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イスラエルの頑迷な態度が、国内のセキュリティ産業の勃興に支えられたものであること。イラク戦争後の「復興」事業にアメリカ資本が乗り出し、むしろイラク国民を敵に回していること。そしてイスラム原理主義組織の台頭。スリランカでの津波によるクリアランスとその後の民衆を排除する形での「復興」・・・。いずれも新自由主義的なイデオロギーを持ち込む「disaster capitalism 惨事便乗型資本主義」の仕業であり結果であるとされる。
では、民衆の側はそれにどう戦ってきたか。
筆者は特に南米地域での協同化や民主主義を求める運動に注目している。確かに南米地域のいくつかの国々では1970年代以降の(軍事)独裁政権から民主化を経て紆余曲折ありつつも、国際的な協力枠組みの追求と国内での足元での協同組織が追求されている。政治的民主主義だけでなく、経済的な民主化をも追求し始めていると言える。
そう考えると、社会民主主義が経済によって掘り崩されようとしているヨーロッパや、今まさに新自由主義の嵐の前に立つ日本は、南米地域に対してもはや「先進国」ではないのではないか。むしろその血で贖われた民主化の経験に学ぶべき「途上国」なのではないか。もちろんEU内でもギリシャなどでは緊縮に対する闘いが繰り広げられている。では、日本は?
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日本語のサブタイトルにあるとおり
これまでアメリカ(IMF、世界銀行含む)及びグローバル企業が途上国に行ってきた惨事便乗型(この惨事すらも意図的に起こすこともあるというもの)の資本主義について語られた本
拷問と重ねられてその様子が描かれていたり、丁寧なインタビューや調査を通して具体的に書かれており、説得力は抜群
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後編は資本主義かされていくロシアの状況、アジアの経済危機への関与から始まり、9.11を利用した米国内の状況、戦争というショックを利用したイラク戦争、さらに自然災害としての地震、ハリケーンの被害の利用の現状が語られる。
最後に中南米を中心に人々による反撃の萌芽が語られるが書かれているのは2007年の現状であり、その後の状況は必ずしも希望にあふれたものではない。
国内の現状を見ても相変わらず新自由主義的政策は「この道しかない」として強行されており、それに反対する運動は粘り強く続けられているが必ずしも十分な成果を上げているとは言いがたい。
12年前に出版された作品だが、新自由主義者がいかにして人々の不幸を利用してその勢力を伸ばしたか、その結果がなにを生み出したか、膨大な資料に基づき詳細に検討されている。必読。
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①テロ・戦争に際してのショックドクトリン→軍事やセキュリティ産業需要の利用(この際に現地人の雇用はせず、いかに土地を利用するかということに専念するため、貧富の差が拡大)
②自然災害に際してのショックドクトリン→災害によって一掃される原住民の土地をビジネス利用する
上記二つに関して語られている。上巻は経済的ショックがあった際に政治的介入も含めてのショックドクトリンについて話されていたため、やはり上下巻合わせて読むと良い。
終章にはショックドクトリンに対しての抵抗が記されており、希望も見えるものの、未だにこのショックドクトリンは世界にあると言えるだろう。
「資本主義」がどのように貧富の差を拡大させるかについて、「ショック」があった際にいか資本主義が猛威を振るいやすくなるかがわかる。これは資本主義の効用や特性、というよりは資本主義付けになってしまった世界の悪影響が災害時に出やすい、ということが示されている。
資本主義の構造を学べると思って手に取った一冊だが、資本主義の例、として読むにいい本だと思う。そのため、基本的な、資本主義構造を理解した上で読んだ方が良い。
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自らの豊富な体験に基づいてシカゴ学派の資本主義を批判しているが、考え方が偏っているように感じる。体験、聞き取りが主な根拠と思われ、疑問な点が残るため説得力にやや欠ける。批判については理解できる。
「国家は真の苦境に陥ったときにだけ自由市場という苦い薬を飲むことを受け入れる」p372
「まだ流血が続いているときこそが投資に最適の時期です」p472
「(シカゴ学派の言う自由とは)新たに民営化された国家を欧米多国籍企業が食い物にする自由」p476
「シカゴ学派のイデオロギーが勝利したところでは、どこも判で押したように貧富の差が拡大した」p649
「世界の成人人口の上位2%の富裕層が、地球上の世帯財産の半分以上を所有している」p649
「シカゴ学派の経済学者たちは、ある社会が政変や自然災害などの「危機」に見舞われ、人々が「ショック」状態に陥ってなんの抵抗もできなくなったときこそが、自分たちの信じる市場原理主義に基づく経済政策を導入するチャンスだと捉え、それを世界各地で実践してきた」p684
「フリードマンが提唱した過激なまでの自由市場経済は市場原理主義、新自由主義などとも呼ばれ、徹底した民営化と規制緩和、自由貿易、福祉や医療などの社会支出の削減を柱とする。こうした経済政策は大企業や多国籍企業、投資家の利害と密接に結びつくものであり、貧富の格差拡大や、テロ攻撃を含む社会的緊張の増大につながる悪しきイデオロギーである」p684
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今、新自由主義を進めようとしている社会に対して、我々の福祉まで売り渡してはいけない。あらゆる自治体レベルから国の政府まで、監視していくのは我々国民だ。そして声を上げなくてはいけない。もう声を上げる時は来ている。
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20/05/23。
6/3読み始め。
6/23読了。やっとこさ読み終わったぞい!
