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10件
白い巨塔
著者 山崎豊子 (著)
国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。華麗なるメスさばきでマスコミでも脚光を浴びる彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。しかし現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌悪し、他大学からの招聘を画策。産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、あらゆる術策をもって熾烈な教授選に勝ち抜こうとするが…。教授選挙に絡む利権をめぐり蠢く人間模様を描いた医療サスペンスの傑作!
白い巨塔(五)
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白い巨塔 新装版 1
2003/11/25 02:07
今もって新鮮に読まれる理由
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぱんだ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読んでいて、一番、驚いたのはこの本が昭和40年、
いまから40年近くも前に書かれた
ものであること。
もう、30近くになる私が生まれる10年も前に書かれたということ。
なのに、なぜ、今もって新鮮に読まれるのはなぜだろう。
昨年ごろから「ブラックジャックによろしく」などの医療漫画が
医療の内部事情を語るものとして話題を呼んでいる。
私も何冊か読んでみたが、確かにびっくりした。あまりにもずさんな
診断、治療。所詮金が優先される医療事情。なんじゃこりゃと病院
を信じきってた自分が、情けなくなったと同時に医者に行くのが
怖くなったりした。この漫画家は偉い、告発して、と思った。
でも、山崎氏は40年も前に同じことをやってのけてたのだ。
この本を読んでみてびっくりした。
フィクションという名を借りて、でも内部事情をつぶさに「告発」している。
患者より自分の名誉を優先する医学部連中、医療ミスの隠ぺい工作、
正義感をもって医療に望む町医者を「冷や飯食らい」を呼ぶ…。
これってまったく「ブラックジャックによろしく」と同じじゃない!!
いや、それより、きつい。フィクションだから? オーバーじゃないの??
所詮ドラマなのか??
いや、事実なのかもしれない…。
当時のことだ。どのように取材できたんだろう? 顔写真をみると、
一見柔和そうな(うちのばあちゃんに似てる)顔がうつっている。
この人はこんなことして、医療機関の裏ボスから何かされなかった
のだろうか??
心配でならない。だって、当時今のように言論は自由ではなかっただろう。
ましてや女性である。当時どのようなセンセーションを巻き起こしたのか。
想像を絶する。
それよりも、びっくりするのは、この本がベストセラーとなり
(うちの実家にもあった)何人の人に読まれ、テレビドラマにも
なっていたことである。
つまり、誰もが医療機関の内部事情を知ったのだ。どう思ったのか?
所詮ドラマ? 大げさ作り事? と解釈されたのだろうか??
この医療の実態をよいものに変えようと思ったのだろうか?
答えはノーだろう。きっと単なる噂話でなにも改良されていない。
40年たった今、「ブラックジャックによろしく」が新鮮なものと受け止められている。
また、医療ミスのニュースは、毎晩のように報道されている。
日本人には、いや、日本医療界に、山崎氏のメッセージはほとんど
浸透していなかった。
情けない、かつ、不思議でならない。
再びテレビドラマ化された今、単なるドラマとして観るか(読むか)
山崎氏のメッセージを受け、行動するか…。答えは明らかだ。
40年後の若者たちに失望されないために、また、そのとき、すっかり老いて、病院漬け
になっている私自身を救うために…。
白い巨塔 新装版 1
2004/06/25 01:20
人間の生命の大切さを思う
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あや - この投稿者のレビュー一覧を見る
教授選出選挙と医事裁判。重いテーマと全5巻にわたる大作であるが、丁寧な人物描写、膨大な取材による正確な事実により、引き込まれるように、あっという間に読み終えることができた。
前半は、教授選出選挙。前任教授東と対立し、財前は義父の金銭面や人的な面での援助をうけながら、様々な策略をめぐらせる。その様子はさながら政治の世界のようである。本を読みながら、ドラマで大河内教授が言っていた台詞が頭をよぎった。彼は確か、こう言っていた。「財前君は、いつから政治家になったのかね」と。
後半は、医療裁判。国際学術会議前後の多忙さからか、誤診により看者を死亡させた財前は民事裁判で訴えられる。裁判に勝訴すべく、医局内を統一し、特に担当医・柳原に対しては、教授という力を利用してその証言までもコントロールしようとする。完全にコンロトールが効いていたかのように見えたが、医局員をコマとしか捉えていない考え方に反発した医局員により、裁判の流れは大きく変わり、財前は控訴審で敗訴してしまう。その後、病が発覚、物語は悲しい結末を迎える。
権力へのすさまじい執念をもつ財前。方や真実を追究し、看者に対し誠意を見せる里見。2人は同期であるが、医療に対する姿勢は全く反対である。教授選においても、医事裁判においても。さらに、学会や評議会議員選挙においても。それゆえ、小説でもドラマでも、里見=善、財前=悪、というイメージが強い。しかし、一歩引いてみれば、あのような財前がいたからこそ里見という医師が存在し、里見がいたからこそ財前という医師が存在したはずだ。そして、財前は自分が病になってはじめて、医師による診療を受けることの大切さ、安心感に気付いたのだろう。
財前が迎えた悲しい結末、財前の手紙には、医師としての良心が少しだけ見えたような気がして、涙した。
今でもそうなのかは分からないが、少し前まで、医師は神様と思われているような節が確かにあった。そして、自分や家族の身体を治してくれる医師との間で、気が付かないうちに上下関係に立ってしまっていることもあった。
しかし、相次ぐ誤診報道により、この見方自体が崩れ、医療全体のあり方が変わってきているように思われる。
人間の生命が他のいかなるものよりも大事だということを、改めて認識した。
2021/03/07 22:46
現代にも通ずる人間模様
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あゆみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本が発刊されたのは昭和であるため、女性が着物を着ているなど時代を感じる描写もある。しかし、組織における人間模様は、平成を経て令和になったにも関わらず、当時と変わらないように感じた。登場人物にも個性があって、「あー、こういうタイプいるいる」と思う場面も多々あった。大学病院が舞台なので重い内容かと思ったが、平易な文体で、いわゆるサラリーマンあるある的な部分もあって共感しながらサクサク読めた。