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EV開発の最前線が分かる作品。
一部の人はなぜ車で移動しなければならないのか。
それに対する最終解決策がなければ、地球の破壊は止まらない。
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なぜ世界はEVを選ぶのか 最強トヨタへの警鐘
欧州を中心とする一連の取材ではっきりと見えたことがある。「世界的なEV シフトの" ー番〃の目的は、環境保護ではない。目的は産業育成と雇用の創出にある」ということだ。環境保護を前面に押し出しているのは、「競争をするなら社会正義がありそうな土俵で戦う」という意味合いが強い。
欧米中の政府や自動車メーカーは様々な矛盾を抱えながらも、産業競争に勝ち、雇用を確保するためになりふり構わず動いている。「何が正しいのか」を議論することは大事だが、議論のために立ち止まったままでは、拡大するEV市場で龍いてきぼりになりかねない。
第1章 攻めるテスラ、BYD、どうするトヨタ、フォルクスワーゲン?
テスラやBYDが市場からの評価を高めた最大の理由は、やはりEV販売だろう。調査会社マークラインズによると、世界の販売台数1位はテスラで約127 万台、2 位がBYDで約87万台だ。それに対して、フォルクスワーゲンは4位の56万台。トヨタに至っては2万台にとどまり、28位に沈んでいる。
もちろん、EVが世界の自動車販売に占める割合はまだ10%程度にすぎない。数万台規模の販売に順位を付けることにあまり意味はない。それでも、テスラや丫BDYとトヨタとの間には文字通り「桁違い」の差があることは知っておくべきだろう。
営業利益率で突出しているのはテスラだ。同社の22年12月期の営業利益率は16.8% 。トヨタの7 7.3%より大幅に高い。これは、テスラが1 台から稼ぐ額が突出していることによるものだ。EVの中でも高価格帯の車種が多いテスラは、販売1 台当たりの営業利益が約1万ドル(約140万円)に達し、トヨタのそれを大幅に上回る。
テスラのマスク氏とBYDの王氏には多くの共通点がある。まず、2人ともその生い立ちにおいて、起業しやすい環境が整っていた訳ではない。
共にハングリー精神にあふれている。そして、会社の自動車事業が軌道に乗る前からビジネスモデルへの評価が高かったのも共通点だろう。 両者はそこで満足することなく、地道に技術やビジネスモデルを磨いてきた。
マスク氏も王氏もこの数年のこV ブームでスターの座に駆け上がったのではない。長い下積みの経験の上に今があるのだ。
テスラとBYD はEV時代に稼ぐビジネスモデルを確立しつつある。キーワードは「垂直統合」だ。両社は10年ほどかけて、商品開発から材料の調達、生産、販売までのバリューチェーンの主要部分を自社で手掛ける体制を整えてきた。
テスラはEVの企画・開発から主な部材の調達、E V の生産、販売を自社で一貫して担っている。特に電池の生産にはこだわっており、半導体設計やソフトウェア開発も早くから重視してきた。電池材料を生産する鉱山会社とも直接契約し、充電インフラも整備するという徹底ぶりだ。また、販売ディーラ—を通さずにオンラインで直接販売できる点も大きい。
既存の自動車大手はディ—ラーとの長い関係があるため、直販への移行は簡単ではない。
製品を開発するだけでなく、内部の部品やソフトも自ら手掛け、販売や充覚インフラなども担って垂直統合を突き詰めるテスラの経営は、石汕事業で財をなした米国のジョン・ロツクフェラー氏を彷彿とさせる。ロックフェラー氏はコスト削減のために垂直統合を進め、石油のドラム缶まで生産したという。圧倒的な安値で競合他社を疲弊させ、一気にシェアを高め、石油メジャーの原型をつくった。
石油の時代を終わらせる使命を掲げるマスク氏の経営戦略がロツクフェラー氏と重なる部分があるのは、競争戦略の本質を示しているかもしれない。このスピード感とスケール感に、既存の自動車メ—カーは対抗できるのだろうか。
既存の自動車大手にとって大・一番となるのが、25年以降の〃第3世代〃のEVだ。用途に合った乗り心地や車内の機能をソフトウェアで定義するEVであり、第2世代以上の量産効果を狙える。
しかし、開発は簡単ではないだろう。まず、従来の開発体制がネックになる。エンジンを中核として細部を設計しながら車種を開発していく体制と、電子基盤(プラットフォー厶)に載せるソフトウェアで車両の機能を定義していく体制は、発想が根本的に異なる。これまでの開発体制を根底から壊して、ソフトウェアを中心に各部署が一体となる必要があるが、巨大な自動車メーカーにとって簡単なことではない。
