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デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
著者 河野 啓
両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家・栗城史多氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか? 滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何者だったのか? 謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かした第18回開高健ノンフィクション賞受賞作!
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場
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2023/04/11 08:57
山の向こう側にある主人公を垣間見ることができた
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Mr.Problem - この投稿者のレビュー一覧を見る
私自身、エベレスト挑戦第二回目の少し手前からその活動を見ていた者である。
Yahooの特設サイト等で華々しく特集されたりで当初ヒーローに近い扱いで紹介されていたのが、「成功しない」登山が続くことで段々とその活動の情報の取り上げられ方が小さくなる、かつネット世界を通じて主人公への風当たりが強くなってくるのをリアルタイムで感じていた。
多少山をかじっていたからという訳ではないが、自分としても主人公を批判的に見ることが多く、本書の表面的な内容からはその当時自分が持っていた違和感はあまり間違っていなかったと再認識した。
が、山とビジネスというフィルターを意識して外そうと努力しながら本書の内容に接すると、そこに書かれているのは誰しもが持つであろう人間としての弱さ、ズルさ、もがき苦しんだ(苦しまざるを得なかった)のであろう主人公の生き方であることが理解できるのではないか。
作者も主人公を撮影対象から距離を置く人間に変わっていくことを記述しながらも、その向こうにある主人公が持つ人間の生々しさを描こうとしている。
周囲の「期待」を裏切り続けた顛末と結末が死となることを承知しているので、読んでいて段々と辛くなる感覚に襲われてくる。
登場人物の中では数少ない、「山」や「ビジネス」と切り離した主人公を見ていたのだろうと思われる友人Kさんの主人公評と、最後に出てくる東京での相談相手の話す内容に、主人公が救われたような気がした。
安らかに眠ってほしい。