2000年代中盤までの話。その後、例えば南米国家の幾つかは、またまた親米・新自由主義へと変化した。それほど丁寧に国際ニュースを追いかけているわけでは無いが、日本の主要メディアには、南米ウォッチャーはいないのだろうか、という疑問を持ってしまう。
斉藤幸平さんの『大洪水のあとに』から白井聡さんの『資本論』入門書、そしてこの『ショック・ドクトリン』の流れで読み進めてきたが、次はナオミ・クラインの他の本に進むか、デイビッド・ハーヴェイへ行くか、はたまたアナキストへと進むか悩みどころである(笑)。
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この本は1970~2000年代までの新自由主義的改革の歴史書である。ファシズムを忌み嫌い、新自由主義による自由改革の結果、格差がおき、貧困が生まれる。大衆はその敵を移民だと扇動されてしまう。社会の分断が現在に通じる。世の中がファシズムに逆戻りとは皮肉である。この扇動に負けないため知識が必要である。惨事便乗による自由主義改革のエリートの方便に惑わされないためにも自分たちの力で物事を考える力を持たなければならないと思いました。
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一番印象に残ったのは終章のタイの事例。
津波被害からの復興を国や自治体に任せずに、
先んじて住民主導でどんどん始めたという点。
自力復興と呼ぶそう。
政治家は災害に乗じて海辺の土地をリゾート開発企業に売ろうと企んでいたが、住民は住んでいた土地にすぐに戻り、立入禁止の囲いを作り、皆で家を建て始めたというタフさ。
国や政治家を信じられないのは辛いが、災害後でも土地や生活を守る為にはショックから速やかに立ち上がり、やらなければならないことを即座にするタフな精神力が必要なのだと思い知った。
聞き分けよく待つだけでは守りたいものを守れないのだ、どの国でも。
コロナ騒動をみてても、お上の要請を素直に聞き入れた事で、結果大切なものを失う事になった人も少なくない。
災害は政治家にとっては大チャンス。
見極める目を持ち強かに。
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上巻に続き、各国の惨事に便乗するシカゴ学派の自由市場の強引なインストールを告発する。アジア通貨危機(単なる市場の噂から端を発した)、9.11のアメリカ(軍産複合体、セキュリティ企業に軍隊をアウトソース/国家とは何かという問題をはらむ)、イラク戦争(大量破壊兵器という嘘で侵攻)、スマトラ島沖地震(災害地区の漁村をリゾート地として改修/自由市場の結果としての貧富二極化)など。とどまることを知らないのかと思いきや、最終章ではかつてショックを受けた国々が、ショック記憶を元に再生していく記録があり希望を感じる。
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上巻に続き、惨事便乗型資本主義の正体を詳しく暴いている。ミルトン・フリードマン率いるシカゴ学派と政治支配者、超大企業、超富裕層、国際機関等が全世界に自由放任資本主義推進を押し進め、グローバル経済の名の元で世界支配を為し遂げている大罪の仕組みが良く分かる良書である。
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―ー2023.01.29読了
ナオミ・クライン―話題の著作
惨事便乗型資本主義の正体を暴く―『ショック・ドクトリン』
上下巻で本文686頁に及ぶ本書を読み通すのは、
些か骨が折れるハードなものであったが、
まさに、現代史探訪の書
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ここにはまことに恐ろしいシナリオが描かれている。
9.11以降「テロとの戦い」を立案した惨事便乗型資本家、政治家たちにとっては、それまでの軍事介入が収益性の高い環境を確保するという目的のための手段であったのが、惨事が目的そのものになった、とナオミ・クラインはいう。
ある種の多国籍企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらすからだ、と。
2007年に刊行された本書には、その後のパンデミック、ウクライナ戦争、天然資源不足、食料危機などが、どのようなカラクリで起こっているのかを読み解くカギがすでに含まれている。
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急進的な民営化や規制撤廃、社会支出の削減など自由市場改革推進をShockDoctrineと呼び、社会的緊張の増大につながると鋭く批判したナオミ・クラインの名著。
政変、戦争、災害など過去広範囲に及ぶケースを検証する。
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原理主義って怖い、と思った。いわば「べき思考」。この本で紹介されてるシカゴ学派は、弱肉強食の自由経済主義こそが民主主義よりも優先すべき原理だと主張する。彼らは自らの生命を信奉者に守らせ、安全な第三国から世界を「浄化」する。あくまで漁夫の利なのだ。