さらに根本的な問題もある。08年のリーマン・ショック以降、自動車大手は開発効率を高めるために、自動車開発の重要な部分の多くをサプライヤ— に委託してきた。結果として強大な力を持つ部品メーカーが生まれ、「メガサプライヤー」ともてはやされた。エンジン車の開発における効率的な分業を迫求してきた分、EV時代に合わせたビジネスモデルへの変化が難しくなっているのだ。
第2章フォルクスワーゲン 地獄からのEVシフト
エンジンを中心に成り立ってきた自動車産業の強固なエコシステム(生態系)を変えようとすると何が起こるのか。様々な問題を抱えながらも進む、フォルクスワーゲンの大変革を追った。
20年春にグループの幹部を巻き込んで開催したワークショップでは、こう問いかけた。「テスラに24年までに技術的に追い付くために、 向こう6 力月で何を達成しなくてはならないのか」
その後、「従来のグループの枠では、テスラのスピードと実行力に到逹することはできない」と語ったディース氏は、先進技術の開発をアウディに集中させることを決断。24年にテスラを超えるEVを開発することを目的とした「アルテミス・プロジェクト」を立ち上げた。社内では打倒テスラの意味を込め、「ミッション丁」と呼んだ。
18年にCEOに就任したディース氏は、従業員から目の敵にされていた。一般にEVはエンジン車に比べて部品点数が少ないため、生産台数当たりの必要人数が減るとされる。実際にディ— ス氏は、将来の投資に備えた雇用削減の可能性について何度も言及し、従業員の反発を招いてきた
有無を言わさず解任した。理由の一つは、ソフトウェア開発の遅れだ。ディース氏はEVシフトと並行してソフトウェア開発の強化を進めてきた。だが、開発は思うように進んでいないもようだ。
「ドル箱」だった中国での苦戦も理由の一つだろう。とはいえ、根底にあるのはやはり従業員との深刻な対立だ。21年7 月に任期の延長が決まった直後も、リストラ計画を巡り従業員と対立していた。度重なる���突に、創業家もディース氏を守り切れなくなった。
第3章 これはトヨタの未来か フォルクスワーゲンが直面する5つの課題
EVシフトを進める中で、フォルクスワーゲンが乗り越えるべき課題は徐々にクリアになってきた。大別すると、以下の5 点に集約できる。
①EV以外の選択肢の模索
②ソフトウェアの開発
③安価なEVの開発と利益率の向上
④次世代の革新的なEVの開発
⑤モビリティー事業の収益拡大
フォルクスワーゲンは課題を認識しているからこそ、トリニティー・プロジェクトに乗り出した。開発するのは「ソフトウェアが定義する自動車」(SDV)実現するためのEV向けプラットホ—ムだ。対象はハードウェアだけではない。
ホンダの三部敏宏社長は23年4 月の記者会見で、「中国メ—カーのSDVはさらに進化していると聞いていたが、現地で見てみると想像以上に先を行っていた。違う価値を出さないと負けてしまう」と危機感を示した。
第4章 「欧州の陰謀」論から世界の潮流へ
欧州の電気自動車EVシフトへの反応は大きく二手に分かれる。一方は「エコカー競争で日本勢に敗れたが故の無謀な企てであり、技術が伴わず、いずれ頓挫する」という見方。もう一方が「世界的な二酸化炭素削減のロードマップに基づいたもので、米国や中国も追随しているため日本勢もキャツチアップすべきだ」との意見だ。
EVシフトの潮流は欧州, 中国・米国にとどまらない。東南アジアでも、タイ政府が30年に新車生産の30%以上をZEVとする目標を掲げ、 現地生産のEVを対象に購入補助をするメニューなどを用意している。インドネシア政府もEV優遇策を打ち出しており、既に韓国メーカーや中国メーカ—によるEV生産が始まっている。
第5章 EVユーザーの実像 もはや「ニッチ」ではない
世界的に需要が高まった背景には、主に3つの要因がある。1 つ目は規制だ。例えば欧州連合(EU)は20年を基準に、1 キロメートル走行当たりの二酸化炭素排出量を平均で95グラム以下に抑えるという規制を課した。規制を何とかクリアするために各メーカーがEV販売を増やそうと躍起になった
2つ目は政府の支援策だ。各国政府がEVの購入補助を用意したほか、自動車関連税の控除もある。欧州では企業がEVを導入した場合に法人税を軽減したり、社員の所得税を控除したりする制度がある。
3つ目は、燃料価格の上昇だ。ウクライナ戦争の影響でエネルギー供給が制約を受け、22年には欧州のいくつかの国でガソリンやディーゼル燃料の価格が1リットル当たり300円を超えた。一時は走行距離当たりで電気代の方が燃料代より安い状況に拍車がかかった。
