紙の本
日本の「読者」への手紙
2002/07/27 15:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:呑如来 - この投稿者のレビュー一覧を見る
手紙という形式をとりながら、短篇集としての完成度も高いエッセイ集です。フランスの核実験ヘの反対表明としての手紙、天皇制の欺瞞を自己の戦争体験を通して問う手紙、ギュンター・グラスとの往復書簡、などなど、大江健三郎でなければ語れない語り方で様々な問題が提示されているのですが、それは読んでいる私たち自身の問題としても誠実に受けとめるべきものだと感じさせられます。
小説というものが抽象的な意味での作者から読者ヘの手紙だとするならば、このエッセイ集はもっと具体的な、より身近な、われわれ読者ヘの対話ヘの呼びかけなのでしょう。このような仕方で物事を伝えることの出来る作家が同時代に存在するということだけでも、まだ世界に絶望するのは早いという希望を与えてくれます。
投稿元:
レビューを見る
文章を書くとき、誰かに何かを伝えようとするとき、私は常に主語を「私」としてから始めたい。これを読んで以来、決めていることだし、他者に対する自分のあり方にも大きく影響していると思う。だから、オーケンは私にとってオールタイムベストなのだ。
投稿元:
レビューを見る
核の問題を世界的な流れの中にある日本として捉え、平和とつなげてお話をされている本で、こういう素晴らしいノーベル文学賞作家のおっしゃることを日本人(私も含め)はスルーしてきたのではないかということが、悲しくも、申し訳ないように思う。大江健三郎さんの本は昨年から急に読み始めたけれど、今の時代を先取りしているように思う。決して古臭い純文学ではなくて、人間そのものを深く深く見据えていてその先を無意識に描かれているので、未来的だと思う。新書は難解ではなく読みやすいです。…という感想を原発事故前に書き込んでいました。そして今原発事故が起こってしまうと、この本を読んでいてよかったと心から思っています。予言はしていません。でもそうなってしまったときの心のありようを準備することが、自然に出来ていた気がします。生き残るために必読です
投稿元:
レビューを見る
「日本の「私」からの手紙」大江健三郎著、岩波新書、1996.01.22
214p ¥620 C0295 (2019.11.06読了)(2005.12.24購入)
【目次】
フランス核実験をめぐる手紙と感想
天皇が人間の声で話した日
日本人はアジアで復権(リハビリテイト)しうるのか
希望と恐れとともに
日本人は年とともに改良されたか
ギュンター・グラスとの往復書簡
信仰する人たちもそうでない私らも
平和への文化のために
時代から主題をあたえられた
後記
☆関連図書(既読)
「死者の奢り・飼育」大江健三郎著、新潮文庫、1959.09.25
「ヒロシマ・ノート」大江健三郎著、岩波新書、1965.06.21
「沖縄ノート」大江健三郎著、岩波新書、1970.09.21
「万延元年のフットボール」大江健三郎著、講談社文庫、1971.07.01
「個人的な体験」大江健三郎著、新潮文庫、1981.02.25
「静かな生活」大江健三郎著、講談社、1990.10.25
「あいまいな日本の私」大江健三郎著、岩波新書、1995.01.31
「恢復する家族」大江健三郎著・大江ゆかり画、講談社、1995.02.18
「ゆるやかな絆」大江健三郎著・大江ゆかり画、講談社、1996.04.10
「「自分の木」の下で」大江健三郎著・大江ゆかり画、朝日新聞社、2001.07.01
「「新しい人」の方へ」大江健三郎著・大江ゆかり画、朝日新聞社、2003.09.30
「同じ年に生まれて」小澤征爾・大江健三郎著、中公文庫、2004.01.25
「大江健三郎『燃えあがる緑の木』」小野正嗣著、NHK出版、2019.09.01
(「BOOK」データベースより)amazon
フランス核実験に反対する手紙、米誌への寄稿「天皇が人間の声で話した日」、韓国での講演「希望と恐れとともに」、ドイツの作家G・グラスとの往復書簡、国連大学での講演など、世界に向かって、ノーベル賞受賞後の一年間に発表された思索の結果をまとめる一冊。それはまさしく、日本のありかたを自問するいとなみの集積である。