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花窗玻璃 シャガールの黙示
著者 深水黎一郎 (著)
仏・ランス大聖堂から男性が転落死した。地上81.5mにある塔は、出入りができない密室状態で、警察は自殺と断定。だが半年後、また死体が! 2人の共通点は死の直前にシャガールの花窗玻璃(ステンドグラス)を見ていたこと……。ランスに遊学していた芸術フリークの瞬一郎と、伯父の海埜刑事が、壮麗な建物と歴史に秘められた謎に迫る!! 驚愕のトリックに挑む「芸術探偵」シリーズ! 法月綸太郎氏激賞!
花窗玻璃 シャガールの黙示
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花窗玻璃 シャガールの黙示
2010/10/17 14:47
芸術蘊蓄がたっぷり!!芸術探偵シリーズ第3弾。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハジメマシテの作家さん。芸術探偵シリーズを書かれているので以前から気にはなっていたのだけれど、デビュー作『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! 』がネックとなって暫く静観していた。だって…ねぇ…「犯人はあなただ!」って言われたりゃ、そりゃ…ねぇ。たぶんそうなんでしょうけれど。
しかし芸術探偵というその魅力的すぎる響きに負けて手に取ることにした。本書は芸術フリークの瞬一郎(20代後半)と伯父の海埜(うんの)刑事が歴史や芸術に秘められた謎に迫る芸術探偵シリーズの第三弾。先に『エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ 』と『トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ 』が刊行されているのだけれど、一番気になるシャガールから開いてみた。
高校卒業後の6年にわたるヨーロッパ遊学から帰国し、清く正しいフリーター生活を送っている瞬一郎。アルバイトをしては旅費を貯め、資金が貯まったら旅に出るという生活を送る日々。
旅行中現地で購入して送った書物を引き取るために伯父の海埜刑事の元を訪ねたところから物語は始まる。6年間の遊学中のことはあまり話したがらない瞬一郎が、フランスのランス滞在中に遭遇した事件を小説風にまとめたのでそれを「読みますか?」と海埜に尋ねたのだ。
もちろん海埜はその小説風のものを読むことにする。そして読者は海埜とともに瞬一郎が記した作中作を読むことになる。その作中作のあらすじは裏表紙にあるとおりだから割愛するが、この作中作が曲者中の曲者っ(誉めている)!!!
まず、芸術的蘊蓄がこれでもかというほど盛り込まれている。建築から美術そしてそれらを切り離すことのできない歴史と。登場する画家の名もシャガールだけでない。フランスの画家だけでなくフェイメールも登場するし、レーニにリオナルドとしてフランスで晩年を送った藤田嗣治(Leonard Foujita)だって…。
ランスでまず思い出されるのが歴代国王の戴冠式を行ったノートルダム大聖堂(wikiリンクを入っているので是非クリックして、その姿を見てほしい)。
ランスのノートルダム大聖堂(パリのではない、よ)はゴシック建築として有名で、世界遺産にも登録されている。そして瞬一郎の作中作における事件の舞台でもある。大聖堂に嵌められているシャガールのステンドグラスを見ていた人物がふたり、不審な死を遂げたというのだ。
この事件の謎の解明に挑んだ瞬一郎がランスで出会ったひとびとと芸術論を交わしたり、考えたりするのだけれど、この行程が楽しすぎるっ!!!蘊蓄満載!蘊蓄万歳!!
ここまで来ると「蘊蓄」というより「芸術論」なのだけれど、これでもかっていうほど盛り込まれている著者の知識(著者は仏文学博士課程を修了。仏留学経験あり)が興味深い。これは芸術版のタタルだ!!―― そう思った。
作中作の展開は『ダ・ヴィンチ・コード』を彷彿させるのだけれど、暗号の謎解きに重点を置いた『ダ・ヴィンチ・コード』に対してこちらはあくまで芸術メイン。ミステリとしてははっきりいって「うーん…」と思うところばかりだけれど…。
でもいいのっ!!!!
蘊蓄を読んでいるだけで楽しいんだものっ!!!
さて最後に重大なお報せをひとつ。瞬一郎が記した作中作は漢字とひらがなのみで構成されている。現代ではカタカナで表記されるのが当然のフランス、ステンドグラス、ランスを初め外来語も全て漢字表記。カタカナが一切使われていないのだ。
その理由は本人の弁を引用しよう。
「もっとも単なる懐古趣味でこういう文体、こういう表記にしたわけではありませんよ。その事件の舞台になったのは、ランスにある世界遺産のゴシック式大聖堂なんですけど、その壮麗極まりない大建築物を日本語の文章で表現するには、この文体、この表記しかないと思ったんです。(略)この表記でなければ絶対に負けると思ったんです」
「小さい頃、漱石の『倫敦塔』を読んで頭の中で想像したロンドン塔は、本物のロンドン塔より何倍もすごかったです。(略)同時に文章も人間同様、中身だけじゃなくて、やっぱり見た目の美しさも大事だということを知りました。(略)だから漱石の顰に倣って、『倫敦塔』ならぬ『理姆欺大聖堂』を書いて、しかもそれが本格ミステリになっていたら面白うだろうと思ったのが、そもそものはじまりなんです」
この瞬一郎がまたタタル並みに一癖も二癖もある人物で、実に愛おしい。作中作にカタカナは登場しないけれど、難読語に毎回ルビを振る総ルビ方式が取られていて、仮名遣いは現代のそれが用いられているのでそれほど読みづらくはない。むしろ日本語の奥深さを味わうことができて清々しい気分になるくらいだ。
他のシリーズ作品がどういう構成になっているのかはわからないけれど、このシリーズ、とっても楽しいので読み進めることにする。
ちなみに「理姆欺大聖堂」は「ランス大聖堂」のことで、タイトルの「花窗玻璃」は「ステンドグラス」のこと。カタカナと漢字じゃずいぶん雰囲気が違うでしょう?