紙の本
よく練られた知財ミステリー
2020/08/16 16:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:FF - この投稿者のレビュー一覧を見る
手に汗握るシーンが続き、かつ、特許制度に関する必須知識も網羅された、よく練られた知財ミステリー。巻末の知財入門コラム集も大変わかりやすいです。
学天則、黄金仮面といった昭和的なアイテムのほか、様々な作品のオマージュが随所に見られ、エンタメ要素も満載です。
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ストーリーを追いながら、知財について学べるという斬新な小説。
いやーよくこんなアイデア思いついたなぁと思いました。単純に小説としても面白かったですし、ラストにさらに詳しいコラムがあるのも感心しました。
知財以外も、こういう専門性のあってストーリーが面白い小説が出るといいですね。
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ビジネスにおける知的財産権の基本と重要性を学べる本です。
今は情報化が進み、いろいろな情報の取得が容易になりましたが、それは裏を返せば、模倣される危険性も高くなっているということです。
知財のことを正しく知っておく、知識を得るのに限界があるのならば、弁理士などの専門家の力を借りる、といったことの重要性とその方法を知るきっかけとなる1冊です。
【特に覚えておきたいと感じたフレーズ】
「技術は日進月歩で進化している。今日最新の技術であっても、明日にはもう古くなっている。アカデミアも産業界もそうやって進歩してきた。人類は模倣で進歩してきた面は確かにあるが、模倣だけでは取り残されていく可能性もある。」
「発明が現時点で事業として成り立たなくても、現在のあり方が将来根本的に変わる可能性があることを考えて、特許を取っておくことを検討する。」
→特に、今は変化の激しい時代です。知財の知識を持っておき、保護を常に意識することの重要性は増しているのではと感じました。一方で、変化が激しいということは、知財を保護すれば一生安泰というわけではないということでもあります。時代の変化を知っておき、新たなものを常に生み出していく意識を持つこともビジネスの基本となっています。
「学位や資格が、日本で社会的に機能しているかは疑問。平時は素人だけで回していて、都合の良い時だけ専門家を利用していても、社会として限界が来る時があるのかもしれない。」
→専門家との関わり方がどうあるべきかを考えるかの問題提起だと感じました。確かに、知財の正しい知識もなく、よくわからないまま経営していることは多いと思います。もっと専門家を身近に感じるにはどうすべきか、専門家側も知恵を絞っていく必要もあるのではとも思いました。
【もう少し詳しい内容の抽出】
・学位や資格が、日本で社会的に機能しているかは疑問。平時は素人だけで回していて、都合の良い時だけ専門家を利用していても、社会として限界が来る時があるのかもしれない。
・技術は日進月歩で進化している。今日最新の技術であっても、明日にはもう古くなっている。アカデミアも産業界もそうやって進歩してきた。人類は模倣で進歩してきた面は確かにあるが、模倣だけでは取り残されていく可能性もある。
○特許
・特許の活用方法は、他人による真似を防ぐだけではなく、他人にライセンスしたり、売ったりするなどもできる。
・製造技術などブラックボックス化できるものは、外からアクセスできないよう厳重に管理し、ノウハウとして秘匿することに意義がある。
・市販される可能性のあるものは、仕組みがある程度わかってしまうので、特許を取得しておくほうがよい。アイデアが何らかの形で試作品などに反映されることもあることも想定し、発明者が誰で、権利者を誰にするのかなどを常に考えておく。おろそかにすると、後々思わぬとばっちりを受ける可能性がある。
・権利を強固にするためには、逐次必要に応じて特許出願しながら、複数の特許を束にして価値を高めることも有効。
・自然人(法人でないこと)による共同��明の場合将来、ライセンス料が入ってくる可能性もあるので、利益配分も最初から考えておく。それぞれの発明者の貢献度を決め、その割合に応じ持ち分を決めるのが一番しっくりする。
・守秘義務のない人に発明の内容を知られると、公知と判断され、もはや新しい発明ではないということで特許が取れない。無防備に誰かに話したりしたら、自分の発明でも取れなくなるので注意する。
・特許出願の内容は、原則として出願から1年6か月後に公開特許公報で公開される。
・公報でまだ出ていなくても、すでに同じ内容が他者から申請されていて、先を越されることがある。出願審査請求に併せて早期審査を申請することで、数か月間で審査をクリアできることもある。
・原則は先願主義で、先に出願したもの勝ち。相手が出願した時点で、すでに事業をしている場合やその準備をしている場合は、その事業を無償で継続できる先使用権を主張できる可能性はある。
・情報を盗み出して特許出願するのは、冒認出願という不正な出願。対応は複数ある。
①本来特許にしてはいけないものが誤って特許になっている場合、その証拠を特許庁に示し、初めから特許がなかったことにする特許無効審判の請求。
②特許権移転請求の裁判を起こし、相手の特許を自分の特許として取り戻すこと。
①②とも、まず流出ルートを特定し、その証拠を見つけ出す必要がある。
③特許に新規性がない、新しいものでないことや、公知の技術から容易に発明できたものであるという、進歩性がないことを主張する。特許公報発行から6カ月以内なら、特許異議の申し立てをする。その後であっても、無効審判の請求が可能。新規性や進歩性がないことは、一般的には先行技術調査という、その特許の出願前に知られていた技術を記載した文献などを集める。
・冒認出願の証拠が出てこなくても、特許出願の前にそれと同じ技術を搭載した商品が「その技術内容を知られ得る状況で販売されれば、新規性を否定できる証拠となり、特許をつぶせる可能性がある。
・自らの持つ特許権などを互いにライセンスし合い、お互いに自由に使えるようにする、クロスライセンスという方法がある。
・発明が現時点で事業として成り立たなくても、現在のあり方が将来根本的に変わる可能性があることを考えて、特許を取っておくことを検討する。
○商標
・商標登録は、出願は先であっても、第三者が全然似ていない商品やサービスを指定して、同じ文字商標を出願した場合、登録される可能性がある。例は、アルファベットでは同じになるショッピングモールのイオンと英会話教室のイーオン(AEON)など。
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これは「知財の概略を捉えるもの」と定義づければアリな本だと思う。
こまかな注釈も記載されているので、用語についても理解しやすい。
「知的財産の勉強をし始めた」という人は、説明本を読んでもなかなかピンと来ない点を、こういう小説方式で実例(もちろんフィクションであるが)を基にして解説してくれるとイメージがしやすいだろう。
当然に著者もそういうことを目指して本書を執筆したのだろうから、一定の成果はあったと言えるのではないだろうか。
そういう事情で主旨が「知財を理解してもらう」という方向性なのだから、小説としての体裁は求めても厳しいものがある。
この辺のバランスは非常に難しい点であるが、小説のクオリティを上げると、知財の出番は二の次になる。
そう考えると、そもそもの両立が難しいのだから、これはこれで好いとしていいのかもしれない。
(2021/4/17)