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5件
岬
著者 中上健次 (著)
この作家自身の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがいて圧倒的な評価を得た芥川賞受賞作。この小説は、著者独自の哀切な主題旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品として、広く感動を呼んだ。『枯木灘』『地の果て 至上の時』と展開して中上世界の最高峰をなす三部作の第一章に当たる。表題作の他、初期の力作「黄金比の朝」「火宅」「浄徳寺ツアー」の三篇を収める。
岬
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岬
2011/06/04 08:42
中上健次は今も生き続ける作家だ
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第74回芥川賞受賞作(1976年)。この作品が芥川賞を受賞した昭和51年、私は二十歳だった。そして、この作品の図太さに衝撃を受けた。文学というのはこんなにも人の心を震わせるのか、と。
それから30年以上経って、こうして再読してが、その時の印象のまま、作品は少しも古びてはいない。現代でも生き生きと、主人公の生に対するこだわり、苛立ち、荒ぶれが感じられる。
中上健次は死してなお、極めて現代の作家である。
中上は受賞作となったこの『岬』を契機として、自身の生の根源をたどる作品を続けざまに描いていく。場所は紀州和歌山の小さな町。
この作品では「山と川と海に囲まれ、日に蒸された」という一画は、その後「路地」の視点を明確にしていく。中上が他の現代作家と一線を画するのはそういう「土着性」である。
さらに、複雑な生い立ちも中上にとっては生涯のテーマとなった。それは「家」というような綺麗な主題ではない。逃げようとして決して逃れられないものとして彼は自分の父親、母親、肉親と対峙している。
この物語の主人公は24歳の秋幸。三人の兄姉とは父親が違う。さらに母は幼かった彼だけを連れて再婚してしまう。
小さな町である。今は二番目の姉の夫が親方をしている建築請負業で働いている。兄は秋幸が12歳の時、自殺した。死の前に母と秋幸の住む家をたずね、自分たちを捨てたとなじった。小さな町である。秋幸の本当の父は評判がすこぶる悪い。何人もの女に手を出し、秋幸と同じ年の子供が何人もいる。秋幸の妹と思われる女は貧しい飲み屋で売春のようなことまでしているという。そんな悪の父親の視線がいつまでも秋幸の背中につきささる。小さな町なのだ。
小さな町ゆえにそこで呼吸する人々の息も汗も血も精液も、すべてが混ざり合って異臭を放っている。混沌。それでいて、この作品の生きることへの執着は何だろう。
そこから逃げ出すのではなく、そこに踏みとどまることで生きようと願う、中上健次の強い力を感じる。それにしても、46歳の若さで亡くなった(1992年)中上のあまりにも若すぎる死が惜しまれる。
岬
2002/04/21 00:28
中上部屋
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゴンス - この投稿者のレビュー一覧を見る
大家である。作家としての「大」はもちろんのこと、その風貌と言動、全てにおいてスケールの大きな作家である。
中上が一貫して描いたものは、「風土」と「歴史」、それに「構造主義」である。
「岬」。これは紀州の、新宮という辺境の地を舞台に家族を描いた物語である。が、ここで云う家族とはいわゆる一家を指す家族ではなく、その「地」そのものを意味するものである。つまり、「地」とは「路地」と呼ばれる地域のことであり、そこでは被差別部落の人々が住んでいるゆえに閉ざされた空間になっているのだ。中上はその空間を利用して、更にはそういう空間ゆえに繰り返される人間模様の構造を壮大に描いたのである。
中上文学に触れた人は、何を思うのだろうか。
岬
2014/01/09 08:50
岬→枯木灘→地の果て、至上の時
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:月 光 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文藝春秋→河出書房新社→新潮社(現在は講談社)
タイトルの作品名の→はこの作品連作なもんで。続編です。
しかしもののみごとに作品と会社がバラバラ。

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