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面白かった。特に1話目。最後の最後に隣人が蜘蛛女?だった事のホラー感と衝撃。文面を5度見した。これは、主人公が自ら外の世界との関わりを断ちだんだんカビが生えてしまったという隠喩にも感じるが、そもそもハエトリグモを故意に飢え死にさせていた事への罰が蜘蛛女の襲来なのかもしれない。でももっと遡るとこんな風になったのは、コロナ禍で出勤が減ってこの陰鬱な部屋に引っ越して来たから。人と会う事が減って身なりを気にしなくなって、どんどん社会性が失われていったから。そんな生活で何かしら溜まったストレスの捌け口が恐らく虫への加害のきっかけになったから。人に会わなすぎて判断力が鈍っていなければ管理会社はダメでも119番でレスキューして貰えば良かった。会社の人からの電話に出るだけでも良かった。でも彼女はそのどちらもせず、離れた家族には気を遣い、気軽に連絡出来る友もなく、色々な要因が合わさって破滅を迎えた。蜘蛛達にやってきたように、彼女はマンションと建物の間に落ちて終わった。
2話目、3話目も外の世界との関わりのせいで破滅する話だ。不気味で、生の感覚がなく、ずっと陰鬱な雰囲気。それが一つの部屋に押し込められた個人そのものでもあるようだ。「事故物件」「変な家」など、不動産ものとしてタイムリーなテーマでありながら住人達は皆いなくなってしまうから事故物件にはならないという皮肉さも良い。ずっと繰り返されていた向かいのビルの屋上で昼寝するデブ猫が最後に侵入してくるのも繋がる気持ちよさがあった。
文鳥はとても可哀想であったが、他者に与えられるもの・奪われることの理不尽さを感じ、よく効いていたと思う。3話目の主人公と文鳥の中身が入れ替わったのか、単に気がおかしくなってしまったのか。前者だったらちょっと救いがあるかなと思っているし、人間も文鳥も体の操縦に突然不慣れになっているので可能性は高い。文鳥とは〜っていちいち解説してるのは4章で出てくる作家個人だから、真実とは限らない。「自分が描いた絵に吸い込まれる部屋」だから、まぁあり得る。
最終話の画家の話は、なるほどねと思ったけどちょっと蛇足だったかも。彼?が部屋の外の話も知っているのは変だ、となる。それなら1〜3話のみで謎の第三者目線のまま終わっても別に構わなかった気がする。
引き込まれる文体で良いホラーを書けそうな作家さんなので、また他の作品も読んでみたいなと思った。読書体験としては良いものになった。
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とある街にある ( 恐らくはワンルームタイプの ) マンション。交通や買い物等の利便性が悪いというわけでもないのに、不思議なことに住人が居つかない 408号室。その入居者の変遷と各暮らしぶりを描いた短編集。
物語は、各話ごとに問題の部屋に入居する住人の視点で描かれる。
第66回 群像新人文学賞受賞作。
◇
初音羽奈子が引き籠もりに近い生活をするようになってから3ヶ月が経とうとしていた。正月明けから会社に出勤できなくなり、体調不良を理由に1ヶ月ごとの休職を延長して今に至っている。
その初音の趣味はハエトリグモを飼い殺しにすることだ。
部屋に侵入してきたハエトリグモを捕らえ、瓶に閉じ込めて放置する。そして飢え死にして干涸らびた死骸をベランダから捨て去る。別に心が痛むということはない。無断で部屋に侵入する方が悪いと思うからだ。
ある日、チャイムが鳴りインターホンに出てみると隣室の女性で、頼みがあると言う。
その頼みとは、ナンバーキーを押し間違えて部屋に入れなくなったので、ベランダ越しに移らせて欲しいというものだった。(第1話「初音」) 全4話。
* * * * *
奇妙な作品でした。4話とも異常な人たちが登場します。彼らは恐らく、自分自身や自分の人生に強い不満があるのでしょうが、なぜそんな行動に出るのかは理解に苦しみます。不可解なのに読むのを止められない。
