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この小説は、少年の成長物語であり、普遍的な親の子どもへの愛を描いた小説だと思います。
さてこの作品は、作中では明言されていませんが”何らかの発達障害”を持った少年が書いた小説、という体裁の作品です。
とにかく発達障害をもった主人公の一人称の描き方がとても丁寧です。作中では文章だけでなく時には図も織り交ぜて、彼の思考や脳内での情報処理が描かれます。これが面白い。
近所の犬の刺殺事件を調べ始めるクリストファー。その過程で苦手な、人との対話に挑戦し証言を集め、そして理屈だけでは割り切れない、大人たちの世界に足を踏み入れざるを得なくなります。
個人的には中盤の思わぬ展開と、物語の大きな方向転換で、自分の心が作品にグッと捕まれた気がします。もし誰かに「起承転結の転」って具体的にどういうこと?と聞かれたら、この作品の話をします(笑)
今まで父親の庇護の元で育てられたクリストファーの、冒険と成長の物語でもあるのですが、個人的には彼の親の姿が印象的です。
息子に障害があるが上に突き放してしまったり、あるいは過剰に守ろうとしてしまったり。クリストファーも悪くないし、親だって悪いとは言い切れない。
どれだけ子どもを愛していても、完璧な親をずっと演じきれるわけではありません。時には疲れることもあるし、魔が差すことだってあると思います。そんな親の姿が、クリストファーの視点を通して描かれます。
でも”完璧な親じゃない=子どもへの愛がない”というわけでは決して無いんですよね。話を読み進めるにつれて、この物語のテーマは実は、クリストファーの成長以上に、親の子どもに対する愛情ではないかとも思うようになりました。
きっとクリストファーの親は、今後なんだかんだありながらも、それでも息子を愛するのだと思います。そして、それは子どもに障害があろうとなかろうと同じはず。だからこの小説は、一見特殊な形式で変わった家族を描いているように見えるのですが、実は普遍的な家族小説でもあると思うのです。
『アルジャーノンに花束を』『くらやみの速さはどれくらい』の系譜にある作品だと思うのですが、また違った魅力のあるいい小説でした。小尾芙佐さんの訳も、相変わらずよかったなあ。
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発達障害の少年が,夜中にお向かいの愛犬が殺されているのを発見することから生じる様々な騒動を描く.
主人公は,気に入らないこと,想定外のことが発生するとパニックを起こすが,我々と同じ意味での感情は持ち合わせない.その一方,我々とは視点が異なるものの見方をしており,普通の人がスルーするところに固執し,それが物事の進行の障害になることもあり,また,何かのブレイクポイントになることもある.
本書はこの少年が執筆した本という体裁となっており,したがって,上記の様な理由から,いわゆる「感情移入」は難しいのだが,この不思議なストーリーテラーのおかげで物語は紆余曲折しながら進行し,主人公は冒険を成し遂げ,また家族の「ある種の問題」は解決はしないものの,進展が生じる.
不思議な小説だ.単なるアイディア勝負に留まらず,読者を引き込む力がある.
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発達障害の子はどんな気持ちでその行動をしているのか、周りの大人たちはどう接しているのか、気持ちのすれ違いの中に愛があり温かい気持ちになった。お父さんもお母さんも完璧じゃない。彼も不完全。「許す」って言葉じゃなくて身体が受け入れられるようになることなのかなって感じた。人に薦めたい本。
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こういう内容とは思ってなかったのですがとても面白かった。
クリストファーは支援学校に通う少年です。
彼の目から見る世界は本当に大変な世界です。それはクリストファーが何らかの発達障害を持っているからです。
その彼がたくさんの困難を乗り越えてママに会いに行く。
それからきっとその彼の行動で両親は元の鞘に戻るのではないか?と期待してしまいます。
最後の彼の言葉は希望に輝いていました。
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これはすごい。方法(形式)と内容は不可分なのだと教えてくれる。こういう文体、こういう構成でないと、表現できない内容がある、ということの好例。たぶん、翻訳がべらぼーにうまい。
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英国の作家による小説だが、原書でベストセラーになったらしい。あるちょっと変わった少年が、近所で起こった事件に疑問を持ち、真相を解明しようとする。
以下、ネタバレ注意。
この少年は自閉症で養護学校に通うが、数学だけは飛びぬけてできる。ただ、コミュニケーションはできない。そんな彼が近所の事件の真相解明をしようと調べているうちに、彼にとって衝撃の事実が次々と明るみになる。そして、彼は大人の事情に巻き込まれていたこともわかってくる。
アスペルガー症候群の人たちの家族が、アスペルガーの人はどう考えているのか知るために読んだという。少年の視点で書かれているので、繊細な部分がとてもよくわかる。彼なりの正義感とチャレンジで、困難を乗り越えていく姿を応援したくなる。
以前読んだ、自閉症の人が書いた本「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」を思い出した。
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子供向けの推理小説だろう、と、気軽な気持ちで選んだ本。
ところが、えそっち?となっていき、引き込まれた。
