機長からアナウンス
著者 内田幹樹 (著)
旅客機機長と言えば、誰もが憧れる職業だが、華やかなスチュワーデスとは違い、彼らの素顔はほとんど明かされない。ならばと元機長の作家が、とっておきの話を披露してくれました。スチュワーデスとの気になる関係、離着陸が難しい空港、UFOに遭遇した体験、ジェットコースターに乗っても全く怖くないこと、さらに健康診断や給料の話まで――本音で語った、楽しいエピソード集。
機長からアナウンス
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機長からアナウンス
2009/05/25 09:50
冷静な観察
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
機長からアナウンス 内田幹樹(うちだもとき) 新潮文庫
作者は2年前に66歳で病気のために亡くなっています。この本はよく売れていて、平成16年発行で、30刷まできています。航空業界関係者の読者が多いのでしょう。
冒頭にある報道機関や警察に関する問題提起はGoodです。わたしも日頃からその偏りに批判的な視点をもっています。また、作者同様に航空機の限界に近い速度よりも安全が優先だと共感します。
日本には多くの組織がありますが、いずこもムラ社会という閉鎖的な環境の中にあるということには実感があります。人々は、非常に狭い世界の中で、労働に携わっています。職場ごとに管理職とは別の実権を持つ経験年数の長い村長さんがいて、村人たちはその仲間であり手下です。自分たちに都合のいいルールをつくって運用していきます。そして、そこから腐敗が生じてきます。
作中に作者が書いた小説部分の抜粋がありますが、あいにくわたしは興味が湧かなかったので読み飛ばしました。わたしは航空機の操縦には関心がありません。
UFOを見たことがあるという記述はGoodでした。
120ページの記述を読むと飛行機の揺れが怖くなくなります。パイロットが乗客の体調を考えて意図的に飛行機を揺らすことがあるようです。177ページの航空管制官についての問題提起はGoodです。やる気のなさが事件や事故につながっていきます。
作者の意見や主張は、作者の死去とともに消滅したという印象をもちました。241ページ、クレイジーな乗客、いわゆるモンスターなんとかは、日本固有のものと思っていましたが、いまや世界中のあらゆる業界に存在することが理解できました。
機長からアナウンス
2006/12/24 21:52
興味をもって気軽に読めるけれど、なかなか鋭い指摘がそこここに。
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いまや長距離バスか新幹線に乗り込むかのように飛行機を利用しているが、それでもまだわずかに搭乗前の張り詰めた空気にステータスを感じる。シートベルトを締めた時の緊張感、座席の下から持ち上げられるように浮く感触は他の乗り物では体験できない快感である。
そして、頭では理解していてもとんでもない重量の旅客機が空を自在に飛ぶことに人間としての優越感を感じるときである。
そんなエアラインのキャプテンが書いた裏話というか、業界秘話というか、一般の乗客では知りえない事に興味が及ばないほうがおかしい。
スタートはどうしてもスッチーに話題が飛ぶのは致し方ないが、安全問題、環境問題、航空行政、マナー、UFO、人間関係など多岐にわたって引き込まれる話題ばかりである。
機内誌の軽い読み物的にページをめくることができる内容ではあるが、ふとした箇所にハッと気づかせてくれる文章がある。
たとえば、厚い雪雲の上空を飛んでいる時に浮かび上がる光に不思議を感じて目を凝らしてみると、夜間スキー場の照明であり、その照明の熱が上昇して雪雲に空間が生じている描写である。
快楽を求める人間の欲、より長い時間滑っていたいという欲、過疎地における金銭欲が環境を破壊しているという図式である。とうぜん、その上空を飛行している航空機も環境破壊の一翼を担っているのは承知の上だが。
そして、金を払っているんだから俺は客だ!と息巻く勘違い客をこなしていく客室乗務員の苦労は並大抵ではないだろう。
24ページにある「優秀なチーフパーサーは評価されない?」という箇所を読んで、これは一般社会にも十分に通用する話だと思う。表面的には何も問題が起きていないから誰にでも易々とこなせると思っている仕事ほど、如才なく周囲に気配りをしている人がいるものである。しかしながら、得てしてそういった人は目立たず、「俺が、俺が」とでしゃばりもしない。
問題が起きていないから何も起きていないのではなく、問題になるまえに経験と勘とコツで機転を利かせてリスク回避している人がいるという事を見逃しがちだが、機長たちはそれを誰が回避させているかを知っているのには流石と感心する。
日本の航空行政においては、公務員管制官の甘さ、空港施設体制の甘さを指摘しているが、官僚は民間航空機に乗っている乗客の命は民間が保障するものと考えているのではないか。
さらさらと読むことのできる文体だったが、なかなかどうして、ポイントにきっちりと着地してくるこの機長の操縦はスグレモノだった。