪エピソード(菊池寛じゃなくクチキカンだな、とか)が盛り込まれていてこれも十二分に史実に基づいたフィクションで、本当に大好きな分野でした!!
小林秀雄氏はこの世代だったかぁとか川端康成が若手かぁとか文豪たちの世代差がすっと頭に入ってくる。石井桃子さんの存在も大きかった。菊池寛にとっても一読者である私自身にとっても。
菊池寛の汪兆銘訪問は史実ですよね。
菊池寛の戦争観、どこまで作者が作り込んでくださったのか。「ペン部隊」についても非常に勉強になりました。
『文藝春秋』
変わらないものと変わっていくもの
“自分の人生は文藝と春秋なのだ”
文庫化したら絶対に購入すると思います!!
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菊池寛の伝記小説。
文藝春秋を作り、芥川賞、直木賞も作った人。
無知とは恐ろしい。全然知らなかった。芥川龍之介、直木三十五、夏目漱石、川端康成。錚々たる登場人物の数々…。
幼少期から小説家になるまで、芥川龍之介との関係、直木三十五との関係。当時の様子がありありとわかる。
僕らは、日本の先人達の作った礎の上に生きてるにも関わらず、本当に何も知らないんだなぁ
伝記小説…。いいなぁ
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文藝春秋創立100周年記念作品。
文藝春秋は知っていても、どうやってできたのか知らなかったことばかり。
菊池寛も流行作家だったことは知っていたが、作品は一つも読んだことなし。
へぇーって思うことだらけで、あっという間に読めました。
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お恥ずかしながら菊池寛の存在をこの小説で初めて知りました。
まさに文豪であり、実業家。
周りを動かす人望ここにあり。
毎年話題となる芥川賞と直木賞も菊池寛によって作られた。
その経緯を知り、また注目の仕方が変わる。
受賞者はもちろん、賞そのものも長生き。
その目標は今も受け継がれる。
亡くなり方が印象的だった。
こんな幸せなことがあるか。
最後まで文藝春秋を思い続けた彼の生き様をご堪能あれ。
He was a stubborn and devious person.
However, a lot of people loved him because he was a big brother type and bold.
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文藝春秋社百周年を記念しての出版らしく、多分にヨイショ感はある。菊池寛が親友の芥川や直木三十五を偲んで賞を作ったのは有名な話で、別な書籍でも詳しく書かれている。
が、ここでは、一筋縄では行かないが、魅力的で親分肌の菊池寛がよく描かれていて好感が持てた。小林秀雄、井伏鱒二、今はビッグネームの作家がゾロゾロ出ててそこも興味深かった。
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面白かった。菊池寛という人のことをちゃんと知れて良かった。好きなことに無邪気な人が突進できるこの時代があって、今こんなに私は読書を楽しんでいる。
芥川賞、直木賞の成り立ちを知ったことで今後の受賞作にますます期待!