この家族が抱える家庭の問題に、共感するところがあって、自分がこの本を手に取った偶然に驚いた。そして、何度か身につまされて泣いた。
自閉症の子の目線や心の動きのまま(という設定で)書かれているので、読みにくいと感じることもあったけれど、それはそれで味わい深く、分厚い本でしたがあっという間に最後まで読みました。
息子を持つ親御さんにおすすめ。主人公の言動にハラハラしつつ応援しながら、親としての自分のことを振り返りながら、読んで、その状況を(物語なので当然ながら)立体的にかつ俯瞰して眺めることができ、物語の中の家族にも、自分の身にも希望を持てる感じの、暖かい読後感でした。
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主人公の思考回路がとても良くわかるし、私は共感できる
主人公は美しく脆い世界の中で、世界に殺されそうになりながら
懸命に愛して生きて美しい世界を探している
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難しい。
それが読み終えた後第一の感想だった。
発達障害を持つクリストファーの日常を切り取った物語が、彼の目線で綴られている。
クリストファーは、淡々と生きている。周りから見れば「生きづらい」ように見えるのかもしれない。けれど、クリストファーは、嫌なこと、できないこと、を素直に表現しながら生きているだけだ。視点を変えれば、そうできるのがクリストファーだということ。やり方の是非はともかくとして。
クリストファーは目の前に起こる出来事を事実として捉える。捉え続けていた結果として、とんでもない事実に出くわしてしまう。それは結果として、自分が嫌なこと苦手なことと、やりたいことを天秤にかけなくてはならなくなる。どちらを取るか、どちらの方がより嫌なのか、を考えていくことになる。
これを読んで、生きていくことについて、ものすごく考えさせられた。
大きな社会を目の前にして、自分はどう生きるのか。そのヒントをくれたようにも思う。
私にはクリストファーを完全に理解できたとは思えないから、共感は出来なかった。けれど、その生き方には何かを得られたように感じる。
「意味など考えずに」
ふと、そんなことが頭に浮かんだ。
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好みが分かれるのでは。
本格ミステリーとは言えないので、星一つに。
確かに子供の気持ちの内面を写しているのだが、自分には何が何だか。
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主人公はサヴァン症の15歳の男の子、クリストファー。
特別支援学校の先生に「小説を書いてみたらどう?」と勧められ書いたその子の小説である、という程で話が進行していきます。
ある日、お隣さんが飼っているプードル犬が園芸用フォークで刺殺されていたところを発見し第一発見者となったクリストファーは、警官に事情聴取されるも全くうまく答えられず、しかも彼は人に触られるのが大嫌いなので条件反射で警官をぶん殴ってしまい、そのまま連行される・・・。
事情聴取を終えたクリストファーは犬を殺した犯人を捕まえるため探偵ごっこを始め、その記録としてこの小説を書き始めます。
面白かった要点を3つほど。
①自閉症の人たちのものの考え方。
・なぜそんなことに執着するのか?
・なぜそんなことで暴れてしまうのか?
・何をそんなに怯えているのか?
普段、言語化されていない(したくてもできない)思考がとてもわかりやすく書かれていました。
例えば色に対する執着、時刻表に対する哲学的思想、初めて行く場所が本人にとっていかに情報の洪水でどれだけ苦しいものなのか…などなど。
②彼目線で見たこの世界、大人たち。
他人の感情を読み取ることは難しいが起こった事はビデオ録画のように一字一句違わずに覚えられるクリストファーが書き出す周りの大人たちの言動は、偽りがなく、その人が丸裸にされているようで痛快でした。
反面、なぜこの愛情が理解できないんだ!クリストファー泣!目の前でお父さんがこんなにも、こんなにも君を愛しているのに、、!とすこぶる切なくなるシーンもありました。
嘘がつけない、冗談が通じない、ということがどんなに周りにとって苦しいことか、逆説的に言えば嘘とジョークがどれだけ摩擦をなくす潤滑油になっているか、考えさせられます。
両親との摩擦、社会との摩擦。
やはり障害とは摩擦なのだなと思いました。
③さすがだなと思ったのは、彼が挫折を味わいながらも成長し、周りがびっくりするような危なっかしい方法で事を成し遂げ、そして彼自身がおおいに自信をつけて終わるところ。
見事な冒険成長記なのです。少年ジャンプです。
読み口も心地いいし、主人公も愛おしい。出てくる大人たちも皆、一生懸命に生きてて愛おしい。
嫌な時は力一杯嫌がる。殴るし、吐くし、一週間ご飯食べないし、口もきかない。
彼のそんなところに、生きる力強さを感じます。
私もカマトトぶってないでたまには、嫌な時には魂の限りを尽くして嫌がってみたいなと思いました。
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クリストファーはおそらく、発達障碍があるのでしょう。彼がこの世界と向き合うのは、とても難しい事なのだと思いますが、彼なりの方法で向き合おうとしている様子が読み取れました。
クリストファーの一見変わった行動には意味や理由があることを、読者の方々に理解していただければと思います。そうすれば、クリストファーのような人々にとって、生きやすい環境が広がるのではないでしょうか。
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少し読むのが難しかったけど、内容は面白かった。
イメージとしては、大人用の絵本のような感じで、
自分にない独特の視点をもっている主人公の考えが新しくて良かった。
作者の他の作品も読んでみたくなった!
