電子書籍
イエティの伝言(小学館文庫)
著者 著:薄井ゆうじ
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19世紀末に足跡が発見されて以来、何度も目撃されているというヒマラヤの住人・イエティだが、その実体はいまだに謎だ。本書は、イエティのリーダーが捕獲されたことで明らかになったその生き方や能力が、人間の欲望に翻弄されていく物語。架空の土地や謎の生物を描きつつ人間社会に疑問を投げかける筆者の真骨頂。「文明という集団主義は、そうして個人を駄目にし続けてきた」というメッセージが心に響く。
イエティの伝言(小学館文庫)
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紙の本イエティの伝言
2005/05/25 20:14
最高傑作だ。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
決して薄井ゆうじを軽んじるわけではない。彼の作品は全て読んできて、そしてどの作品も全て愛してきた。その上で、この作品が最高傑作だと、そう思う。読み終わった瞬間茫漠とし、数分後に鳥肌が立つと共に涙が出た。なんと深い意味合いを持つ物語なのだろう。
有史以来、圧倒的な力を持って生命の頂点に立ってきた人間。他のあらゆる生き物を従え飼いならし、時に殺戮して君臨してきた。しかしもし、人間と同等か、それ以上の生命体(イエティ)が人間に相対した時、一体何が起きるのだろうか。そんな物語である。
だがこの構図は、今の人間世界に当てはまらないだろうか。世界中で起きている愚かな戦争。人間たちはくだらない利権の為だけに戦争を起こし、その国の美しい歴史や習慣を踏みにじり陵辱し消し去り、純な命を無に帰する。その構図に果てしなく似ていないだろうか。薄井ゆうじが訴えたかった物は、そこにあるのではなかろうか。
彼の作品には、他には無い共通した読感がある。あるときはまるでペットボトルで作られた前衛芸術のように美しく透明で、温度を感じない。しかしまたある時は、母の胸に抱かれているかのように柔らかく、炎よりも太陽よりも暖かい。その感触はこの作品でもありありと感じた。しかしこの作品で初めて、たとえようの無い怒りや憤りと言ったものを初めて感じたのは、私だけだろうか…。久々に取った彼の作品、本当に胸を打った。これからも、最大限の期待をせずにはいられない。