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上巻は通子の過去と吉敷と老婦人との出会いという過去と現在が並行して綴られていきます。通子の過去はとても暗澹たるもので、読んでいてとても胸が痛くなるのですが、目を離さずにはいられないのです。
麻衣子と徳子が立て続いて死んだ後に通子が気付いた事実には、背筋が凍る思いでした。「優しいお姉さん」だった麻衣子が持っていた別の顔。その顔を、通子は見てしまったのです。
そして変わっていく父。運命に翻弄される通子がかわいそうになります。
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吉敷竹史シリーズの第一部完結編とでも云える本書、その中でもとりわけずっと謎めいた存在で登場していた元妻、加納通子との関係への総決算的作品となっている。
加納通子の生い立ちから述べられる本書は今までの『北の夕鶴2/3の殺人』、『羽衣伝説の記憶』、『飛鳥のガラスの靴』、そして『龍臥亭事件』全てを一貫して補完する形で、これらの作品の間に隠されたサイドストーリーを余すところなく、描いている。摑み処のない悪女といった感じの加納通子という女性が、今回ではじっくりと描かれる。その描写は、「業」と表現されるある種呪われた血が流れている途轍もない生い立ちを以って語られるが故に匂い立つほどの存在感を醸し出している。
この通子の物語は島田作品らしからぬあまりに世俗的な表現を多用しており、駅の売店やコンビニなどで売られている三流官能小説のテイストを備えており、正直辟易はした。
一方、吉敷側のストーリーは反りの合わない上司がある女性と食堂で話していることを偶然見かけたことをきっかけに、40年前の冤罪事件を自分の性に従い、解明しようとする物語である。
これは当時島田氏が手がけていた『秋好事件』の経験を活かしたもので、吉敷が冤罪事件の捜査で出くわす関係者の反応、やり取りは多分に自らが行った秋好事件の再調査での体験がそのまま反映されているのだろう。現実の世界での秋好事件が再審にならなかった無念をこの小説内で語られる恩田事件で晴らしているかのように感じた。
加納通子がこの恩田事件に冤罪であることを証明する決定的な証人であるという設定は結構盛り込みすぎだという印象が拭えなかった。
というのも今まで島田氏が語った吉敷シリーズ3作と御手洗シリーズ1作に関わっている通子がさらに40年前の冤罪事件にも関わっているというのがいかにも作り物めいていて一人の人物に設定を詰め込みすぎだろうという印象が強くなってしまった。
恐らく作者もその辺を理解していたのだろう、通子の生い立ちに費やした筆はかなりのもので今まで日本各所に点在していた通子についてそれらを結ぶ線を無理なく仕上げようと腐心しているのが解った。
最後に通子が鶏肉が苦手である理由がこの恩田事件によることだというエピソードはかなり秀逸で、これを持ってきたがために、通子が語られた当初から作者はこのストーリーを想定していたのではないかと思わされた。
(下巻の感想に続く)
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吉敷竹史シリーズの長編14作目です。龍臥亭事件のあとの話です。なんというか、通子さんパートは、大人の恋愛小説のよう。吉敷パートは、職を賭して冤罪事件の解明に挑む社会派ミステリの流れです。これが交互に書かれて読ませます。ただ通子さんネタは既に語られていることの確認も多く冗長です。リアルタイムで読んだ人は、過去作品を読み返す必要がなく良かったのでしょうね。吉敷さんは、もう刑事やめて探偵になったほうが良さそうです。予想通りの衝撃の引きに、下巻を待て。(1999年)