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4件
草の花(新潮文庫)
著者 福永武彦 (著)
研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。
草の花(新潮文庫)
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草の花 改版
2001/09/20 02:06
私の宝物級の切ない青春小説
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ガーディ二ア - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は、この本と高校2年生の暑い夏の日に出会った。一瞬でこの本の虜になった私は、その夏、ひと夏かけて福永の本を読破した。
全て読んだが、やはりこの作品が抜きん出て素晴らしく感じた。かなわない青春の思い。精神的三角関係の重み。絶望感とその先にかすかに見えるような光。
マチネポエティックの名付け親であり、フランス文学に精通していただけあって、その語り口はなめらかで流れるようで、うっとりとする。
この本と出会ってよかった。本当にそう心から思う。
草の花 改版
2003/11/21 15:25
庭の中をぶらぶらと歩きながら静かに始まる物語だけど、入院生活と患者の心をズバリと現わして読ませてくれる。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:emiemi - この投稿者のレビュー一覧を見る
サナトリウムで知り合った汐見茂思が、冒険ともいえる肺摘手術を望んで受けて死亡する。
いつも書いていた大学ノートが2冊あって、それは「僕が今、此処にこうやって生きていることの証拠に、何か書いていなければ気が済まないというだけ」で、小説のようなものだと言っている。これが本編の「第一の手帳」「第二の手帳」になる。
その中での汐見の青春時代の会話は「もっとbrillantなものだ」「Physiqueな要素とは何だろう」といった言い方があちこち登場する。
読んでいる自分とはかけ離れていて、その挫折がどれほどのものなのか想像するのは辛いところだったけれど、高い知性と純粋すぎる愛を感じることができた。
今の自分にすんなり通じるメッセージを受けたところは、戦争に対する恐怖で、「如何にして武器を執ることに自分を納得させるか。」「殺せるか、死ぬか。」など強く印象に残った。
実は、本編より前にある当時の入院生活のほうが興味深く、また、患者の心理も生々しかった。この本を病院の待ち合い室で読み始めて、自分の健康に不安を持っていたからかもしれない。
まず、入院費用の心配からラジオの修理などのアルバイトが許されていたこと。
それから、同室の患者たちを「偶然が人生途上に齎(もらた)した仮初(かりそめ)の友人達と言」いながらも「一人は一人だけの孤独を持ち」「嫉妬や羨望や憎悪など、何よりもエゴイズムの秘められた感情を、隠し持っていなかったと誰が言えよう」とまで表現してあるところ。
こんなにズバリと言われるなんて。他にも著者に言い当てられて、かえって潔く開き直ることができる文章が多くある。
草の花 改版
2022/12/24 22:44
特別な一冊
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:はるや - この投稿者のレビュー一覧を見る
好きな小説は、と問われて真っ先に思い浮かぶのが福永先生の『草の花』です。心に残った小説は他にも数多あれど、本作は私にとっては格別です。
サナトリウムで療養生活を送る詩人の「私」は、他の患者と同様、日常的に死を間近に感じながら自身の病状に一喜一憂して日々を過ごしています。ところが、同室の汐見は死を恐れる気配もない。そんな態度に興味を持った「私」はやがて彼と懇意になりますが、汐見は自殺行為ともいえる危険な手術を自ら希望し、還らぬ人となります。彼は二冊のノオトを「私」に託して逝きました。ノオトには、汐見の青春時代に愛した少年と女性について記されていました。
物語の核となるのは、このノオトの内容です。第一の手帳では、学生時代に愛した少年・忍への恋心が描かれています。いわばボーイズ・ラブではありますが、惚れた腫れたのやりとりとは無縁な、純真で繊細な世界が広がっています。それがもう、とにかく美しい!! 澄んだ美しさです。またたく星の光、雪の結晶の鳴る音……というイメージ(私の中では)。
孤独とは、愛するとは、生とは、死とは。といった哲学的な考察もこの小説を読み解く上での醍醐味ですが、まずはこの世界観に酔いしれてください! ……と言いたいです。
また、ボーイズ・ラブ要素とは別に、男友達とのやりとりが知的で爽やかで微笑ましいです。
第二の手帳は、忍の妹である千枝子との恋愛。こちらは第一の手帳と比較して大人な内容です。男女の恋愛ですが、肉体よりも精神に重きが置かれています。戦時下の召集令状が迫る中での恋愛であり、ここで汐見の生き方が問われることになります。信仰の是非、潔癖なまでの高い理想。結果としてサナトリウムでの死につながっていきます。
汐見の人生をはさんで、プロローグに「私」が語る『冬』。そしてエピローグに「私」が語る『春』。
冬から春へ、「私」も「千枝子」も前へ進んでいく中で、去っていく汐見の愛と人生。構成がすばらしいです。
もともと小説に縁遠かったのですが、現国の問題集で『第一の手帳』の一部が抜粋されており、その文章の美しさに衝撃を受けた中学生の私は、はじめて自分から書店の文庫コーナーに赴いてこの小説を買いました。
そんな思い出もあり、『草の花』は私にとって特別な一冊です。