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8件
伊豆の踊子
著者 川端康成
旧制高校生である主人公が孤独に悩み、伊豆へのひとり旅に出かける。途中、旅芸人の一団と出会い、そのなかの踊子に、心をひかれてゆく。清純無垢な踊子への想いをつのらせ、孤児意識の強い主人公の心がほぐれるさまは、清冽さが漂う美しい青春の一瞬……。ほかに『禽獣』など3編を収録。
伊豆の踊子
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伊豆の踊子 改版
2006/01/09 16:21
さわやかな青春小説
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぶんこずき - この投稿者のレビュー一覧を見る
さわやかな青春小説である。
青春時代の初恋、異性に対する好奇心、憧れ、そして別れを、旅の行程の中で実にうまく描いている。
若いころに誰もが一度は経験のある初恋、憧れと言った気持ちがじつによく表されている。
ラストでは、主人公の気持ちがよく伝わってくる。
また文章も実に平易で名文であるとおもう。
伊豆の踊子 改版
2020/06/16 17:21
永遠の名作
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まさがき - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作は「これぞ青春」といった感じでした。
青春は、決して楽しいものではないですが、血にまみれるようなものでもないです。
この作品は、感傷的ながらもサッパリと「青春」を描いていて気持ちいいです。時代を越える名作です。
他三編、どれも素晴らしい作品ばかりです。
楽しい「温泉宿」から、切ない「叙情歌」そして最後は「禽獣」で笑う…っていう収録順も、すごく良いと思います(笑)。
伊豆の踊子 改版
2011/07/18 11:05
年を経て得る新たな感動
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BH惺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昔子供の頃に読んだ印象と今大人になって読んだ印象がどう変化しているのか。その違いを感じたくて読了。
当時、中学生だった自分の感想はとにかくこの「私」と踊子の薫との淡く儚く、結ばれぬことのない初恋がとても切なかった。特にラストの乗船場。お互いこれきり会えないと予感しつつも、ひと言も別れの言葉を交わせない。そんな純情すぎる想いを抱えながら、陸地を離れてゆく汽船という劇的な別れのシチュエーションにただ涙。
そんな2人の初恋物語として読んでいたんですね。
が、今回大人になって再読して……やはり見方は一変!
まず、この「私」が作者・川端康成自身を投影したキャラクターだということを新発見。幼いうちから両親・身内を亡くして天涯孤独の身となってしまった作者の生い立ちが、この作品に多大なる影響を与えているのだろうと推察。
その「私」と踊子はやはり年が近いせいかお互い意識しあっているのだけれど、それは恋心というにはあまりにも幼すぎて淡い。
それよりもむしろ、常に孤独な身の上であった「私」が、踊子の身内である旅芸人達と知りあい、触れあい、まるで一時家族のように過ごしたひとときに対する強烈なノスタルジーを感じました。
当時、旅芸人は一種差別されていたようですが、「私」はそんなことは意に介さず彼等との接点を自ら求めようとしている。それはやはり貧しいながらも家族で寄りそう旅芸人達の温かさ、現時点では決して手に入れることのない「家族」のぬくもりを「私」は彼等の裡に見出していたのではないかと。
人間本来が持つ何かに何処かに帰属したいという欲求。それはすなわち孤独を厭う素直な心の現れ。
作者・川端康成の当時の精神状態、置かれていた状況等々から察して、これは半自伝的な私小説であるような印象持ちました。
ラスト、別れた後の汽船内でたった独りとめどなく泣く「私」。
もちろん淡い恋心を抱いた踊子との別れを悲しんでいたことも事実だろうけれど、それよりも実は自分を家族の一員のように接してくれた旅芸人達との別れを惜しんでいたのではないかと、痛烈に感じました。再び孤独の世界に戻ってゆく自分に対する憐れみの涙だったともいえるのではないかとも。
昔読了した時は伊豆という舞台がとても印象に残っていたのですが、実はあまり詳細な描写が施されていないことにちょっと驚き。伊豆・下田・天城峠などの地名は登場するけれど、その自然や土地の描写などが殆ど無くあっさりと流されていたんですね。意外でした。