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遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス―(新潮文庫)
著者 藤原正彦
「一応ノーベル賞はもらっている」こんな学者が闊歩する伝統の学府ケンブリッジ。家族と共に始めた一年間の研究滞在は平穏無事……どころではない波瀾万丈の日々だった。通じない英語。まずい食事。変人めいた教授陣とレイシズムの思わぬ噴出。だが、身を投げ出してイギリスと格闘するうちに見えてきたのは、奥深く美しい文化と人間の姿だった。感動を呼ぶドラマティック・エッセイ。
遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス―(新潮文庫)
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遙かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス
2007/03/22 23:22
才能があったり,コネがあったりすると,いいなぁ
9人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BCKT - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一章 ケンブリッジ到着
第二章 ミルフォード通り17番地
第三章 研究開始
第四章 ケンブリッジの十月
第五章 オックスフォードとケンブリッジ
第六章 次男が学校でなぐられる
第七章 レイシズム
第八章 学校に乗り込む
第九章 家族
第十章 クイーンズカレッジと学生達
第十一章 数学教室の紳士達
第十二章 イギリスとイギリス人
著者は1943年(満州国)生まれ。新田次郎(作家)と藤原てい(『流れる星は生きている』)の次男。東大理学部数学科卒後,同大大学院修士課程修了。ミシガン大学研究員(72年,29歳)。理学博士(73年,東大,30歳)。専門は数論。コロラド大学助教授(73年)。お茶の水女子大学理学部数学科教授(88年,45歳)。『若き数学者のアメリカ』で第26回日本エッセイストクラブ賞受賞(78年)。本書は,1987年から1年間のケンブリッジ大学に文部省在外研究員として留学したときのエッセイ。刊行12年間で12刷りだから,出版社としては“よい著者”だ。
数学者としては文章は読ませる。文章は,種類こそ違え,森毅と同じくらい面白い。「遥かなるケンブリッジ」という題名も素人にはイメージ喚起的だ。最初の2章はイギリスの門前で,第三章から第九章まででイギリスに入場しており,最終3章で,溶け込んだイギリスの感想を述べるという構成。
イギリスの大学の様子や数学者たちの人間的な側面などがよくわかるが,私などは業界の人間ではないので,世界規模で有名な人物の人となりもただの登場人物に過ぎない。藤原のイギリス(人)評価は,イギリス人数学者には当てはまるかもしれないが,下層のイギリス人にはまずは当てはまらないだろう。国民性評価なんていい加減なもんだ。言いたい奴らが言いたいように言って,納得したがってる奴が納得しているという構図で,これといって根拠がない。統計的なウラなんかまずはない。そもそも,たとえば“国を理解する”という状態を成り立たせる条件はいったいなんだろうか? もしその国に住むことが条件であったりすれば,殆どの人に国は理解できない。とすれば,評価はまず不能だ。頭が悪くとも,こっちは向こうに住んできたんだ,だから僕のほうが正しい,なんて凄まれれば,周囲がアホなら勝てる見込みはまずない。もっとも,勝つことには意味はないのだが。
藤原さんは有名作家の子弟なので,著作上の才能があったり,出版社との特殊なコネがあったりすると,いいなぁ。
本書は1988年7月刊行の(ってことは帰国と殆ど同時)文庫本化。解説は南木圭士(作家・内科医)(1057字)