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ポーランドの大貴族ヤン・ポトツキ(1761-1815)が
フランス語で執筆した幻想長編。
著者がサラゴサ包囲戦(1808年)にフランス軍将校として
参戦した折、人家に残された手稿を手に入れ、
スペイン人大尉に仏訳口述してもらって書き取った――
という設定で、スペイン、シエラ・モレナ山中をさまよう
武人アルフォンソの61日間に渡る体験が綴られている。
彼が出会った人々の話を聞き、
その中の登場人物が更に身の上話を繰り出したり、
本の内容が開陳されたりするという
目くるめくマトリョーシカ小説。
中巻は第二十一日~第四十日まで。
第三十七日「トラルバ騎士分団長の物語」は
アンソロジー『東欧怪談集』(河出文庫,1994年)で
既読だが、そちらには第五十三日と記されている。
ロマ(作中での表記はジプシー)の族長パンデソウナこと
本名ホアン・アバドロの冒険譚の続き。
彼は匿われていたシドニア公爵邸の地下室を出て
物乞いの少年たちの仲間入りをし、
トレドの騎士なる美青年のマルタ騎士団員と知り合い、
様々な人物と関わってそれぞれの物語を聞き、
結婚に漕ぎ着けた――。
***
作者自身の手になるという挿画がユーモラスで味わい深い。
ところで、第四十日 p.396に言及のある
ルサージュの小説タイトルにおける「虫扁+皮」の
読み(ルビなし)は「ハエ」かと思いきや、
検索すると『跛の悪魔』が出て来る。
「虫扁+皮」は誤植か。
アラン=ルネ・ルサージュの著作には
ベレス・デ・ゲバラの同名の長編小説を改作した
『跛の悪魔(Le Diable boiteux)』があると
Wikipediaにあり
***
細かい話は後日ブログにて。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/
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上巻と同様に入れ子構造の語りが迷宮的に入り組む構造。河出文庫の「東欧怪談集」にそこだけ切り出す形で収録された「トラルバ騎士分団長の物語」のように独立した怪奇掌編と見なせる部分も多い。一方でブスケロスに父親を殺されたとも言えるアバドロの、反応の薄さとか、下巻への伏線とも思える部分もちらほら。巻末の解説によるといちばん収まりのいいヴァージョンとのことだが、さてどうなることやら。
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やはりあきれる程の物語のおもしろさだ
悪魔らしきものが出てきて持論展開するとがぜんひきつけられる
たのしいなぁ 【サラゴサ手稿】
これこそページターナー
語り手が次々と変わり繰り返される大伽藍のような構成美 とびきりの物語は下巻へ…
ワクワクだ
キリスト教 イスラーム ユダヤ教の強烈な一神教への盲目的な狭量さを越えてる
ポトツキって一体なにものだったんだろう コスモポリタンの鬼才?
美徳と偏見についてサタンの化身らしいドン・ベリアルが持論展開するところなど胸すくかんじする
アルバ女公爵の心理とかアタマくらくらする
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入れ子構造が複雑になり、今何の話をしているのか掴みづらくなって来ているが、それに反して内容は面白さを増している。
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サラゴサ手稿の中巻。この巻では、一人のトリックスターが登場し、いい具合に読者のヘイトを集めてくれる。ムカつくけど、このような人物がいるからこそ物語はより魅力的になっていくのだ。
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2/3を読み終えてしまった。まだ面白い。複数に分冊されていふ長編小説は、もし面白くなかったら損した感が大きいので、読む前は少し懸念していたが、読み終えない今のうちにすでに満足してしまっている。もちろん、下巻まで読むつもりだが、とにかく非常に面白い。
上巻では、幻覚や悪魔や魔術などが多く登場し、そういった類の小説かと思っていたのだが、この中巻では、一部悪魔が出てきはするものの、基本的にはそういったものの登場しない人間模様が展開される。
覗き見好きのブスケロスという怪人物が、いちいち憎らしくも話に豊かな展開を与えてくれてくれる。現実では絶対に知り合いたくない種の人間ではあるが、小説においてはこうした人物がいると一層面白くなるように思う。
解説で語られる、この『サラゴサ手稿』自体が経てきた紆余曲折も興味深く、未完でありながら複雑かつエネルギッシュで魅力があるという「1804年版」も読んでみたくなる。この邦訳は「1810年版」とのことだが、こちらも充分過ぎるほど面白く、すでにこの物語の壮大さに感激している。
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そろそろ、誰が何を語っているのかメモをとったほうが良いかもと思いつつ族長の話を聞く日々。そして解説を見るに1804年版も読んでみたい
