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著者は幼時の一時期、母とともに実際にサーカスで生活していた経験から、大人になった今、当時の団員にインタビューをする。
サーカスの「中の人」の生の声が興味深い。
自分の意志でサーカスに入った人、生まれた時からサーカスで育った人、どちらもサーカスでの生活のいいところ、そうではないところを考えながら生きてきた人生なのだろう。
短期間での転校を繰り返さざるを得ない教育環境や、子どもの教育を考えてサーカスを出て行く決断をすることなど、家族ぐるみの仕事だからこその悩ましさなども、当事者たちの言葉がリアルに胸に響いた。
私も子どもの頃、何度か見に行ったことのあるサーカス。
子ども心にも、その「ハレ」と「ケ」がくっきりわかれている空間に、郷愁めいたものを感じていた。
本書を読んで、その理由の一端がわかった気がした。
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常に気になっている存在の
一つが「サーカス」である。
あの「ぼくもいくさに征くのだけれどー竹内浩三の詩と死」を書かれた稲泉連さんが書かれている。もうそれだけで 読んでみよう! ではあるのだけれど、
わずか一年とは言え、連少年が生い立ちの一時期に「サーカス」の場にいたからこそ、生まれた一冊。
「ハレの空間」の象徴的な一つの場所が「サーカス」、なかなか部外者が取材を重ねたからとて、その「ケの部分」が引き出されることは先ずありえない。
そして、その部分を 昔の仲間の一人だからと
訥々と語ってくださったからこそ、生まれた稀有なルポルタージュである。
サーカスが成り立っている世界は健全な世の中である。このコロナ禍で 改めて認識させられた。
私たちの健全な日常には「サーカス」が必要である。
そんなことを考えさせらた。
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体験したかのようなノスタルジーに浸れる不思議な本だった。様々な事情があるだろうけど、みんなそれぞれサーカスを愛していて心のなかの暖かい場所にあり続けるんだと感じた。ただ、そこから「外の世界」で生きることは困難であるとも分かる。刹那的なきらめきが魅了する世界はやはり「夢」なのだろう。
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キグレサーカス。
子供の頃、見に行ったことがある。
そこで、一年間母親と共に過ごした著者の思い出と、サーカスにいた人たちの当時とその後が描かれていた。サーカスに長くいた人たちは、外の世界に出るとなかなかうまくいかないとか、子供は100回以上転校を繰り返すとか、華やかさの裏を知ることができた。
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雑多な経歴や過去をもつ人達が体験した貴重で煌びやかなサーカスでの生活の記録。その合間に挟まれた、「記憶の断片から」の作者の幼少期の一年間のサーカスで日々の物語がとても面白かった。
サーカスという言葉が連想させる、じめっとしてわい雑で退廃的で妖しげな空気感。「最後のサーカスの子」というパワーワード。。サーカスという前時代的な興行世界を作者がシビアに客観的に語っていてもなんだか郷愁を感じさせて、おセンチで切ない心持ちになった。
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日本全国を興行して回っていたサーカス団。幼い頃母子家庭で一時期サーカスに同行していた作家が、サーカス団の知人を訪ね過去を再現した作品。出会いと別れ、人生の一幕に触れた感動作。
漂泊民にも似たサーカス団の家族。来る者拒まず、去るもの追わず。出入りの激しい中で独自の疑似家族的な文化。
今では絶滅した独自な文化に触れた作品。後味良し。
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偏見の言葉を聞いたこと。幼子と入ったテントの中。思い起こすことが自分にもあることに気づく。
それにしても、皆んな離婚してしまうのは何故だろう。
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キグレサーカス1942年設立、2010年廃業。著者含め興行にかかわる芸人やスタッフ、その家族の暮らしを現在から振り返ってみる。2か月に一度公演先への場越しに伴う子供たちの転校、団員が家族のように兄さん姉さんと呼び合う教育やメンター制度にもつながる体質、人々の入れ替わりは激しいがいてもかまわないことは一貫した雰囲気。この興行生活を繰り返すうちに、自ら決めて抜け出したにもかかわらず、外の世界に馴染めない焦燥感にかられることも。関わった誰もが懐かしく思い出すサーカスの世界は昇華されていて、読んでいて充分に汲み取れたか自信がないですが、面白かったです。
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作者が2010年に廃業したキグレサーカスで過ごした幼年期一年で出会ったサーカス団員とキグレサーカスを回顧するノンフィクション。
1980年前後の古き良きサーカスでの日々と負の面を書き綴った。保証の無い芸事を仕事にするいわゆる芸能界と似たりよってる、今の時代なら何かしら「資格」は取得しといた方が良いんだろうね。
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とても良かった。
奇をてらうものがなく、淡々とわかりやすい言葉で見事に胸に迫ってくる。
著者の並々ならぬ筆力に感心した。
新聞記事で著者へのインタビューを読み、興味を持った本だった。
79年生の著者が80年代のはじめ、ほんの一年だけ、サーカスの下働きをした母とともにサーカスで暮らした体験をもとに、大人になってから当時のサーカスの関係者たちに会いに行く話。
見世物小屋時代からあるサーカスが、高度成長期を経てそのありかた、魅せ方が大きく変わる時代に実際にたちあった人たちの人生。
