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題名にあるように、名画のなかで描かれた60の職業について紹介。だいたい4ページずつ、絵全体と当の職業人の拡大部分を載せ注釈をつける。なかなかの労作。
医者、乳母、執事、仕立て屋、といった「職業」から、王、王子、といった人、また市民というのもあり、市民がアイロンがけをしている、市民がスケートをしている、市民がバターをつくっている、の図などとても興味深い。
スケートでは「スケート靴を締める」ニコラ・ランクレ画1743年(ストックホルム国立美術館)が紹介される。この年代でスケート、靴の下に鉄の長い棒の靴あてのようなものをひもでくくりつけている。日本で戦前あった「ゲタスケート」みたいなものか。
市民がバターをつくる、では「バター撹拌器」ヴァレンタイン・キャメロン・プリンセプ画19世紀 で腿くらいまでの丸い木製の台形の樽状のものに棒をさし女性が撹拌している。
絵の中からこうやって職業を抜き出してみると、民俗学的にとても価値のある著作だなあ、と感じる。
著者の内村理奈氏は「名画のドレス」という本も書いている。あとがきではその続編とでもいうべき本だということだ。ただ絵画作品で描かれる服飾は、フィクションとリアルのはざまにあるような姿であるともいわねばならない、と述べている。が、描かれるものはその人物を表現するのに最もふさわしいものが選択されているはずだ、としている。
表紙は「救世主」ジャンヌ・ダルクである。
ジョン・エヴァレット・ミレイ画「ジャンヌ・ダルク」1865作 裁判記録では「女性の衣服を完全に放棄し、髪を短く刈り、シュミーズを着け、ブレー(男性の下穿き)を穿き、上衣を着ている。・・」とある。
2023.5.30第1版第1刷 図書館