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バンコク楽宮ホテル
著者 谷恒生 (著)
喧燥と異臭、猥雑の入り交じるバンコク・チャイナタウンのはずれに建つ楽宮旅社。一九八〇年、そこはラオス難民や娼婦や、マリファナと酒と倦怠の時を求めて淀む日本人若者の定宿でもあった。博打打ちの狂犬病氏、フリーライターのフグやん、ガイドの成島くん、ボランティア志願・鼻くん、ドラッグ中毒・九車(くぐるま)……日本の都会の人間関係を逃れ、戦闘の続くアジアの片隅にひっそりと息づく若者たちを描く話題作。
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バンコク楽宮ホテル
2013/06/19 00:34
スローな冒険小説にしてくれ
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
バンコクの格安旅行代理店に居着いてしまう日本人青年達がいる。日本にはないゆったりした生活(と物価の安さ)で、ついつい長居をしてしまう。あるいは世界各地を放浪する中で、この地に留まる者。ジャーナリストとして一発当てようと目論む者。観光で訪れる人たちの見ることの無い、下町の生活の中に彼らは身を沈める。
その怠惰の中に永遠に留まろうとしているように見えても、みなそれなりの目的意識を持ってタイに来て、何かしら果実を持ち帰ろうとしているのであって、ただこの土地のゆっくりした時間の流れに冒されがちであるというだけだ。どぶ川の流れる下町の雑踏、安い食堂、安い酒、安い売春婦たちの中に、沈滞するかのように潜んでいる彼らを、マスコミ大手記者や、企業人たちは半ば軽蔑するように見るが、しかしタイの社会の実相を最も捉えているのはどちらだろうか。
むろん世界は弛緩しているだけではない。ベトナム国境の緊張があり、カンボジア難民キャンプがあり、そこへボランティア志願の若者やメディアがやってくる。政治問題があるところ大国の情報機関の資金が入り込むし、つまり安ホテル住人の中にもエージェント役がいるのだ。
1980年頃のこと、海洋冒険小説「喜望峰」で1977年にデビューした谷恒生が、東南アジアを放浪した後、それまでの路線から一転して書いたのがこの作品。
様々なサスペンス的要素を孕みながらも、あくまで日常は彼らと娼婦達の周りでゆっくり沈殿するように流れ、しかしいつか舞台から一人ずつ去っていく。ある者は日本へ帰り、ある者は次の滞在地へ。
日本と南アフリカのギャップをスピードとアクションで描いた作者に、方向性の転換があったわけではない。東京とバンコクの非対称性にはゆっくりとした時間によって描く、その手法が広がったのだと思える。それは僕らの視野に欠けている何かを探求する物語であり続ける。

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