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4件
エンジェルフライト 国際霊柩送還士
著者 佐々涼子
【第10回開高健ノンフィクション賞受賞作】異境の地で亡くなった人は一体どうなるのか――。国境を越えて遺体を故国へ送り届ける仕事が存在する。どんな姿でもいいから一目だけでも最後に会いたいと願う遺族に寄り添い、一刻も早く綺麗な遺体を送り届けたいと奔走する“国際霊柩送還士”。彼らを追い、愛する人を亡くすことの悲しみや、死のあり方を真正面から見つめる異色の感動作。(解説・石井光太)
エンジェルフライト 国際霊柩送還士
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エンジェルフライト 国際霊柩送還士
2015/09/07 20:33
魂を揺さぶられる
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:納豆 - この投稿者のレビュー一覧を見る
国際霊柩送還士の実話。
国際霊柩送還士とは、とても大雑把にいうと、亡くなった方に生きていた頃の姿を留めるよう、遺体に防腐処理やお化粧を施す(エンバーミングというそうです)仕事をする人たちのことです。
「おくりびと」のお仕事と違うのは、外国から日本へ、日本から外国へご遺体を運ぶ点でしょうか。
旅行中に海外で不慮の死を遂げられた方、葬儀を海外で行いたいためご遺体を空輸しなければならない方、ご遺族の事情は様々です。
遺体のことや、死についての多くが語られますが、決して残酷な話ではありません。むしろ、希望に満ちているのではないでしょうか。
エピソードのひとつなんですが、海外で登山中に滑落死してしまった方がいたそうです。ご遺族が現場まで遺体の確認に行くんですね。亡くなり方が亡くなり方ですから、とても無残な姿なんです。
これはとてもじゃないけれど、お葬式でみんなに顔を見せてあげられない…。
辛い思いを抱いて、ご遺体を送還士さんに預け、ご遺族は日本に帰宅します。
ここからが送還士さんに腕。生前の写真を確認しながら、様々な技術を用いて、ご遺体を生前の姿へと戻すのです。
半ば諦めつつ、ご両親が着いたお棺を開けてみると、なんと、あんなに悲しい姿をしていたはずの家族が、生きていた頃の姿そのままに眠っているんですよ。
もちろん、見た目は元に戻っても、魂は戻りません。
それでも、亡くなった方が穏やかに顔をしてくれているおかげで、遺された家族も心静かに別れを告げられる。
そして、送還士さんたちは自分たちの仕事は裏方だと、決して表には出てこない。本物の職人さんです。
連ねられたエピソードはこれだけじゃありません。
泣けます、全ての章でもれなく全部泣けます。
人は誰しも必ず、いつかは死ぬ。
この本は、遺体処理の専門家たちの仕事を追いかけると同時に、死と生に真正面から向き合う作品でもあります。
死は悲しいことですが、人生は悲しくはないということを伝えてくれる秀逸な本だと思います。
文章も分りやすく読みやすいですし、是非!
エンジェルフライト 国際霊柩送還士
2015/08/23 14:46
面白かった。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:積読 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋で何気なく手に取った本なのですが、非常に面白かったです。
海外でなくなった人ってどうやって運ぶんだろう?貨物室に棺桶を積むっていうウワサだけどほんとなのかな?…一度くらいは考えたことある疑問ですが、あまり深く考えない疑問。
その舞台裏で働く人々を描いたルポですが、単なる葬儀屋ではなく、故人に対する愛情がないととてもできない仕事だと思います。頭が下がります。
エンボーマーという職業が、欧米(キリスト教国家で、だと思いますけど)では非常に尊敬されているということも、この本で初めて知りました。
日本では死に関わる仕事は忌み嫌われたりする感覚があると思いますが、私たちはいろんな人に助けられ、支えられているのだということを改めて考えさせられました。
2024/09/20 07:10
彼女はもういないけれど
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『源氏物語』を読んでも、紫式部はもういないとは思わない。
『こころ』を読んでも、夏目漱石はもういないとは思わない。
けれど、この『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』を読むと、
これを書いた佐々涼子さんはもういないんだと思ってしまう。
佐々さんがこの作品で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞したのが2012年。
それからわずか12年。
2024年9月1日、佐々涼子さんは56歳の短い命を終えることになる。
この作品は異国で亡くなった人を故国へ送り届けるという仕事に携わる
「国際霊柩送還士(こくさいれいきゅうそうかんし)」の人々の姿を描いたノンフィクション作品だ。
彼らの仕事は単に遺体を送り届けるだけはない。
傷ついた遺体を適切に保存したり、元の姿に戻すといったエンバーミングの業務をこなす。
そんな彼らの業務を描きながら、亡くなった人と残された人との心の機微もまた綴られる。
さらには、佐々さん自身の母親の病の様子も描かれていく。
作品を通して、佐々さん自身が「死」と対峙することになる。
そして、こんな思いにたどりつく。
「(死)は心の中に戻ってくる。悲しみぬいたあとの生きる力となる。もっと親しく、もっと強くそばにいてくれる。
だから一度、「さよなら」を言う必要があるのだ。」
だから、私たちも佐々さんに一度「さよなら」を言おう。
ノンフィクション作家佐々涼子さんがその生涯で残した作品は多くはない。
けれど、これからも繰り返し読まれ、新しい読者を生み続ける作品たちであることには違いない。