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著者作品で、若くない世代が主役の物語は初めて読む。
長年連れ添った夫婦の、それぞれがそれぞれを喪った、という話をパラレルに展開する。
各エピソードもよいが、登場人物たちの人間味が至高。
いい人・わるい人、という分類が不適切な人物で二人の主人公を囲むこの構成は、絶妙な言葉選びや描写と相成って、起伏のなだらかなストーリーを極めて印象深くしていると思う。
話もキャラクターも温か過ぎるのかもしれないが、違和感なく、味わい深かった。
4+
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すごく不思議な小説だった。
春生と久里子という、50代目前の一組の夫婦の物語なのだけど、夫婦が揃ったところは一切出てこない。
なぜなら春生は久里子を病気で失い、久里子もまた春生を突然死という形で失っているから。
妻をなくした男と、夫をなくした女。そして高校生になる息子の亜土夢。それぞれの生活が交互に綴られた短編集で、どちらの世界が本物なのか、どちらも本物なのか、それともどちらも偽物なのか、不思議な感覚に包まれたままラストへ向かう。
ミステリではないので謎解きがあるわけではなく、両方の世界が同じ時間に並行して存在している、そういう小説。
幸せだったから悲しい。
春生も久里子も、パートナーをなくした後でそれぞれそのことを実感する。
時間とともに忘れていくのは悪いことではない。でもまだもう少し、引きずっていたい。忘れたくない。悲しんでいたい。
日々の生活のあらゆるところに亡くした人の影を見いだしてしまうのは、誰か大切な人を亡くした経験がある人ならば、よく理解できると思う。
この人と人生をともに行くんだ。そう思えるパートナーとすでに巡り会えている人ならば、尚更この物語は胸に響くと思うし、自分に起こったことだと想像して悲しくなるかもしれない。
でも不幸な感じはしない。むしろ幸福。
幸せだったから悲しい。なくした後そんな風に思える誰かと出逢えるって、切ないけれどこの上ない幸福だ。
温かい読後感の小説でした。
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主人公の加部春生は去年妻の久里子を病気で亡くし、今だにめそめそしていて、一人息子で高校生の亜土夢にも呆れられています。そして妻の久里子も過労死で夫の春生を亡くしていて、亡くなったその日の朝に、昨夜の小さな喧嘩がきっかけでちょっとした意地悪をしてしまったことを悔いています。
1章ごとに交互に主人公が入れ替わり、同じ人物がパラレルワールドのように登場し、物語が進行します。妻を失った夫と、夫を失った妻の、それぞれの優しさが溢れる感動の物語です。ずいぶん泣きました。
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切なくて穏やかな話。話の流れを理解するのに少し時間がかかってしまった。身近にいる人との時間を大切にしたいと改めて思いました。
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日常のちょっとした「何だろ、これ」が、気味悪さでなく、ついつい亡くなった人に結びついたり、似た背格好の人を見つけると「ひょっとして」と思ったり。大切な人を亡くした人あるあるだった。残されるって本当に辛い。体はなくなっても、その人がなくなるわけじゃないといいな。また会えるといいな。
あとがきを木皿泉さんが書いていて、そういえば作品の匂いが似てるなあと思いました。