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御宿かわせみ
江戸情緒をたたえた捕物帳でロングセラーとなった、人気シリーズの新装版の第一作。大川端にある小さな旅籠「かわせみ」。若き女主人るいは、元・同心の娘。都市を行きかう人びとがひと時のやすらぎを求めて投宿する。ときに、表沙汰にできない厄介ごとを胸に秘めて……。誘拐、詐欺、敵討ちなど、大小さまざまの事件に巻きこまれながら、るいは恋人の神林東吾と協力し、解決の途をさぐってゆく。数度にわたりテレビドラマ化され、話題をとった人情譚。
「御宿かわせみ」ミステリ傑作選
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幽霊殺し 新装版
2009/09/18 15:28
御宿かわせみの世界にひたる
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:野棘かな - この投稿者のレビュー一覧を見る
平岩弓枝さんの旅籠「かわせみ」を舞台にした御宿かわせみは、連作の時代小説シリーズだ。
一話完結タイプの人情捕物帖で、リズムのある文体だったのでさくさく読み進み、それらシリーズの中で、今回は「幽霊殺し」というタイトルに惹かれてこの本を選んでみた。
恋ふたたび、奥女中の死、川のほとり、幽霊殺し、源三郎の恋、秋色佃島、三つ橋渡った、以上一話完結の7作品が収録されている。
「恋ふたたび」は、ある意味BL話で、主人と番頭の関係から振り回される内儀となった女のことが中心などと、あらすじも紹介したいのですが、なにせ捕物帖ですからこれ以上ネタばれしては申し訳ないのでやめることにした。
本当に話の組み立てがうまく、面白くやがて哀しき捕物帖といった風情のある7話だった。
そして忘れてはいけないことは、これら一連のシリーズにはベースとなる設定あらすじがあるということだ。
一話完結本なので、いちいち書かれていないため、御宿かわせみ初心者の方は、予備知識として知っておくと時間をかけてわかるよりいいと思う。
※江戸時代末期、腕利きの同心だった父を亡くした庄司るいは、故あって家督を親戚に譲り、大川端に旅籠「かわせみ」をひらく。
おきゃんで人情もろいがさっぱりした性格の美人かわせみの女主人るい、一つ年下で幼なじみの恋人、剣の達人次男坊でおっとりさと鋭さを併せ持つ粋な男神林東吾は、奉行所与力の弟。
二人を中心に、取り巻く東吾の親友の八丁堀の定廻り同心の畝源三郎や、医者で将軍家御典医の倅の天野宗太郎、かわせみの奉公人嘉助・お吉たちとかわせみに集まる人々とともに市井の事件を解決していく江戸情緒ゆたかに展開する捕物帖だ。
繰り返し放送されていた御宿かわせの昔のNHKテレビドラマを見たことがあるが、小説のイメージとはちょっと違った印象のお二人が主人公だったように記憶している。
微妙に不釣合いでイメージと違う二人だったけれど、なぜかそれがまた不思議に魅力的で心惹かれたし、登場人物がそれぞれに面白い味をだしていたと思う。
だが、本にはまた違う魅力がある。
読みやすい文体だし、読み応えのある時代小説だ。
読み始めた最初でこそ、ちらちらとテレビドラマに出演した女優さんや男優さんが意識の中に見え隠れするけれど、やがてそれらはゆっくり消えて、平岩弓枝さんの御宿かわせみの世界へ没頭していた。
そして、勿論、話の面白さもさることながら、誰もが気になってしかたがないのが女主人るいと東吾との関係だろう。
さっさとはっきりしなさいよと言いたくなるし、世話を焼きたくなるかもしれない、それほど人をひきつける魅力的な二人なのだ。
私が男なら彼女るいさんにほれる、私が女なら彼東吾さんにほれるのは間違いない。でもたぶん、私は両方それぞれに振られるだろう。
それだけ、二人の絆は強く、何があってもたとえ東吾さんがちょっと目移りしたとしても、別れることはない現世の絆、赤い糸がしっかり二人を結んでいるようだ。
この連作の半ば頃までは、身分違いを気にするるいと東吾の遅々として進展しない恋愛模様が中心となった人情捕物帖だった。
それはそれで面白く、ずっとこのままなのかと思われていたが、中盤以降は、東吾の出仕、るいとの結婚と子どもの誕生と、幕時末の時代の流れのなかで登場人物それぞれの人生の流れが描かれるようになり、やがて時代は変わり、明治維新以降に飛び、子ども世代を主とした「新・御宿かわせみ」もかかれているらしい。
かくれんぼ 新装版
2024/02/25 11:48
良い本です
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:a - この投稿者のレビュー一覧を見る
御宿かわせみの第19巻目で、宗太郎の娘の花世が出てくる「かくれんば」を含めた八話が収録されています。どれも素敵です。
白萩屋敷の月 新装版
2004/12/17 16:52
なにしろ表題作が素晴らしい。胸にぐっとくる名品です。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風(kaze) - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸は大川端の旅宿「かわせみ」の女主人るい、るいと恋仲の神林東吾(かみばやし とうご)、東吾の親友で八丁堀同心を務めている畝源三郎(うね げんざぶろう)、「かわせみ」の女中頭のお吉(おきち)ほか、彼らの心が通い合う姿をあたたかく描き出した「御宿かわせみ」シリーズ。今回は表題作を再読したくなり、手にとりました。
本巻には、「美男の医者」「恋娘」「絵馬の文字」「水戸の梅」「持参嫁」「幽霊亭の女」「藤屋の火事」「白萩屋敷の月」の八編が収められています。なかではおしまいの二篇が良く、とりわけ表題作の切なさが身に染みてぐっときました。
「白萩屋敷の月」……東吾の兄で、南町奉行所の与力を務める神林通之進(みちのしん)。彼から使いを頼まれて白萩屋敷へ行った東吾は、屋敷の主で今は御後室になっている女性・香月と言葉を交わすことになります。その話の中から浮かび上がってくる恋の想いの切ないこと。月光が夜の庭を照らす中、白い萩の花が咲きこぼれている光景の美しいこと。久しぶりに読み返して目頭が熱くなり、胸が詰まりました。
なんでもこの作品、「御宿かわせみ」の読者アンケートの人気投票で第一位になったのだそうな。匂やかで切なく、神々しい気品すら漂わせたこの話は、まこと、シリーズ作品中の一番人気に値する名品。今回再読して、話の美しさと切なさにあらためて感じ入った次第です。
それから、こうしたシリーズものは出来るだけ刊行順に従って読んでいったほうが、味わいもひとしおなんですよね。「かわせみ」シリーズもそう。話が進んでいくなかで、登場人物が結婚したり、子供が生まれたり、さらにその子供たちが主役になって活躍したりするようですから、私のようにつまみ食いのようにして読んでいくのはお薦めできません。
それでも、さしあたってまず、シリーズ作品のなかでも読みごたえのある話を読んでみたいという方には、著者が選んだ傑作選集『初春(はる)の客』をお薦めいたします。収録されている「白萩屋敷の月」や「源三郎祝言」「岸和田の姫」といった作品は、一読忘れがたい余韻を心に残してくれますよ。何か切なくて、心をあたたかなもので満たしてくれる、そんな話に触れてみたいと思っているあなたでしたら、ぜひ御一読を。そこからさらに「かわせみ」ワールドの奥へと入っていく……。そんな楽しみ方もまたあるでしょうから。