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おたふく
著者 山本一力 (著)
冷え込んだ江戸の景気を救ったのは、一商人が始めた弁当屋――未曾有の不景気に見舞われた寛政の江戸。大店「特撰堂」の次男・裕治郎は実家を離れ、弁当屋を始める。客を思い、取引相手に真を尽くす裕治郎の商いは普請場の職人の評判をとり、火消しを走らせ、武家と町人を結び、やがて途方もなく大きく育ってゆく……。安くて美味いもので人は元気になる! 経済エンタテインメント小説。2008年10月~2009年11月、「日本経済新聞」夕刊に連載。
おたふく
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紙の本おたふく
2013/11/26 15:48
江戸時代の商売と、経済のはなし
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
毎度江戸の風情と文化とを、スカっと胸空く物語で読ませてくれる山本作品。今回の作品は、簡単に言うと「商売」と「経済」の話し。しかし読んでいて、もう何度もうなずかされてしまった。もしかしたら現代人の多くが忘れかけている、商売の基本、経済の基本がそこには描かれていました。改めて、商売の基本は人と人、そして経済はマクロにもミクロにも見て行かなければ成り立たないのだと、感じさせられました。
特選堂という高級食材を扱う大店の次男坊が独立し、普請場(建設現場)にお弁当を配る仕事を思い付きます。邪魔が入ったりアイデアを盗まれそうになったり、紆余曲折はある物の、心を込めた商売は段々と広がって行くのですが。時を同じくして、江戸の街を襲った「棄捐令」。武家へお金を貸していた札差し(お金貸し)の、借金を全て帳消しにするというトンでもない政策が打ち出されてしまいます。百万両以上のお金が消えてしまった札差たちは、お金を使う事をしなくなってしまいます。そこから起きる、江戸の不景気。その経済対策とは。先の弁当売りと、この「棄捐令」から勃発する江戸の不景気とが絡み合って、物語は大きく広がって行くのですが。
私的にこの作品中の読みどころは、二つの掛け合いではないかと思っています。一つは大店特選堂の主人と、江戸の「てきや」の大親分との掛け合い。特選堂のしくじりを、どう落とし前をつけるのか。お互い立場は違えども、大きな組織の上に立つ者同士。自分の理だけではなく、相手の理も、そして社会の理も考えて、しかし最小限の言葉でやりとりは進みます。20ページにも渡るこの掛け合いには、とても興味深く読み、胸にぐっと来る物がありました。もう一つは物語の終盤に老中「松平定信」と北町奉行「初鹿野河内之守」との間で交わされる掛け合い。棄捐令を取り決めた定信に、それを実際発布した河内之守。河内之守がそれこそ命がけで、定信に江戸の庶民の苦しみと、今後の経済政策を話すシーンは手に汗握りました。
何しろ、商売の基本は「人」と「人」。正直に、誠実に。本当の意味で、相手を思いやる事。今まだ不景気にあえぐ日本に、とても大きなヒントをくれる一作なのではないかと、そう感じました。