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7件
皆勤の徒【創元SF文庫版】
著者 酉島伝法
高さ100メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手の従業者はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上とそれを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない――第2回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全4編。奇怪な造語に彩られた、誰も見たことのない異形の未来が読者の前に立ち現れる。デビュー作ながら第34回日本SF大賞を受賞した、現代SFの到達点にして世界水準の傑作!創元SF文庫収録に際し、著者によるイラストを5点追加。/本文イラスト=酉島伝法、解説=大森望(本電子書籍は、『皆勤の徒』(創元SF文庫 2015年7月初版発行)を電子書籍化したものです。)
皆勤の徒【創元SF文庫版】
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皆勤の徒
2015/08/27 10:33
「世界を切り開いてゆく」という読書
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りー - この投稿者のレビュー一覧を見る
臓物を思わせる粘ついた世界を舞台に異形の生命が跋扈し、ほぼ全ての固有名詞が造語からなるという奇怪な連作短編小説。作中で造語や世界観に関する説明が一切なされず、読者は赤子が世界に順応してゆく様に感覚的に物語を把握せねばならない。しかし一見難解にも思えるその「世界を認識する」作業が殊の外愉快で懐かしく、全く苦にならない。本作はSFであるが、この物語がSFとしての全容を顕すのは全編を読み終えた後。それまでは未知なる世界を手探りで彷徨う快楽に身を浸したい。
2024/07/30 20:27
現代最高の奇書
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ててて - この投稿者のレビュー一覧を見る
独自の造語で語られる奇妙なSF労働小説です。他に類を見ない読み心地の悪い粘度のある文章に慣れてくると気がつけば酉島伝法さんのファンになっていました。
皆勤の徒
2015/11/03 23:25
ハイレベルなSF
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は第34回日本SF大賞を受賞した酉島伝法のデビュー作です。デビュー作なのにハイレベルというべきなのか、デビュー作だからこそ生まれた斬新さなのか分かりませんがとにかく凄まじいSFでした。
まず第1章の「皆勤の徒」。不定形の大型生物”社長”とその下で働く”従業者”が製臓業を営む日常を描いた作品です。作中の造語や表現がやたらと粘着質で湿り気を帯びていて、読んでいると世界観が迫ってきます。全章を通して最も読みにくく、最も魅力のある作品だと思います。
続いて第2章の「洞の街」。惑星胚の消化器官(という背景設定も全章を読み通して気付くかどうかというレベル)に住む異形の生物の生活を描いた作品です。学生の土師部(はにしべ)の視点で描かれていて、書き味がやや柔らかく読みやすいですがこの作品もやたら異形の生物やら昆虫やらが出てきます。
第3章の「泥海の浮き城」は第1章の短編を連作として書籍化する際に書き下ろした作品で、登場するのは全て昆虫(化した人間?)です。体色を透明にすることができる私立探偵が主人公のハードボイルド作品…というと聞こえは良いですがやはり虫が大量に登場するので、苦手な人は本当に苦手だと思います。
そして最終章「百々似隊商」。本作は時系列をあえて逆行する形で章立てされているので、この章が一番読みやすく、かつ背景設定が分かりやすいです。第2章で登場する謎の生物”百々似”の起源が分かると、4つの短編の背景に流れる極めて重厚なSF設定がうっすら分かってくるのではないかと思います。
途中で放り出さずに最後まで読んで、大森望さんの解説を読んでみてください。そこまでしないとこの作品の魅力に気付くことはおそらく出来ないと思います。骨のある作品が読みたい方にうってつけの濃厚かつ重厚な作品です。