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8件
せどり男爵数奇譚
著者 梶山季之
“せどり”(背取、競取)とは、古書業界の用語で、掘り出し物を探しては、安く買ったその本を他の古書店に高く転売することを業とする人を言う。せどり男爵こと笠井菊哉氏が出会う事件の数々。古書の世界に魅入られた人間たちを描く傑作ミステリー。
せどり男爵数奇譚
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せどり男爵数奇譚
2012/02/24 17:52
あまりの面白さに続けて二回目を読んだ、痛快な名著!
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジーナフウガ - この投稿者のレビュー一覧を見る
先日読了した【ビブリア古書堂の事件手帖】に於いて、重要な鍵を握っていたのが、
この小説と、主人公で【せどり男爵】の二つ名を持つ笠井菊哉氏であった。
狂信的な古書マニアが使用した物語と、その主人公。これは、本好きの端くれとして見聞しておかねば、
との思い強く、手に取った次第である。六編の連作短編から出来ている本書であるが、
先ずは筆者と男爵笠井氏との出逢いからして面白い!筆者である梶山季之氏が働いていたバーに、
時々現れては、焼酎やジン等の透明な酒を水で割って創るカクテル、その名も『セドリーカクテル』のみ注文し、
きれいに現金で支払いを済ませ去って行く。謎多き紳士として、筆者の記憶に残っていたのが笠井氏だった。
作家となってから客として飲んでいた店に、相変わらず謎に包まれた風貌で入店してきた男性に、
勇気を出して話し掛けてみた所、向こうも梶山氏の存在を記憶していて、貴方にならばと、
自分の関係している古書店の業界内で、如何にして己が【せどり男爵】と呼ばれるに至ったかを
打ち明けるのだった。はてさて肝心要の【せどり】なる行為であるが、これは、新規開店の店へ行って、
必要な古本だけを買う事で、俗に『抜く』とか『せどり』と云うのだそうな…。
笠井氏は本物の男爵家の子息でもあったから、せどり名人である彼に、皮肉と敬意を込め、
【せどり男爵】の誕生と相成った訳である。それにしても、様々な古書業界の内幕が分かって、すこぶる面白い!!
全集は一巻でも抜け落ちていれば価値は暴落。反面、全巻がキチンと揃っていれば価値も価格も高騰する。
だから好事家は今日も、恋人探しの如く、一冊の書物を求めてさ迷う。
男爵が宝物一冊を入手する為に払った驚くべき代価とは?男爵が仙台のクズ屋の店先に見つけた
永井荷風の発禁書【ふらんす物語】。裏表紙の内側に貼られた蔵書票の、
その下に隠されていた謎の伝言を読み解いていくとそこには…。
古書店主たちと訪れた韓国で、総額一億二千万円もする、コインの一枚を購入した縁で、
沢山の宝物を入手する経緯。笠井男爵が、プライベート用に秘蔵していた、シェイクスピアの初版本を巡って、
アメリカを影から動かす権力を持っている、大富豪婦人との丁々発止の駆け引きと、
『セドリーカクテル』誕生秘話。ここの部分は、さすが男爵と渾名されるだけあるなと笠井氏の手腕に舌を
巻きました!!それにしても、こうして、長い間本好きに読み継がれている隠れた名著が
他にも沢山あるんだろうなと思うと、自分も古書の世界へ惹かれていくのが分かります。あ、そうそう。
この本も特装限定版が五部上梓されているそうです!これから古書店巡りが益々楽しみになりました。
全ての本好きさんにオススメしたい逸品です!!
せどり男爵数奇譚
2006/10/05 17:35
「汝、姦淫せよ」という一大誤植の聖書があったら?
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本が好きで好きで、とりわけ古書に興味がある人が、本書を読まず通り過ぎるわけにはいかない。
ことにあとがきが誰あろう、あの出久根達郎氏とくればなおさらのこと。
さて前置きが長くなった。本書は古書業界に材を取った我が国最初の本格小説である。
知られざる古書の世界の内幕と書物に魅いられた人間たちを描いたミステリー。
「せどり男爵」こと古書業を営む笠井菊哉がその主人公。
「せどり」とは古本屋仲間で嫌がられる商売の仕方で、新規開店の店へ行って必要な古本だけを買うのを俗に「抜く」とか「せどり」と言う。
または「同業者の中間に立ち、注文品などを尋ね出し、売買の取り次ぎをして口銭をとる事。またその人」を言う。
この「せどり男爵」こと笠井が作家にその辿ってきた生涯と事件を語ることからはじまる連作短編6話がその内容であるが、古本市、古書の値打ち、古本屋の符丁、かけひき、古書業界の摩訶不思議な世界が次々と繰り出されて、本好きにとって、びっくり箱を覗いた面白さが満載。
ちなみに、あとがきを書いた現役の古本屋でもある出久根氏に寄れば、古書にまつわる細部の描写は十中八九まで真実であるとのこと。
またビブリオマニア(書物狂)は、稀本、珍本を前にすると放火、殺人、窃盗までも犯してしまうというミステリー展開が待ち受けていて読者に息つく暇を与えない。
「汝、姦淫せよ」という一大誤植の聖書があったら私でも食指が動こうというもの。
さては私もビブリオマニア(書物狂)に毒されたかも?
時の経つのさえも忘れて一気に読了した久しぶりに面白い本だった。
せどり男爵数奇譚
2015/09/16 12:49
人を狂わす紙の本
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
せどり男爵とあだ名される笠井菊哉が出会った、本に人生を狂わされたかのようなビブリオマニアたちの生態を描いた連作短編集だ。もちろん創作のはずだが、実際にこんな人がいてもおかしくはない。それほど本は魅力的で魔的な側面も持っているのだ。それは本好きならば、少なからず共感できるところもあるはず。
「色模様一気通貫」
笠井菊哉がせどり男爵となるきっかけとなったエピソード。中学生の彼は、師匠ともいうべき人物に出会い、そして彼の人生を狂わす本に出会うことになったのだ。そんな話を、セドリーカクテルをちびりちびりやりながら語る。
「半狂乱三色同順」
せどり男爵の手元にやってきた「ふらんす物語」。それ刊行前に発禁となった永井荷風の著作なのだが、その幻の本があと三冊もあるらしい。そしてそこには、内務官僚のとある秘密が隠されていた。
「春朧夜嶺上開花」
韓国に古書を探しに出かけたせどり男爵は、とある妓生が身につけていたコインに目を奪われる。それにまつわる行動が、思わぬものを彼にもたらすことになるのだが…。
「桜満開十三不塔」
シェークスピア「フォリオ」の初版本を手にしていた笠井菊哉は、それを占領軍とつながるユダヤ人の婦人に見せたばかりに、とてつもない災難に見舞われることになる。
「五月晴九連宝燈」
バチカンの神父たちの周辺で連続して起きる殺人事件。それには密輸と、「コンペンジューム・スピリチュアリス・ドチェリーネン」という本が絡んでいる様に見えるのだが…その真相は意外な狂気に彩られていた。
「水無月十三公九牌」
笠井に紹介された装丁家の佐渡は、一冊の本に人生を変えられた。それは「姦淫聖書」と呼ばれる誤植のある聖書。それを手に入れた中国人が佐渡に依頼したのは、少女の皮膚でそれを装丁することだった。