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万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集
隕石との衝突事故で宇宙船が破壊され、宇宙空間へ放り出された飛行士たち。時間がたつにつれ、仲間たちとの無線交信は、ひとつまたひとつと途切れゆく──永遠の名作「万華鏡」をはじめ、子供部屋がいつのまにかリアルなアフリカと化す「草原」、年に一度岬の灯台へ深海から訪れる巨大生物と青年との出会いを描いた「霧笛」など、“SFの叙情派詩人”ブラッドベリがみずから選んだ傑作短編26編を収録。天才作家の幅広い創作活動を俯瞰できる、最大にして最適の一冊。【収録作】「アンリ・マチスのポーカー・チップの目」「草原」「歓迎と別離」「メランコリイの妙薬」「鉢の底の果物」「イラ」「小ねずみ夫婦」「小さな暗殺者」「国歌演奏短距離走者」「すると岩が叫んだ」「見えない少年」「夜の邂逅」「狐と森」「骨」「たんぽぽのお酒」(「イルミネーション」「たんぽぽのお酒」「彫像」「夢見るための緑のお酒」)「万華鏡」「日と影」「刺青の男」「霧笛」「こびと」「熱にうかされて」「すばらしき白服」「やさしく雨ぞ降りしきる」
万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集
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万華鏡 ブラッドベリ自選傑作集
2018/11/15 23:21
ブラッドベリはまずこれを読め!
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京創元社さんは奥ゆかしいですね。
先行の別訳は1978年発行で、1987年に版元の
サンリオSF文庫が廃刊となり、今回の新訳が出るまで
長らく絶版状態でした。
ファンは待ち遠しかったはずの一冊、ばーんと新訳を
うたえばいいのに、それをしないのは十年・二十年先を
見据えているからなのでしょうね。
ロングセラーとなること請け合いの素晴らしい一冊でした。
ブラッドベリは二冊目の読破です。
一冊目に長編を読み見事に砕け散りました。
この作品を読んで納得です。
ブラッドベリの特異な世界観は、まずは短編で
慣れるべきだったのですね。
SF作家のイメージがありますが、古典学者のハイエットの
序文によると、幻想物語の作家と称されています。
宇宙生命体が出てくる作品はもちろん、アナザー・ワールド的な
話やミステリー仕立ての作品であっても、表現が独創的で
自己陶酔的な雰囲気を感じます。
翻訳者解説によると、そういった分かりにくい形容を
分かりにくいままニュアンスが伝わるように苦心されたそうです。
翻訳例を読んで納得ですし、本文を思い起こすと
心当たりがあります。意訳しすぎていないのです。
ある意味、挑戦的な翻訳と言えます。
正直に言うと、分からなくて頭から抜けていってしまい
理解不能に陥った部分もあります。
でも立ち止まって考えさせられる引っかかり感があって
心地いいのですね。
そんな摩訶不思議な魅力があるのも事実なのです。
名短編も多いですよ。
他の作家さんに影響を与えた作品も、しばしば気がつきます。
表題作の万華鏡などは、あちこちの作品で片鱗が見られます。
サイボーグ009の有名なシーンのモチーフにされているようですし、
わたしの好きな漫画でも使われていました。
ぱっと思いついたのが初代ガンダムです。
大気圏突入間近の戦闘シーンで、逃げ遅れたザクが
ばらばらになるシーンは、間違いなくこの話に影響されています。
小川洋子さんの琥珀のまたたきの元ネタもありました。ああびっくり。
その作品の唯一の疑問点が、数ある宝石の中からなぜ琥珀を
選んだのかだったのですが、一目瞭然です。
だって元のお話では琥珀がモチーフなのですから。
全二十三篇の短編集です。
分かる作品と分からない作品、しっくりこない作品、
共感する作品。振れ幅がとにかく大きいことが最大の魅力です。
それでいてブラッドベリらしさが一貫して漂っているので、本当に
不思議な作品集ですね。二度読み、三度読み必至です。
草原という作品。未来の家庭で、子どもの情操教育に
悩むお話です。子どもの残虐性に気づき、心を痛める親という
ストーリーに思えるのですが・・・見えたのですが。
分からなくて三回読みましたよ。
小さな暗殺者や、骨という作品は、グロテスクに感じて
夢見が悪いです。
刺青の男はシュールで、鮮やかな光とにぶい光に包まれた
作品です。
霧笛はロマンチック。こびとの愛らしさ、せつなさ。
すばらしき白服にいたってはコメディーなのですよ。
最後に、やさしく雨ぞ降りしきるで、ディストピアを見せて
こちらをぶん殴って終幕になります。
変幻自在、圧倒されっぱなしです。
一篇一篇のごつごつした重さは、幻想という言葉は
似つかわしくないです。むしろ、あり得ない表現に
彩られた現実感を感じるのです。
浮かんだ言葉は超現実です。シュールレアリズムの訳語
ですが日本語のほうがしっくりきますね。
非現実の妄想とはニュアンスが違い、なかなかお目に
かかれない雰囲気です。
ブラッドベリはまずこれを読め、声を大にして言いたいです。