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15歳3ヶ月のクリストファーはある真夜中、向かいの家の庭で犬のウエリントンが農作業用フォークに刺されて死んでいるのを発見。一人で数学の問題を解くのが好きで他人と関わるのは苦手なクリストファーだったが、犬を殺した犯人を突き止めようと聞き込みを開始する。父は調査を打ち切るよう言ってきたが、ルールの穴をついて近所の老婦人と話したクリストファーは病気で死んだ母にまつわる重大な隠し事を知ってしまう。
常に数学的で論理的な視点で世界を見ている少年が〈親〉という理不尽に直面する、一風変わったジュヴナイル・ミステリー。ふだん我々が"あるある"で済ませていることは論理的に考えると何も"あるある"ではないと教えてくれるクリストファーの語りは、終始真面目なのだがユーモラス。それでいて、冒頭から犬の死を悲しんでいたら警察を呼ばれて留置所に入れられるというハードな展開の小説でもある。
「親が嘘をついていたと知ること」は、10代の頃にはとても大きなショックだ。クリストファーのように「嘘をつけない」子なら尚更。父がひた隠しにしてきた秘密を知ってしまう中盤のヒリヒリ感、それまでの世界がひっくり返るような絶望感は普遍的なものだと思う。中盤以降はクリストファーに感情移入して本当にしんどくなってしまって、とにかく彼にひどいことが起きませんようにと祈っていた。あらすじには「冒険を通じて成長する少年の心」とあるが、作中では「きみは今日一日でじゅうぶんな冒険をやったと思うよ」という台詞がクリストファーの実感とあまりに乖離した侮辱的なことばとして発せられている。
でも、クリストファーの両親が特別悪い人間というわけじゃない。クリストファーの一人称で書かれていながら、彼のような子を持つ親たちの生きづらさにもしっかりとスポットをあてているのがこの小説のうまさだ。二人とも一度クリストファーの信頼を裏切れば回復に長い時間がかかることを知っていてなお、もう一度彼と向き合いたいと願い、自分の行いを悔いている。だが、彼らが自分自身の問題と格闘しているときに口をついて出る「おまえのため」「おまえのせい」ということばが、クリストファーを取り巻く社会の姿を図らずも反映してしまってもいる。だからこれはクリストファーの成長譚ではなくて、両親が成長を促される物語だったのだと思う。母の決断と父の謝罪で終わることからして作者の意図もきっとそこにあったはずだ。
クリストファーのような人を都合の良いときは「天才」と呼び、都合の悪いときは「落ちこぼれ」と呼ぶ社会にまだ私たちは生きている。"ふつう"や"平均的"ということばに疑問を抱いたことのない人にとっては、この小説も自閉症の天才を扱った"特殊な"話に過ぎないのかもしれない。けれど、クリストファーにとっての数学と物理学は生きていくために離すまいと必死で掴んでいる命綱のようなものだ。コンピュータがこうした人たちに社会的な居場所を与えた意義の大きさを初めてちゃんと認識できた気がしている。
クリストファーの視点を通じて〈今まで変わろうとしてこなかった世界〉の不親切さを読者に追体験させるという構成はこの小説に込められたメッセージと完全に不可分であり、その伝え方はソフトでスマートだがはっきりと目的意識を持って書かれている。作中ある人物が「おまえは生まれてこのかた、たった一度でも、他人のことをちょっぴりでも考えたことがあるのか」とクリストファーをなじる場面があるが、マジョリティだという自認に甘えて〈他者〉のことを考えてこなかったのは社会のほうなのだ。我々なのだ。
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数学や物理では天才だが、他人とうまくつきあえないクリストファー。近所の犬を殺した犯人を探すため、勇気を出して捜査を続けるが・・。発達障害の子どもの感じ方を物語として取り上げた本。