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タイトルにある「読書術」は本書の内容とほとんど関係なく、正直なところ誤解を招くものだった。
まえがきに「『週刊SPA!』での連載並びに本書の刊行に当たっては(後略)」とあるので、連載されていたQ&Aをまとめたものと考えられる。
全80回分の、匿名の読者からの質問に対して著者の佐藤優氏が回答していくスタイル。
質問内容は多岐にわたっていて、政治、国際情勢、人間関係など幅広い。また質問文が攻撃的であったり、悲観的であったり、思わず「ん?この人の認識はよろしくないな」って部分が多々あるが、佐藤氏は時に質問者の気持ちに寄り添い、時には、例えば齟齬や危うい思想があった場合には丁寧に指摘し、間違いがあれば正す。
人それぞれ、みんな色々思い悩んだり、課題意識を持って調べたり考えたりしている。
いかんせん、「自分の課題に対するソリューションを見つけ出す」という立ち位置から離れられない以上、自分なりに出す回答も視野は狭くなってしまいがち。
ではなぜ佐藤氏は情報を(比較的)正しく捉え、あらゆる質問へ回答が出来るのか。
それは読書と、新聞等からの最新ニュース、それに信頼できる専門家筋からの情報を幅広く大量にインプットし、大局的な視点から見て考えているからなのだと思う。
哲学、政治、経済、心理、人間関係、宗教、科学など、分野を横断する視点。
抽象と具体の往復、
マクロとミクロの往復、
こういった思考の立体性がまずあって、その精度・密度が非常に高い。
一部、質問に対して正面から回答していないものや論点からややズレたエピソードを深堀して回答しているものが散見される。
これらは、佐藤氏ならではの視点で、その課題に対して思考された際にこのようなアウトプットになるのだと考えられる。
一般的に、知的な思考・認識領域が広く抽象度が高い人との会話ほど、背景やベースとなる情報は暗黙化され、会話が飛躍しているように感じられてしまうものだ。落合陽一氏などは特にそうだ。情報密度が高すぎるために難解になりがちで、読者・聴者が置いてきぼりを食らう。
一方で、伝える、理解してもらう、ということに重きを置いている池上彰氏などは、その背景を順に丁寧に語ってくれるため、事前知識がなくても理解しやすく、非常に分かりやすい。(ネガティブに言えば、噛み応えが薄い。)
佐藤氏の文章はその点バランスがよく、頭が活発化する。見聞きしていてとても心地がいい。
自分だったらこの質問にどう答えるだろうか。
自分だったらどのような質問をしたいだろうか。
自分が質問されるような人に成るにはどうすべきか。
本書は質問とその解答という詳細以上に、そういった視点から読んで興味深い本だった。