特に印象的なのが第1話「初音」で、まるで『トワイライトゾーン』を観るようでした。
1話目と4話目はホラー仕立てで、まだストーリーを飲み込みやすい。
でも2話目「末吉」3話目「こがね」はなんと言えばいいのでしょう。読後のモヤモヤした気持ち悪さは格別でした。
第1話「初音」。
安部公房『砂の女』を思い出します。
やがて部屋から出ようとしても出られなくなる初音。ハエトリグモの祟りとか呪いなのでしょうか。 ( そうだとしたら自業自得です。)
隣室の女の正体と、初音はどうなったのかが知りたい。
第2話「末吉」。
運命を信じる女に拉致された末吉のその後が気になります。助平心からチャラい行動に終始した末吉が自滅したと言えます。
第3話「こがね」。
文鳥視点の話なのだけれどファンタジーとは言い難い。
友人から預かった文鳥「こがね」を置き去りにして失踪した住人 (若葉栞)。全てに嫌気が差したようですが、これも自爆に近いと思いました。
第4話「もぬけの考察」。
諸星大二郎『壁男』を思い出します。
売れない画家が、部屋の壁に調度類のリアリズム画を描き始め、やがて自身をも描き込んでいきます。そして、完成とともに男は部屋と一体化し、肉体は消滅してしまいました。
人間の実体を失ったのだから、画家の男は自殺と言えるかも知れません。
ところで、部屋をリノベしても男は部屋とともにあり続けます。新入居者のことを考えると気の毒でしかありません。やがてこの部屋は事故物件扱いになるのでしょうか。
読後はおかしな���とばかり考えてしまいました。
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やっぱり表題作がよかった。
その前の3作は、エピソードゼロ的な存在なのかな。
なんとなく不穏、無気味。
つい引き込まれる。
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408号室の住人が次々いなくなる…そんな部屋の住人になった人たちを描いた4篇の連作短編集。
家賃が安いのはそれなりに理由があるものですね。でもいくら安くてもポストの鍵が壊れてて前の住人宛の郵便物がそのまんまだったら最初から選ばないな~。ホラー要素たっぷりだったけど蜘蛛の話が1番気持ち悪かった。何でドアが開けなくなったの?色々想像してしまった。そして我が家には小さい蜘蛛がよく出没するんですよ
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シュールすぎる。最後の話から考察すると、この人の後に初音さんや末吉さんが引っ越してきたって事なのかな?最後の話の主人公が「花房千紘」さん?この人が住人たちを見て考察して文章を書いているから、こがねの章の主人公の名前が分からず「住人」となっているのかな
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前の住人が長期不在で、契約切れになり、貸出されている物件。
もぬけの殻となっていたこの部屋についての考察。
408号室。
ポストには、前の住人のものと思われる郵便物がパンパンに入っていた。
ドアが開かない?なぜ?
ドアが開かないので、外に出られない。2週間も出られない。
ベランダから隣の部屋へ!
なんと隣の部屋には人がいてこちらをみている。ただ見つめ合い怯えるだけ。
救いを求めて説明すればいいのに、できなかったのだと思う。
そして、、、え?落ちたってこと?
怖い。
え、新しい住人の男子大学生は、殺されたってこと?
またまた、円満退所ではない感じで、この部屋が不吉。
それが繰り返されている部屋。
最後の話の主人公が「花房千紘」さんなのかもしれない。
この人が、この後に入居する住人たちを見て考察して文章を書いているのかも。
事故物件ではないけれど、ほぼ事故物件!
