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ルーシー・ウッドの短編集。本邦初訳。
表紙が良く、ジャケ買い。
ジャンル的には幻想文学か。コーンウォールに伝わる伝承が日常に溶け合っており、不思議な余韻を残す短編が多い。
非常に良い作品もあったのだけど、いかんせん文章が入ってこないことが多かった。霧の中を彷徨う読み応えなら良いのだが、どちらかというと泥の中を歩く感じ。なかなか時間のかかる読書になった。以下、作品ごとの感想。
◎潜水鐘に乗って
48年前に生き別れた夫に会い、海の底へ向かう老婆の話。沈んだ船にまとわりつく死霊なのか精霊なのか。相手が死んだ時のまま変わっておらず、自分だけが年老いたため声をかけずじまいの最後が切ない。
◎石の乙女たち
体が石になる女性の話。あと数時間で石になってしまうのに、昔の恋人から新居の確認を頼まれて断れない。石になるまでの時間が少ないことの焦りと、元恋人ののんびりさの対比がユニーク。
◎緑のこびと ★おすすめ
母親の使っていた塗り薬を塗ると妖精が見えるようになった女性の話。有名な妖精に連れられていく子供の伝承話が元だろうか。妖精の邪悪さが垣間見えて良い。
◎窓辺の灯り
難破した船乗りの幽霊と同居することになった女性の話。どこか息苦しい感じがする。会話できる幽霊が結構理不尽。
◎カササギ
車で轢いてしまったカササギが何か言ったような気がして、カササギを追う男の話。妻も男が体験したことを共有しているようで、言わなかったことまで夢に見る様子。結局はあったかもしれない別の人生に焦がれる男の、幻想色が強い作品。
◎巨人の墓場 ★おすすめ
原野にある巨人の墓場で一夏を振り返る少年少女の話。少年の父が巨人だったようで、大きくなることへの戸惑いと焦りを感じている。少女とは住む世界が違うことをなんとなく予兆させる終わり方。
◎浜辺にて ★おすすめ
海難事故で夫と多分息子も亡くし、その後から海岸の洞窟で暮らす祖母と祖母を訪れる孫の話。ブッカ(嵐を呼び込む妖精?)の存在が示されるが、災害の擬人化(悪さをすると的な)のようで。祖母と孫の関係も永遠に続かず、終わりが近いことが予感される。ラスト、終わりが近いからこそ、ずっと忘れられない風景を二人で見れたことの余韻が良い。
◎精霊たちの家
家の精霊たちから見た家に住む人々の移り変わりの話。色々な人が入れ替わり立ち替わり住むが、それを影から見守る妖精たち。色々な家族の一生のようでどこか切ない。
◎願いがかなう木
母の友人を訪ねる親娘の話。目的地までの途中で寄る「願いがかなう木」に何も願うものがない娘。母と二人、毎日を過ごせることが一番の願いだからなのか。
◎ミセス・ティボリ ★おすすめ
新設された老人ホームの受付の女性の話。老人の一人ミセス・ティボリから、様々な情景を見せてくれる霧の入った小瓶を紹介される。見せてくれる霧は過去だったり、未来だったり。老人ホームを舞台に魔女との日常が描かれた作品。
◎魔犬
原野近くの家に住む父娘の話。夜毎聞こえてくる魔犬の遠吠え���中、星を見にいく二人。どこかぎこちない父娘を描いた作品。
◎語り部の物語
地域の伝承、伝説を忘れてしまった不死の語り部の話。久しぶりの語り部の仕事で記憶が徐々に戻り、伝承、伝説は蘇る。