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6件
裏庭(新潮文庫)
著者 梨木香歩
昔、英国人一家の別荘だった、今では荒れ放題の洋館。高い塀で囲まれた洋館の庭は、近所の子供たちにとって絶好の遊び場だ。その庭に、苦すぎる想い出があり、塀の穴をくぐらなくなって久しい少女、照美は、ある出来事がきっかけとなって、洋館の秘密の「裏庭」へと入りこみ、声を聞いた――教えよう、君に、と。少女の孤独な魂は、こうして冒険の旅に出た。少女自身に出会う旅に。(解説・河合隼雄)
裏庭(新潮文庫)
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裏庭
2007/07/14 14:42
ファンタジーという名の神話
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鳥居くろーん - この投稿者のレビュー一覧を見る
なんの予見も持たずに読んでいたら
話が突然 鏡の中の世界に取り込まれ驚く
私はこの手合いの展開に慣れておらず
しかしそれにしてもどこかで読んだような
などといぶかしく思っておれば
思い出した これは童話の世界であった
さらにいうなら世界各地の古い民話や伝承
それらを下敷きにしている
先祖代々より見知った世界
いうなれば神話なのかもしれん
常識とか立場とか そういったものでできた分厚いヨロイ
それを着込むことに慣れてしまった我々が
生身を取り戻すことはもはや
なまじなことでは果たされまい
そう 遠い記憶をよびさます声に触れる そのことをのぞいては
世間一般の評価はどうあれ、梨木香歩の文体は私にとって脅威。たいそう魅力的なのだが、一度引き込まれると自分自身を見失いそうな不安を感ずる。それはただ優しいというだけでなく、恐ろしい感覚をも呼び覚ます根源的なもの。たとえ好きであれ、そうそう迂闊に読むことはできない。
裏庭
2002/02/05 19:22
ムーミンの世界に似ている
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:楓 - この投稿者のレビュー一覧を見る
双子の弟と死に別れ、共働きの両親と暮らす少女・照美。イギリス人一家の別荘だったというバーンズ氏の秘密の「裏庭」で、彼女の孤独な魂の物語が始まります。自己救済、という重めのテーマを子供にもわかるように説いた長編。著者の傑作だと思います。異世界と現実世界を主人公・照美の内と外になぞらえて進んでゆく物語は、どこかムーミンの世界を思わせる優しさを併せ持っています。しかし、重い作品なんです。読んだあと、救いとは誰によってなされるものなのか、と考えさせられてしまいました。
裏庭
2002/05/10 16:37
傷をみつめ、自分のものにするための旅
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:梅矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学一年生の少女照美はバーンズ屋敷の「裏庭」へ渡って冒険をする。冒険には相応しい衣装が必要だ。照美が貸衣装屋で選んだ服は、傷つき血を流す特別な服だった。子どもであるからといって心の傷と無縁ではない。彼女にとってこの旅は、傷との付き合い方を語る三つ子の「おばば」の言葉を聞く旅でもあった。
傷は照美の母、さっちゃんにもあった。思春期を迎えた女の子にとって当たり前の身体の変化を、罪であるかのように扱われては救いがない。女であることの呪いを、なぜ女性である母親も吐くのだろう。実の母親から冷遇されて負った娘の傷は別の女性にも共感されやすい。しかし同性の娘に対してそうせざるを得ない母親の傷は取り残されてきた。この話は、女から女へ受け継がれた負の遺産を断ち切る話でもある。照美という名前は、さっちゃんのお母さんが生前「娘が生まれたらつけてほしい」と言っていた名前だったのだ。もしかして彼女は、孫娘がやがて根の国まで自分を追いかけて、かつての自分の傷さえ浄化させる力を持つ子だと予感していたのかもしれない。