様々な優遇制度がある「EV先進国」のノルウエーでは、新車販売に占めるEV比率が22年3月に8割を超えた。ノルウエー政府は25年に新車販売の全てを排ガスゼ口車にする目標を掲げており、その目標に着々と近づいている。
第6章 高級車勢は「EV専業」 ボルボ・メルセデスの深謀遠慮
カジュアルなパンツにスニ—力—を合わせた姿のローワン氏は、世界中のメディアに語りかける。
「ソフトウェアによって真に定義される最初のボルボ車だ」
このローワンCEOの存在そのものが、今の��動車産業のトレンドを象徴している。口—ワン氏は個人用携帯情報端末で一世を風靡したカナダのプラックベリーなとで20年以上、製品開発などに携わってきた。自助車好きの「カー・ガイ」というより、デジタル産業に詳しい「テツク人材」のイメージが強い人物だ。
エンジンで世界中のファンを引きつけるイタリア・フェラーリも、IT業界出身のビーニャ氏をCEOとして招いた。
ボルボの先進技術担当役員のヘンリク・グリ— ン氏に独自〇5 の開発スピードが速い理由を尋ねると、「ソフトとハードの開発を分離し、ソフトの開発に経営資源を集中投下したから」という答えが返ってきた。
ボルボはEX90を「車輪上のコンピューター」と明確にうたっている。ハードからソフトへ。自動車産業の付加価値の源泉が大きく変わりつつある。
この10年ほど、自動車業界の秩序を破壊してきたのは、テスラやグーグルなどの新規参入者だった。既存メーカーは攻めつつ守るという、よく営えば「両にらみ」、悪くきえば「どっちつかず」のスタンスを示してきた。それが、結果的にEV専業であるテスラの価値を際立たせることになった。
ボルボがここまでサステナビリティーにこだわるのは、若い世代の顧客を意識しているからだ。1990年代以降に生まれた2 世代なども重要な顧客層と見る。そうした顧客の目線に立てば、サステナビリティ—が商品競争力を左右する要素になると考えている。
第8章 テスラとBYDの野望 電池と充電が
生む新ビジネス
電気自動車シフトを進める欧州にとって、 最大のボトルネックになっているのが電池だ。EVのコストの3 〜4 割を占めるとされ、その価格や生産量はEV生産の同行を大きく左右する。欧州や中国、米国でEVの需要が高まったここ数年は、電池の供給が追い付いておらず、売り手優位の市場になっている。
日本の電池メーカーはその後の市場拡大に追従できなかった。捽国勢や中国勢は、もともと得意とする大規模投資に向けた素早い決断に加え、技術力の向上でも日本勢を突き放していった。
第9章 EVリストラの震源地 部品メーカーの
下克上
日本の完成車メーカーはEVの生産量が少ないため、系列の部品メーカーが電動アクスルの量産化やコストダウンで遅れる懸念がある。そうなれば系列の部品メーカーは、系列外で競争力のある電動アクスルを製造する部品メーカーにシェアを奪われるリスクがある。EVという新市場が拡大する中で、完成車だけではなく部品メーカーでも下克上が起こり得る。
第10章 EV化で仕事がなくなる? 労働者たちの苦悩
欧州で1 〇〇年以上の歴史を持つフォードが2023年2月、EVシフトに伴う欧州での人員削減を発表した。今後3 年間で關発と管理機能を縮小し、約3800人の屈用を削減する。欧州全体の従業員の約1 割に当たる。
リスキリングで大胆な動きを見せているのが自動車部品で世界最大手のボッシュだ。EVシフトなどで事業構造が変わりつつある中、世界で約40万人を対象とするリスキリングに力を入れる。既に21年までの5 年間で10億ユーロ (約1500億円) を投じて従業員のリスキリングを支援してきた。さらに22年からの5 年間で再度10億ユーロを投資する予定で、投資額は10年間で20億ユ��ロ (約3000 億円) に上る。
第11章 「出遅れ」トヨタの課題と底力
トヨタとしては想定していなかったと見られる事態が起こる。まずテスラのEV販売が米国で伸び始めたのだ。マスクCEOが陣頭指揮を執り、必死の開発で製品力を高めたことが身を結んだ。協業して手の内を知っていたトヨタは、テスラについて「モノづくりができない」と油断していた部分があったのかもしれない。
トヨタの新経営陣が置田社長の時代から引き継いだのが、「マルチパスウェイ」戦略である。各地域の事情に応じた最適なパワートレーンを導入するという「全方位戦略」だ。佐藤新社長はEVについて発信は増やすものの、「マルチパスウェイという考え方は一切ぶれることなく、変わっていない」と強調する。