一言でいえば、過渡期にあったサーカス関係者のドキュメンタリー。
誇張もなく、さらりと語られているのに、私のこころをギュッと掴む、この感情はなんだろう。
この夏に、私もたまたまサーカスをみる機会があった。
義父がビジネスとしてそのサーカス団に関わったので、近しい話題として読んだ。
サーカスの華やかさと、あの哀愁。
開催期間がおわり、サーカステントのあったところは、たった数日で夢のように消えて野原に変わってしまう。
その瞬間に対して、サーカスの外からきて、魅せられたものたちは何かを読み取り、心が揺さぶられていたという。
一方で、サーカスで生まれ育ったものたちにはその感覚はあまりない。
彼らはむしろ、サーカスを《おりた》あとの社会との折り合いに四苦八苦している。
移動しつづけ、ゆるやかなサーカス家族のなかで生きた人たちには、定住を受け入れることが苦しいのだ。
それでも、子供が小学生になるタイミングで、サーカスをおりる人が多いのには、納得だ。
自分のような大人になってほしいか、なってほしくないか。
一昔まえより、そういう葛藤のある大人が多かったに違いない。
サーカスで生まれ育ったひとが、大人になってサーカスをおりたのち、本来サーカスが移動するタイミングにあわせて、精神が荒れて模様替えをしていたという話が印象的。
読みおわって、なぜか泣きそうになった。
まつりのあとの、この寂しさはなんだろう。
著者の真摯で誠実な書き方に、ただただ圧倒されてしまった。
著者の母もこの当時の体験を本にしているらしく、それも読んでみたいと思う。
私にとっては放浪していく世界は現代なのに異世界のよう。
ヨーロッパの旅芸人の一座、ロマニーの物語などを読むときと近い感覚でした。
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いい読書でした。
シングルマザーと小学生手前の「筆者」が
たった1年、寝食を共にしただけのキグレサーカス。
既に廃業して、その場所はない。
35年後に当時の芸人たちを訪ねていく。「れんれん」「懐かしいね」と当時のままの呼びかけで覚えてくれている当時の大人たち。サーカスの結びつき、なんかすごい。
「いてもいい場所」、村のような共同体。
今は探してもない。現存するサーカスは
エンターテイメント、ショービジネスだ。
おじさんになった筆者れんれんが、
あのウキウキした村、なんだったんだろうと
気になって確認したくて関係者に会いにいく
自分の歴史再訪のノンフィクション、かな。
郷愁を感じる作品。
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著者がキグレサーカスで過ごした時のことを書いた本かと思っていたが、その部分はメインではなかった。彼がいたのは小学校入学前の一年間だけ。母の久田恵さんが本を出しているので、実家に資料もあっただろうが、それを掘り起こすのではなく、当時サーカスで働いていた人々と連絡を取って話を聞くというスタイルだった。
子どもには見えていなかったところを彼らの証言が伝えてくれるし、サーカス興行の栄枯盛衰も見えてくる。
大衆演劇もそうだろうが、サーカスで育つ子どもは、あちこちで公演するため、学校を何度も転校する。ある芸人は小中学校で160回も転校したと言う。
この本に出てくる元芸人たちは、子どもが小学校入学の時にサーカスをやめるか、子どもを実家に預けている。
子どもはそれぞれなんとか成長したが、サーカスの芸人は親もサーカスの芸人で生まれも育ちもサーカスのテントという人が多かったため、やめてもなかなか実社会に馴染むことができず、ほとんどの人が離婚しているし、孤独死する人(主に男性)も多い。
テントを一から組み立てて、華やかな非日常を演じ、テントを解体し別の土地に移るという生活をしていると、非日常が日常になってしまう。
サーカスのメンバーは助け合い、苦楽を共にする家族のようなもので、居心地も大変いい。興行成績が良かった頃は、衣食住が保証された上で給料が出るのだから、羽振りも良かった。
しかし、実社会に出てしまうと、芸人としては素晴らしくても、それ以外の稼ぎ方を知らないし、学歴もない。同じ土地で暮らすことにそもそも慣れない。生活は苦しい。
サーカスの芸自体、やりがいはあるが、綱渡りや空中ブランコなど、失敗すれば命に関わる。(保険とかあったんだろうか?)
今の目から見れば、いろんな点で無理があり、日本にサーカス団体が少なくなってしまったのは仕方ないと思える。
しかし、その鮮やかさ華やかさ、芸のハラハラドキドキ、終わったときの満足感と切なさは、サーカスにしかない。
サーカスに対する愛惜の情が伝わる本だった。
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面白かったです!お母さんのことは知っていたけど、息子さんから見るとこんな感じだったのね。知り合いの知り合いが出てきてびっくり!
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サーカスの中で子どもが育つということは、ある意味幸せなことでもあるし、ある意味、今の日本社会では限界があるとも言えると感じた。
肉親以外の多くの人に関わってもらえるということは、昔の日本社会をほうふつとさせ、社会や地域全体で子どもを育てていく、子どもにとってはのびのびと育つことのできるいい面がある。しかし、サーカスで2ヶ月ごとの引っ越し生活をしていると日本では子どもが転校を繰り返すことになってしまう。以前、テレビでみたサーカス団員を家族にもつ子どものドキュメントでは、けっこう子どももその状況を楽しんでいるように見えたけれど、やはり友達ができてもすぐにお別れしなくてはいけないというのはつらいのだろうなあ。子どもが学校に通って勉強をするというのは、本当にそこまで必要なことなのかなあなんて考えてしまった。
一方で、サーカスの来る者拒まず去る者追わずの精神は、色々な背景を抱えている人にすごく優しいのだと感じた。サーカス団に入ってしまえば、みんな家族というチーム意識がすごく居心地いいのだろう。そういう場所って必要だなあと思う。自分がそのままでいられる場所。ちょっと憧れる。