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世界の凋落を見つめて クロニクル2011-2020
著者 四方田犬彦
東日本大震災・原発事故の2011年からコロナ禍の2020年まで、日本と世界が変容し、混乱した「激動の10年」に書き続けられた時事コラム集成。この間、著者はニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、ソウル、香港、台北、キューバ、イスタンブール、リオデジャネイロ、サハラ以南のアフリカ諸国、そして緊急事態宣言下の東京など、様々な場所と視点から世界の変貌=凋落の風景を見つめた。私たちの生きる世界は、そして私たち人間は、どのように変わったのか。全99本のコラムが「激動の10年」を記録する!
【目次より抜粋】
原発を語らず/北京の変貌/吉本隆明さんの思い出/ハバナの三島由紀夫/誰がテロリストなのか/ザハ・ハディト問題/ゴダールのFacebook?/慰安婦と赦し/日本死ね/佐村河内守は詐欺師なのか/非常事態発令下のパリ/サハラ砂漠の南へ/〈1968〉から50年/香港の天安門事件追悼集会/ジョギングの社会階層/コロナウイルスの日々/感染者はケガレか
世界の凋落を見つめて クロニクル2011-2020
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世界の凋落を見つめて クロニクル2011−2020
2022/07/22 23:24
「白色テロ」が横行するこの時代に、「凋落」の判断基準および観測結果を教えてくれる好著
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投稿者:Haserumio - この投稿者のレビュー一覧を見る
「凋落」とは「進歩」の反対語と一応理解しているが、いずれも何をもって「進歩」があったのか、「凋落」といえるのか、その基準と認定が問題となる。そして、後者について、数多の判断基準と測定結果を提示してくれた一書。国民を愚弄する「白色テロ」(108頁、171頁、235頁、アガンベン的)が横行しまくる今日の時代状況を剔抉して見事。非常に参考になりました。
「日本の文化がこぞって平板なものとなって久しい。文学も、漫画も、ポップスも、家庭の幸福とやらも、セックスも、われわれを構成しているもののことごとくが管理され、そつなく調教され、容易にアクセスが可能となり、平等に享受できる、フラットなものに成り果ててしまって、短くない時間が経過してしまった。もはや地下の文化、アンダーグラウンドの文化というものは、どこにも存在していないように思われる。」(75~6頁)
「凶行(まがごと)の愉しみ知らねばむなしからむ死して金棺に横たわるとも」(143頁、春日井建の歌)
「日本人にとって世界は二通りでしかない。清らかであるか、汚れているかだ。汚れたものは内面ではなく、つねに外側から到来する。だから禊をすれば、元の清浄なる姿に戻ることができる。水に流せばいいだけなのだ。日本人は汚れを内面化し、歴史的に検討する契機が欠落している。汚れた者はただちに排除か隠蔽する。汚れをわがこととして引き受け、ともに生きようという発想はない。・・・ 繰り返していうが、どこまでも汚れと清めなのだ。罪と罰ではない。そのかぎりにおいて、日本人はいつまでも歴史の教訓に到達しない。」(324~5頁)
念のためでいうと、「凋落」といってもその進行速度は相対的なものである。世界が凋落するにしても、まともな国や組織体は相対的に抜きん出るということもあり得よう。加えていえば、原体験を含む驚きの欠如や人生のすべてを賭け得る対象の発見の困難さはおのずから、人をして人生の目的を、国家としては政府の目標を、容易に消費(あるいは、浪費)というものに最上級の地位を与えることになり、そして消費とは無間地獄の別名である。この時代をいかに生きるかについても、大いに考えさせられた一冊でした。