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3件
孤高の人
著者 新田次郎 (著)
昭和初期、ヒマラヤ征服の夢を秘め、限られた裕福な人々だけのものであった登山界に、社会人登山家としての道を開拓しながら日本アルプスの山々を、ひとり疾風のように踏破していった“単独行の加藤文太郎”。その強烈な意志と個性により、仕事においても独力で道を切り開き、高等小学校卒業の学歴で造船技師にまで昇格した加藤文太郎の、交錯する愛と孤独の青春を描く長編。
孤高の人(下)
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孤高の人 改版 上巻
2007/10/01 22:38
単独行の加藤文太郎の一生
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:MtVictory - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の加藤文太郎は昭和初期に「単独行の加藤」と呼ばれた山岳界の異端児的存在であった。また「関西に加藤文太郎あり」ともいわれ、神戸にあって関東勢との対抗勢力の看板のように持てはやされた。
彼の名前は「われわれはなぜ山が好きか」や「みんな山が大好きだった」など、これまでに読んだ山の本で知っていた。彼も山で亡くなった一人として。また、雪山で冬眠中の熊のように眠ることができるという伝説や、超人的な存在として。
彼はそれまで裕福な学生や山岳会にしか開かれていなかったブルジョア的(死語ですね)な登山を、広く一般の社会人にも解放したという功績があったことで知られている。
本人のその性格もあって、短い一生の山行の全てを単独で通したが、皮肉にも唯一パートナーを組んでの北アルプス北鎌尾根へのアタックが彼の最期の山行となってしまった(昭和11年正月、31才)。
本書は加藤文太郎のアルピニストとしての人生を中心に、会社や友人、家族との関わりを絡めて描く伝記小説である。
本書は加藤本人が残した資料(著書「単独行」)をもとに著者が書き下ろしたものだが、恐らくほとんどは創作でありフィクションであろう。なぜなら加藤という人は余程の事がない限り他人とは口をきかなかったらしいし、そもそも単独行の加藤であるから、その山行の実態も明確ではないと思われるから。また、最期となる北鎌尾根での遭難死の過程などは著者の推理からなるものであろう。ただ、著者は富士山観測所の勤務時代に加藤と会っているというから、彼の人柄は感じることは出来たのだろう。
加藤という人物像が生き生きと描かれ、読んでいるうちに彼に感情移入してしまう。
物語のクライマックスでは感極まって、目頭が熱くなった。まるで結末を知っている映画を見るように、来るな来るな、と思いながらも泣かされてしまう。これも著者の力であろう。
忘れてはいけないのは彼は最初から超人的な登山家ではなく、兎に角歩き回って足腰を鍛え、冬山にのめり込むと、冬山に打ち勝つために様々な研究と訓練をした。信じられない訓練がある。仕事場へ石を詰めたリュックを背負って通うとか、冬の夜、下宿では寝ないでビバークを想定して外で寝る、吹雪で身動き出来なくなり食料が尽きてしまうことを想定して、絶食して会社に通うなど。
山での食事方法や、冬山での装備(特に衣服)にも様々な工夫をしていたようだ。
孤高の人 改版 上巻
2008/12/23 12:37
地下足袋の加藤文太郎
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ベストビジネス書評 - この投稿者のレビュー一覧を見る
秀作。山男が一度は読む本。加藤文太郎に心酔し山にはいった人々も多い。
雪山のなかでひとりころがって夜をあかしたり、食事を極端に制限したり、自分の限界に挑んでいく。それらはすべて山で生き抜く不屈の体力と精神力を養うため。山での携行食、甘納豆と干し魚など工夫。だが加藤文太郎の生き方は山だけでなく現在の多くの学生、ビジネスマンにも是非おすすめである。どうして山に登るのにきらびやかな服装やかっこうをつけ、形式がいるのかとの加藤の問いはいまも永遠である。
孤高の人 改版 下巻
2008/12/23 09:10
登山の原点
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ベストビジネス書評 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まさに登山の原点だろう。現在のように、いたずらに百名山踏破などと有名な山ばかり登っていても山のよさはわからないのかもしれない。六甲を縦横無尽に歩き回る加藤文太郎。山の道具、食料を自分で工夫し厳冬期の冬山に挑む。リュックサックに岩をかついで通勤する姿は山男の真の姿であろう。ほんものの山男のバイブルである。