ここに住む人は、きっと所在不明になりこの部屋を出ていくことになる。
ホラーのような怖さがある本。
第66回群像新人文学賞受賞作。
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ちょっとホラーテイストで序盤の初音は面白く、末吉、こがねも悪くはないが、少しづつテンションが下がっていき、もぬけの考察で話の全貌が見えるが、なんていうか、読みやすく良いのだが、普通感が否めなかった。
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悪くはないけど、Fコード で挫折したギターは薄っぺらかったね
P96大体の絵画というのは描いた物の名前を絵画のタイトルに付けがちであるが、描かれた物そのものに何かの価値はあるのだろうか? 絵というものは描いている間に考えていたことにこそ価値があるのではないかと私は常々思っている。
蜘蛛を飼い殺す休職中の住人、ナンパをして女に居付かれる住人、文鳥を預けられた住人、部屋を描く住人
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読解力が足りなかったのかもしれないが、内容が薄いというか、なんとなく不可解なできごとを並べて終わり、と感じた。結末がはっきりすることは求めないけれど、よくわからぬまま終わるわりにその先を想像して楽しむ余地もなくて、うーん?って。
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朝日新聞の「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた」というコーナーで紹介されていたもの。
著者は、会社勤めの傍ら、趣味として小説を書き始め、本書で群像新人文学賞を受賞。
肩肘張らない「ちょっとした怖い小話」みたいな雰囲気がよい。
本来、中身があった筈のところから、中身だけが失くなっている=「もぬけ」の部屋への考察である。
コロナで私たちはそれぞれの部屋に籠る生活を余儀なくされた。他人と交わらずひっそりと為されてきた日常。そこで何が起き、どう狂っていったのか。ついつい、隣家の事情に耳を澄まし、想像を逞しくしてしまいたくなる。
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治安の悪い場所物件のマンションの408号室の住人は次から次へといなくなる。蜘蛛を瓶に入れベランダに放置する女、ナンパする男末吉、インコを預かった女、壁の中の絵に同化してしまった女、みんなどこかへ姿を消す。ポストに溢れ出る前住者の手紙チラシ類やいるのかいないのか怪しげな管理会社。ジワジワ怖い。
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とても好きでした。コレクターズ・ハイから先に読んだので、また違った作風で良い。
ホラー大嫌いな私でも面白く読めました。
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「こがね」は訳が分からなかったけど,読み返す気になれず~突然会社に出られなくなった女は,12階建てのワンルームマンションの408号室で侵入者(といっても蜘蛛)を飼い殺しにしていたが,隣に越してきた新社会人が鍵を掛けて部屋をでてしまったと,ベランダからの入り込みを求めて部屋に入ってきた。やがて,外に出ようとして玄関ドアが開かなくなり,ベランダ越しに隣の部屋から出ようとして蜘蛛に捕らわれてしまう。二浪して大学に入り一人暮らしを始めた男は夜な夜なナンパに出掛けて初めて連れ込みに成功した女が408号室に出入りをし始めると嫌気が差してきたが,それを告げた女に薬入りのコーヒーを飲まされて,縛り上げられて運び去られる。一週間限定で文鳥のこがねを預かった408号室の住人が,可愛いと思えたのは初日だけ。ペット禁止の規則にはらはらし,ある日突然朝起きて部屋を出たきり戻らなかった。408号室に越してきた女は,前に住んでいた人に思いを馳せながら,部屋の様子を壁に描き始め,最後に自分を描いて,その中に入り込んでしまった~『群像』新人文学賞受賞作だってから,表題の「もぬけの考察」から読み始めて,最初に戻って「初音」を読んで・・・おーい,どいつもこいつも少しは外に出ろよぉーと思ったんだけど。よく考えたらコロナの影響なんだと納得した。「こがね」の住人って,てっきり男かと思ったぜ!
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あれ?これホラー?の1章から読み進め、この不気味さをどう受け取ればよいかと思案していると、最終章「もぬけの考察」でノックアウトされる。
描くとは、書くとは、の考察にしびれる。
遠野遥の破局の主人公を思わせる部屋の住人たちには、どれも顔がない。
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怖っ。
タイトルと表紙イラストが興味を引いて良いですよね。タイトル通りの内容だったし。
中身も、著者の次作も読んでみたいな〜どんな話を書くんだろう、と楽しみにさせてくれる本でした。
賃貸時代は、ある程度の年月をそこで暮らし慣れ親しんだ空間になったとしても、この部屋に昔知らない人が住んでいて、これからまた知らない人が住んでいくんだよな〜と不思議な気持ちになることがあった。その循環の1人になっていた。