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騎士アルフォンソの手記の中に、彼に物語る人々の語りが入れ子入れ子で組み込まれていく物語。
語る人々は、幽霊だか人間だかわからん美女、ジプシー族長、カバラ学者、悪魔に取り憑かれた狂人、政略渦巻く上流社会に属する人々、神に見捨てられた巡礼者、人のゴシップを掘り出しのし上がる厄介者…。彼らも民族も宗教も、キリスト教徒、ユダヤ人、スペインのイスラム教徒など多岐にわたる。
出てくる人たちはなぜか美男美女ばっかり(笑)。特に男性陣は「盗賊」「ジプシー老人」と書かれているので野性的なおっさんを想像していたら「美しい男」だの「少年の頃女装して人を騙してた」とか、なんかお耽美な人たちだな 笑
彼らが語る内容も多岐にわたる。地方に伝わる伝説、幽霊や化け物の伝奇譚、ロマンス、宗教の教え、宗教の違い、カバラ学術と哲学(カバラのほうが上位で哲学者と言われるのは心外らしい)、旅の楽しさ、地方の歴史、色ごと、政治工作…。直接は語られないのだが、アルフォンソが滞在している山間の自然描写も良い。
【第三デカメロン】(21日目〜30日)
アルフォンソは、エミナとジベデの存在を近くに感じながらもジプシー一団のもとに留まる。カバラ学者の妹レベッカは、天上のお告げよりも現世を大事にしたいと、カバラ秘術の勉強を辞めるといってジプシー一団に合流する。
二人はジプシー族長の話を楽しみにしている。
「第三デカメロン」は、ジプシー族長が語る話、の中に出てくる人から聞いた話、の中に出てくる人が語る話、と、入れ子入れ子入れ子方式。しかも話に出てきた人たちが「実は繋がりがあった」ことが判明するので、読者としては、自分が誰が誰に語った話を読んでいるのか把握していないといけないんですよね。
❐ジプシー族長:
異端審問に掛けられそうになったアバドロ少年(後のジプシー族長)は修道院から脱出する。大人たちがうまく取り計らってくれて二年間の謹慎で済むことになったので、物乞い少年としていたずらと自由の日々を謳歌することにした。
彼の考えでは「貴族の生まれである自分は、他人の下僕にはならない。物乞いは自分の身分を汚すことのない稼業だ。」物乞い少年時代の名前はアバリト。
以下はジプシー族長が出会った人たちから聞いた話。
❐シドニア公爵夫人:
(過去)両親の代から、自分の幼い頃の話。自分の乳母ラ・ヒローナ、その息子エルモシトとの幼年時代。父の親友シドニア公爵と結婚したが、エルモシトとの不義を疑われてしまったこと。
(話当時の現在)シドニア公爵はエルモシトを殺し、ラ・ヒローナがシドニア公爵を毒殺したこと。
❐女好きのトレドの騎士:
物乞いアバリト少年(ジプシー族長)の利発さを気に入り小僧として使う。目下の恋人はウスカリツ夫人。だが親友が死に、その亡霊から警告を受け、修道院に籠もった。
❐貿易商の息子ロペ・ソアレス:
(過去)貿易商のソアレス家と、銀行家モロ家の因縁話。祖父の時代から、なんかギャグですか?というような行き違いすれ違いを繰り返している。
(話当時の現在)しかし自���が恋したのはモロ家の娘イネスだった!そんなとき押しかけ従者(?)ブロスケスが現れたこと。
❐ブスケロス:
人の秘密を探りみんなに言いふらすことを何よりとして、そして成長した今は金持ちの太鼓持ちになり楽して暮らそうとしている。
彼の話は相当イライラするんだが、案外周りの人たちは便利に協力を求めている。「仕える」と言いながら偉そうで集ってくるやつってこの時代にそれなりにいたのかな。
トレド騎士が受けたと思った亡霊からの警告は勘違いだと分かり、トレド騎士は張り切って女遊びの道に戻ってくる!
トレド騎士やブスケロス達の仲立ちによりロペ・ソアレスと、イネス・モロは結婚することができた。
多くの人のおせっかいお芝居が真面目に不真面目に大袈裟というか、まあこの時代は他人へのおせっかいにより社会が成り立っていたんだな。
【第四デカメロン】(31日目〜40日目)
アルフォンソは、シャイフの手下たちが自分を取り囲み、みんなで自分をイスラム教徒に回教させようとしてないか?と思いながらも、まあ豪胆で若いので現状をそれなりに楽しんでいる。
シャイフとゴメレス一族のまとめ。
スペインのイスラム社会のシャイフ(宗教的・公共的な長老・首長)は、秘宝を守っているという噂がある。シャイフを守る主だった一族の一つがゴメレス一族で、シャイフの秘密を守っている。アルフォンソの母もゴメレス一族の出身。そして現在アルフォンソに近づいているのはエミナとジベデという二人の美女。
盗賊ゾト、ジプシー族長も、シャイフを守る一団のメンバーらしい。ユダヤ人のカバラ秘術研究ウセダ一族もシャイフ一団に関係あるみたい??
そんなアルフォンソと、カバラ秘術研究を辞めたレベッカは、ジプシー一団のキャンプにいて、族長の話を楽しんでいる。
以下族長の話。
❐フラスケタ・サレロ、またはドニャ・フラスケタ・カブロネス夫人、実はもう一つの名前がある。(ブスケロスが、彼女から聞いた話をトレド騎士とアバリト少年に話す):
(過去)独身時代の話。アルコス公という女装が似合う公爵に求愛されたこと。
(話当時の現在)それぞれ結婚したが、まだ会ってるってこと。だってフラスケタ・カブロネス夫人の夫は、隣の御夫人を信頼して目付役にしたんだもの。その御夫人がアルバロ公その人だって気が付かずにね!
