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初めて購入した短歌ムック本です。
タイトルの『ねむらない樹』は笹井宏之さんの
○ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落とす
からつけられているそうです。
私も短歌を作り始めたので、この本を買った動機は笹井宏之賞でした。でも、読んでいくうちにそんな動機はふっとびました。
笹井宏之賞は短歌を詠み始めて1カ月と少しの私にはあまりにも遠く地球の裏側くらいの果てしなさだと思いました。百年早かったです。(笑)
入賞者全員7名の方は1990年代1980年代生まれで、何を詠んでいるのかさえ私には難しく感じられました。
それより何よりこの本はまるごと一冊笹井宏之さんが語られているのがよかったです。
穂村弘さん、東直子さん、土岐友浩さんの座談会では、東直子さんは、
「そこに笹井さんの作品が出て来て、詩情があってすてきだなと思ったんですよね。テーマとか肉体性とか現実の直接的な主張とか、そういったものからは自由で、言葉が醸し出す美しさとか楽しさ、はかなさ、そういったものを内的なファンタジーとして言語で表現することが新しい短歌として成立していたので、それがうれしかった」と語り、
穂村弘さんは、
「こんなに笹井さんの歌は伝わっちゃうんだ、自分の歌はあんなに伝わらないのにって(笑)。飛躍があるのに、笹井さんの歌はなぜか伝わる。詩の喜びみたいなものがすごくあるじゃない。これが本当の詩人か、みたいな感じ。やっぱり本物は伝わるんだな。なんて感想をもった」と語られていて、まさにその通りだと思いました。
論考では、山田航さんが、
「穂村弘は「ハートは庶民の十倍も庶民」であることを大歌人の条件だと述べており(「火の玉のような普通さ」「短歌の友人」)斎藤茂吉や高野公彦、俵万智、与謝野晶子らをその代表として挙げている。まともで庶民的で素朴であったからこそ、時代を超える普遍性を獲得した。笹井も同様の気質を持っていたように感じていた」と述べられています。
そして一番驚いたのは笹井さんが作歌した時期です。作り始めた翌年にはもう、何百首という歌が生まれていたそうです。それも、あの完成度で。
作歌は続けた年数もあるとは思いますが、才能がものをいうのだと思いました。
ここで、笹井宏之さんの歌を知らない方のために東直子さんの十選を載せます。
○えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
○「雨だねぇ こんでんえいねんしざいほう何年だったか思い出せそう?」
○この森で軍手を売って暮らしたい まちがえて図書館を建てたい
○みんなさかな、みんな責任感、みんな再結成されたバンドのドラム
○ねむらないただ一本の樹となってあなたのワンピースに実を落す
○こどもだとおもっていたら宿でした こんにちは、こどものような宿
○からだじゅうすきまだらけのひとなので風の鳴るのがとても楽しい
○折り鶴をひらいたあとにおとずれる優しい牛のようなゆうぐれ
○君でなければならなかったのだろうか国道に横たわる子猫の背
○とけてゆく君をきみへと収めつつ明けの一等星眺めをり