紙の本
『彼女が生きてる世界線! 3 失われた生存ルートを求めて』
2024/04/06 22:06
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投稿者:百書繚乱 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「僕」は28歳で独身のサラリーマン
トラックにひかれて死んだはずが、気がつくと生前に大好きだったアニメ『きみある』の世界に転生していた
転生先はアニメの悪役、“雲英学園の悪魔”と恐れられている城ヶ崎アクト
僕=アクトは『きみある』の最終回で死ぬことになっている悲劇のヒロイン葉山ハルを救うべく、ある手がかりをもとに旅に出るが、ハルの病気は進行し原作どおり死が近づいてくる
《アクトよ、結末[うんめい]を変えろ! そして、ハルを救ってみせろ!》──カバー裏の紹介文
中田永一がキミノベル読者に贈る「転生もの」かつ「難病もの」の「かのせか」第3巻は“すべての景色が涙で染まる、感動の完結編!”、2023年12月刊
「絶対に救いますから。絶対に」
語り手が「僕=アクト」「ハル」そのほかの人物に頻繁に入れ替わって物語を進行させているところ、やや、ややこしい
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ファンなら知っているとおもうけど、中田永一=乙一さんの別名義ということで購入。
本作はいわゆる「児童文学」にカテゴライズされる作品で、本屋さんにいくと小学校低学年くらいの子がうろうろしているコーナーに行かなくてはならない。実際、自分が本を買うとき、すぐそばに小さい女の子がいて「なんか大人いるっ!」という目で見られてとても恥ずかしかった。
本作は「児童文学」といえ侮ることなかれ。内容自体は大人でも十分楽しく読むことができる。というかある意味大人の方がいろいろ突っ込めて面白いかも。
「異世界もの」に抵抗がある人、一般文芸にちょっと飽きたから味変したいという人にはオススメできる作品だとおもった。
よかった点は本当にたくさんあるけれど、あえて一点あげるならやっぱりストーリー展開。
サラリーマンをしていた主人公がトラックにひかれ、好きだったアニメ世界に転生し、しかも転生先が作中世界における「悪役」だった、という設定がうまい。まあこれもラノベ界隈ではありふれた設定なのかもしれないけど、うまくできているなあと思った。というのも、作中における主人公のやりたいことはふたつあって、まず一つ目は「原作の再現」、つまりアニメにおける主人公とヒロインをくっつけようとするのだけど、転生した主人公は設定上悪役だけど中身は優しい「サラリーマン」なので、ヒロインたちを妨害するような行動をとらない。むしろ友達になってしまう。すると本来なら結託して仲を深めていくはずだったヒロインたちの関係が深まらない。この、主人公が頑張れば頑張るほど原作の展開からずれて、主人公の思い通りにならなくなっていくのが面白い。
また原作再現のほかに、主人公はヒロインの白血病を治すことを目標にしている。(アニメでは、ヒロインは白血病で死んでしまう)ドナー登録者をふやすためにボランティアに参加したり、医療団体に寄付したりする。さらにヒロインの出生の謎を追ったり……と、ミステリー要素も満載で、笑いあり涙ありミステリーありで大満足の内面だった。
というわけで文句なしで☆5つ。最近の乙一さん作品の中ではぶっちぎりで面白かった。本当にオススメ。
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最高に楽しくて、久しぶりに読み終わりたくない読書時間をいただいたシリーズです。
現実ではうまくはいかない、けれど現実であって現実ではない世界だからこそうまくいく。
エンディングは予想できても展開にひとつもふたつもひねりがあり、大人が読んでも十分面白い作品です。
視点移動は慣れていないと混乱するかもしれませんが、それぞれの人物の立場や距離感、心情を理解し感情移入することができて私は好きです。
人物ごとの葛藤や苦しみに触れるたびに涙しました。
白血病や治療についての情景・心理描写も要点をおさえられていて、どれほど調べられたのだろうと驚きました。
無菌室や温室などで描かれている比喩表現もコロナ禍を経たからこそ現実味をもって理解して映像を思い描けることに読みながら気づき、この物語を今読めて良かったと感じました。
あとがきについてもプロの視点や作者の方の親や家族と人の成長への思いを知ることができます。
別の名義も含めてずっと応援させて頂いている作者の方のご家族のあらゆる幸福を祈るとともに、様々な医療分野の発展を願いました。
最後まで、どこまでも自然な流れで心地よく本を閉じられる読後感でした。
いつかどこかでそれぞれの「その後の話」を読みたいです。