…なんか楽しそうだな(笑)。
他の人の話で、夫は自分の妻が不義を「疑われた」というだけで、自分の名誉をなくされたとして妻を追放する事が出てくる。それならお互いに結婚してるけどじ、女装した恋人と夫の前でデートするの★って、むしろ前向きだ(笑)
❐フラスケタの夫のカブロネス氏(ブスケロスが、彼のことをトレド騎士とアバリト少年に話す):
妻にベンナ・ブロスという伯爵からラブレターが届き気が気でない。そこでベンナ・ブロス伯爵殺害を依頼したが、その幽霊に悩まされる。でも実はベンナ・ブロス伯爵やら殺し屋やら司法官やらは、アルバロ公がカブロネスを錯乱させるために仕掛けた<観念的存在P233>だった。しかもカブロネス氏が見たと思った幽霊は、実はたまたまそこに現れたブスケロスで���この出来事によりブスケロスとフラスケタ・カブロネス夫人が知り合った。
❐カブロネス氏が知り合った、神に見捨てられた巡礼者のブラス・エルバス(ブスケロスが、彼のことをトレド騎士とアバリト少年に話す):
父のディエゴはすべての知識を100巻の書に記して出版して有名になろうとしたが、ギャグのような不運続き、いや本人には大真面目なんだが、とにかく肝心なところで行き違いまくってその書物は破壊された。ディエゴは無神論者になり自死した。<人々は、われに霊があると言い、われは肉体を犠牲にしてまで、その魂と取り組んだ。(…中略…)あとには何も残らないだろう。われはこのまま亡びる。生まれてこなかったの大人軸、世に知られぬままで。虚無よ。お前の餌食を受け取るが良い。P271>
息子のブラスは、サンタレス家の未亡人イネスと二人の娘セリアとソリアと知り合う。そして「ゲヘナのベリアル」といういかにも怪しい名前(地獄の悪霊、みたいな)を名乗る貴族に気に入られ金やら媚薬やらをもらう。まあ想像通りの展開になり、ブラスは悪魔に魂の契約をしてしまう……
…と思ったら、天使が現れ「神に見捨てられた印を持つ者を救いなさい」と言葉をくだされる。
だから巡礼になった。そしてカブロネス氏に「神に見捨てられた印」を見つけた。昔救ったトラルバ騎士分団長の話をして、カブロネス氏にも巡礼を勧める。
…あれ?ベンナ・ブロス伯爵に取り憑かれているようなこと言っているけれど、ブロス伯爵って「観念的存在」じゃなかったっけ(ーー)??
❐トラルバ騎士分団長:
巡礼守護隊にいた頃の風習とか、国によって兵士の気質の違い。遊ぶ女性を巡ってフールケールという男を決闘で殺したが、彼の亡霊に取り憑かれてしまった。ブラスが彼を巡礼に行くように説得し、亡霊から解放された。良かったね。
※なおこの話は、トラルバ分団長が神に見捨てられた巡礼者に話し、その話を神に見捨てられた巡礼者がカブロネスに話し、その話をブスケロスがトレド騎士とジプシー族長に話し、その話をジプシー族長がアルフォンソたちに話している、という状況です。本文でも<トラルバ分団長はここで話すのをやめた。いやむしろ、神から見捨てられた巡礼者が、ここで運団長の話をカブロネスに語るのをやめたのだ。そして巡礼者は次のように、自分自身の物語を続けた。P331>って書いてある(笑)。わけわからんかもしれないけれど、これが案外読みやすいってどういうことよ(笑)
ここまでで、トレド騎士の恋人ウルスカツ夫人が、実はフラスケタ・カブロネス夫人だと明かされる!!
カブロネス氏は巡礼で死んだ。未亡人フラスケタ・カブロネス夫人はスペインのサラマンカで暮らし、女装の恋人アルバロ公はロンドン大使になった。(ん?別れたの?)その後フラスケタは再婚してウルスカツ夫人となった。
ここでジプシー族長本人の話に戻る。
ブスケロスは、自分の親族の女性をジプシー族長の父親であるドン・フェリペ・アバドロと財産目当てで結婚させる。ドン・アバドロは、ブスケロス一族に精神を喰い尽くされたかたちで死ぬ。ジプシー族長は物乞いのアバリト少年から貴族の子息ホアン・アバドロに戻り、自分の��続分だけ受け取り、マルタ騎士団員に序列される。
第四デカメロン終盤は、青年騎士なったジプシー族長(ホアン・アバドロ)の恋物語。かつて交流の合ったトレドの騎士とは対等の立場で友情を結んだ。そしてアビラ女公爵へ崇拝と恋を捧げるようになる。この恋愛進行は手が込んでいて読んでいてちょっと楽しい 笑。