今は経営における優先順位をつける必要があるのではないだろうか。中西孝樹アナリストは、「多様な技術を開発する必要性は理够できるが、まずはEVで勝たなならない局面になっている」と指摘する。なぜなら、欧州や中国、米国という巨大市場で販売が急増しており、競合他社が全力での開発を進めているからだ。
特に専業—カーは組織をEV の開発や生産に最適化している。トヨタやフォルクスワーゲンなどの自動車大手は、従来の組織を抜本的に変えなければ専業メーカーのスピ—ドに勝つのは難しい。ドミニの古谷晋氏は、「電力会社でも全ての技術にくまなく投資する企業は苦戦している。EVだけに投資する" ピュアプレー" のテスラに、エンジンなど様々な技術に投資するトヨタが勝てるとは思えない」と指摘する。
日本は本音と建前を使い分けながら政策を導入し、国際的なスタンダードを取りに行く戦いが得意ではない。EVの分野でも、ルールやビジネスモデル作りで後手に回っているのが現状だ。
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日経BPのサイトでよく紹介されているので気になった本が、図書館に早速入っていたので予約して借りた。
ロンドン在住の記者が書いた本で、EV化が進む現状を取材に基づいて書いている。途中のインタビュー記事もきになる。はたして、2030年はどんな世の中になりますか。
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自動車大手各社へのインタビューに基づいた記事、数字の分析がメインを占める。欧米、中国のメーカーはいづれもEVへの投資、移行の方針。
日本はトヨタについての記事のみ。日産、本田、マツダ等は言及ほぼなし。また部品メーカーへの取材もなし。
以上のようにEVを取り巻く現状の把握には役立つ本だ。
トヨタ批判あり。
読了180分
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2020年から、ロンドンでEVが増えた。
欧米中でEVシフトが鮮明。
化石燃料を使った電気で走るEVより、HVのほうがCO2削減効果があるのは事実。正しいことを議論するのではなく、現実に対処する。
自動車産業の主役は、テスラ、BYD、VW、トヨタ。
EVは世界の販売台数の10%程度。
テスラとBYDは、オンラインで直接販売する。電池や半導体を外販する。
トヨタとVWは、垂直統合システム。EVのモデルを確立できていない。
VWは元国営の保守的な会社で、ディースは相いれなかった。
アウディは新型車をすべてEVにする。
ヨーロッパの2035年規制の中で、eフュエールが認められた。コストが高いので、HVの追い風にはならない。電動化が難しい航空機向け。
EVのほうが儲からない。電池のコストが高い。
2035年には、EVのほうがガソリン車より安くなる。
ノルウェーは、販売比率の8割がEV。
中国ではガソリン車用のナンバープレートが競売になり高値がついている結果、EVを買うことになる。
ボルボ、メルセデスはEV専業への宣言をしている。メルセデスは小型車を廃止、高級車市場で勝負する。
ルマン24時間はエンジン車の祭典。
フェラーリらしいEVを開発中。
ポルシェは水素エンジンも検討中。合成燃料を開発中。
電動アスクルの開発競争。ニデックなど。今後は外注するようになるという目論見がある。
セーレンはEV向けの合成皮革を作る。
ドイツの労働組合は、週休3日とリスキリングで、EVシフトによる労働力削減に対処しようとしている。
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自動車産業の大転換を、日本企業、特にトヨタを応援する姿勢を崩さずに、それでいて、欧州、米国、中国とバランスよく取材してまとめた一冊。カギとなる企業CEOへのインタビューやEVユーザーの声などが掲載されていて、現場感が伝わり役に立つ。
2024年初頭で、トヨタが最強であることは確かだと思うが、ダイハツの偽装など中身が脆弱になっていないか心配である。
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自動車産業の行末が自分のいる業界にも影響があるため読んだ
将来的に販売車の半分がEVに置き換わるという予測がある中トヨタは遅れをとっている。
EVへのシフトを準備しなければ将来生き残れないと強く警鐘を鳴らしている
米、中と数百万台単位でのEVを売ってるが、日本はまだまだ。価格がやはりネックか
現在の価格だとアーリーアダプター層までしか広がらない。