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眼を開く
著者 著者:夢野久作
底本名:夢野久作全集4
底本出版社名:ちくま文庫、筑摩書房
底本初版発行年:1992(平成4)年9月24日
入力に使用した版:1992(平成4)年9月24日第1刷
校正に使用した版:1992(平成4)年9月24日第1刷
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電子書籍眼を開く
2024/06/02 22:33
☆眼を開く☆
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投稿者:ACE - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の私は、執筆活動のため、山中の山荘に一冬こもることを決意する。山荘は麓から往復8里ほどの距離にあり、ましてや豪雪地帯の雪道だけである。
そんな悪路を、郵便配達夫は愚直にも毎日毎日、新聞や郵便物を届けに来る。執筆に没頭する私は、そんな配達夫の苦労に頭が回らない。感謝もしない。挙句の果てには、配達夫の愚直ぶりを一種の偏執狂ではないかと思った。
ところが、この配達夫がトラホームを患っていることから、私の考えが徐々に変わる。最初は、自分に感染したらまずいと思い、薬などを手配する。
そして一段と吹雪いた夜、吉兵衛達が私のもとを訪ね、配達夫の姿が見えないことを知らされると、いてもたってもいられなくなる。
そして、夜明けから、慣れない豪雪地帯を歩き回り、私自身が遭難しかかるも、何とか助けられる。しかし、配達夫については、私の予想通り、凍死してしまっていた。
しかし、凍死した彼の姿や、濡らさず必死に守っていた郵便物の存在を知ると、彼の死は、単なる生物学的な最期ではなく、精神論的な神々しさを放っており、私のこれまでの価値観を大きく変えた、奇蹟のようなものであった。