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4件
青春の蹉跌
著者 石川達三 (著)
生きることは闘いだ。他人はみな敵だ。平和なんてありはしない。人を押しのけ、奪い、人生の勝利者となるのだ――貧しさゆえに充たされぬ野望をもって社会に挑戦し、挫折した法律学生江藤賢一郎。成績抜群でありながら専攻以外は無知に等しく、人格的道徳的に未発達きわまるという、あまりにも現代的な頭脳を持った青年の悲劇を、鋭敏な時代感覚に捉え、新生面を開いた問題作。
青春の蹉跌
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青春の蹉跌 改版
2010/02/05 20:36
死を扱いたい作家
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kumataro - この投稿者のレビュー一覧を見る
青春の蹉跌(さてつ) 石川達三 新潮文庫
昭和43年の作品であり、そのときわたしはまだ10歳です。10代の頃、同じ作者の「蒼茫(そうぼう、青い海原を指します。)」を読みました。おそらく大正時代末期から昭和時代の初期だと思うのですが、ブラジルへ向かう日本人移民の物語でした。日本を出港した移民船の中で、次々と人が死んでいくのです。病死でした。その先は記憶が定かではないのですが、ブラジルへ移民後も、やっぱり人が死んでいくのです。亡くなっていく群像は、日本の貧困な農民家族でした。この「青春の蹉跌」でも人が死ぬわけで、その点で、作者は「死」を扱いたい作家でもあるのです。
「蹉跌」とは、小学校1年生のときに理科で学んだ砂場での砂鉄とりを思い出します。磁石を砂に突っ込むと磁石に鉄がくっつくのです。でも蹉跌の意味は、挫折とか失敗の意味であることをこの本を読み終えてから知りました。いままで、何十年間も蹉跌は砂鉄と勘違いしていました。
本作品の主題は重い。作者は人間の尊厳(犯すことができないおごそかなこと)にかかわる部分に挑戦しています。小説の中だけで表現できる世界です。主人公の大学生江藤健一郎くんの理屈っぽく、偏(かたよ)った考察、彼ひとりの論理展開が延々と語られる手法で物語は進んでいきます。だから読者は、相手方の大橋登美子さん18歳(貧しい家の娘さん)や江藤康子さん(お金持ちの娘さん)の気持ちの動きを自分で想像とか予想する必要があります。
作者が今もご存命なのかどうかは知りませんが(この文章を書いたあとに調べたところ20年ぐらい前に亡くなっていました。)、作者自身が今この自分の作品を読んで、どのような感想をもたれるのかを知りたい。わたしが20代のときにこの作品を読んだら心酔あるいは感服、共感したでしょう。しかし今は50代であり、江藤健一郎くんの考えは滑稽(こっけい)でありユーモラスです。彼は他者を責めますが、彼自身が汚れていることに自分では気づきもしません。自分ひとりだけが、論理的な考えをもっていると肯定しますが、思春期の男女は同様の感覚をだれしもがもっており、彼は大多数のなかのひとりでしかありません。
有名大学の法学部を出て犯罪で逮捕される人物があとを絶ちません。大学の法学部で何を学んできたのかと疑問をもちます。書中に、法を味方につけたものが勝者になる(金持ちになる)というような記述があります。主人公江藤健一郎くんは、だれを殺すのか。大橋登美子さんか、江藤康子さんか、それとも自分自身の母親なのか。前半にあった場面を後半になって思い出す。スキー場で雪のために遭難したカップルの姿、男性が女性をかばいながらふたりとも亡くなって冷たくなっていた。伏線なのでしょう。男と女は、「好き」という感情がないと長続きしない。
青春の蹉跌 改版
2019/02/05 12:40
酷い男のはずの主人公を応援してしまう私も酷い男なのかも知れない
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
苦学生の主人公が司法試験に合格し資産家の娘と結婚することになる、ところが主人公は別の女性を妊娠させて(実は彼の子どもではなかった)しまいという二時間ドラマにもありそうな展開なのだが、そこは石川達三氏。主人公は理屈をこねまくります。酷い男のはずの主人公を応援してしまう私も酷い男なのかも知れない
青春の蹉跌 改版
2015/11/17 19:53
若さゆえの過ち
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:自室警備員 - この投稿者のレビュー一覧を見る
デスノートに通ずるものがあるのかもしれないが、それよりも深い。
ストーリーラインはベタ過ぎるのだろうが、シンプルゆえの力強さがある。
読後、女の恐さ、したたかさを再確認した。もちろん男も身勝手極まりないのだが・・・。