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11件
矢吹駆シリーズ
著者 笠井潔
ピレネーの旧家デュ・ラブナン家のイヴォンは、スペイン戦争の際レジスタンスに参加し、失踪する。同家の小作人、ジョゼフ・ラルースはイヴォンと行動を共にするが、単独で帰国後、イヴォンから山を贈与されたと主張し、そこに鉱脈が発見されたため裕福となった。二十年後、死んだはずのイヴォンから手紙が届き、裁きが行なわれるだろうと無気味な予告をしてくる。それが現実となって、ジョゼフの次女オデットの首を切り取られた惨殺死体が発見される……。司法警察のモガール警視の娘ナディアと不思議な日本人青年矢吹駆は真相究明を競い合う。日本の推理文壇に新しい一ページを書き加えた笠井潔の華麗なるデビュー長編。
熾天使の夏
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哲学者の密室
2002/05/23 23:34
すごい読み応え!
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:しをん - この投稿者のレビュー一覧を見る
矢吹駆シリーズの中では圧倒的に長い。内容も極めて濃密。ハイデガーをめぐる哲学論議はじっくり読むのも、そこは読み飛ばして探偵小説として楽しむのも可。
矢吹と敵の哲学っぽい言い争いは、詭弁家同士…と思いつつもふむふむ、と入り込んでしまう。
ところで矢吹駆シリーズは、前作を踏まえた発言などがあるから、初めての人は、「バイバイエンジェル」から読むのがお勧め。
シリーズは以下。
0織天使の夏 (番外編と言う感じ。「バイバイ、エンジェル」が書かれる20年前にかかれたもも。矢吹の過去が明らかに…?)
1バイバイ、エンジェル
2サマーアポカリプス
3薔薇の女
4哲学者の密室
5オイディプス症候群
サマー・アポカリプス ロシュフォール家殺人事件
2002/12/26 01:46
物語の本質は個々の事件にはない
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アシェ - この投稿者のレビュー一覧を見る
矢吹駆シリーズ2冊目。
正直に言って、第一の殺人が起こった時点で、カケルの「本質直感」でなくても犯人と犯行方法くらいは見当がつきます。しかし、それはこの作品の場合瑕疵ではありません。物語の本質は個々の事件にはないからです。
物語のある段階で、ある地点に戻るためにプロットが折り返されます(このあたりどう書いてもネタバレになりそうなので難しいのですが)。そして最後に至り、実は表層に見えていたものとは違うところで、作品全体の原理が明かされることになるのですが、ともすれば形而上に昇華されてしまいそうな作品のテーマをカケルが解き明かす辺りは実に象徴的で、おそらくはシリーズを通じて笠井が書きたかったことがそこに集約されているような気がします。
そういう事情ですから、推理部分だけを取り上げて論じるのはこの作品の本質を見誤ることにもなりかねませんが、それでも一応推理小説としての側面を見てみると、細かいところまでしっかり作り上げられている本格ものといえます。おそらくそれだけでもこの作品の価値は高いでしょう。
なお、未読のかたには注意していただきたいのですが、このシリーズは順番に読むことをお勧めします。この作品でも前作『バイバイ、エンジェル』のネタを割っていますし、シリーズ全体を貫いている鍵が、順番に読まないと分からないようになっているからです。
バイバイ、エンジェル ラルース家殺人事件
2003/06/28 19:40
駆という青年が放つ闇
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:郁江 - この投稿者のレビュー一覧を見る
駆とナディアのシリーズ第1弾。
私はオディプス症候群から読み始めた にわかフアンなのですが、シリーズものと言っても一つの事件に対して一つの物語を形成しているので、勿論どの巻からでも楽しめます。私は駆という多くの謎をもつ この青年の哲学的思考と言葉がとても好きで 推理モノというより 読み物として純粋に楽しんでいます。
このシリーズは 事件の伏線が少なく、犯人当てを楽しむという読み方はお勧めできませんが、哲学が好き 心理学が好きという方に是非読んでもらいたい作品群です。駆という青年が放つ 闇…彼の目で見た世界にもっと触れてみたい という気分にさせてくれます。
また予想もつかない展開と こちらの推理をことごとく裏切ってくれる ストーリーは読者を決して飽きさせません。