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ザ・ジョーカー
2011/08/10 23:28
いかにも講談社らしい中庸的な作品、といったら著者は怒るでしょう。傑作ではない、でも次作も読んでみたいと思わせる魅力はある。トラブル処理、という仕事がどこか優しげです。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
講談社文庫は、翻訳者のデザインはいいのですが、あとはどこか垢抜けません。それはどこか大沢在昌に似ています。いいのでしょうが、どこか若い読者に受けない。特に女性のファンがつかない。無論、若者受けする軽い文章なんて似合わないし、ご当人も興味が無い。私もよほどのことが無いと手を出しませんが、書店の平台の常連なのでいつも気にはかけている、そんな大物です。カバーデザインは河野治彦。
カバー後ろの内容案内は
*
「殺しは仕事にしたことがない。殺しを
しなかったとはいわないが」。あらゆ
るトラブルを請け負う男、ジョーカー。
着手金は百万円、唯一の連絡場所は六本
木のバー。噂を聞いた男と女が今宵も厄
介事を持ち込んでくる。ジョーカーを動
かすのはプライドだけ――。待望のハー
ドボイルド新シリーズ第一弾の連作短編。
*
早速、目次にしたがって各話の初出と簡単な内容紹介をしましょう。
・ジョーカーの当惑(「小説現代」1993年1月):仕事を休んで海外でのんびりしようとしていたジョーカーの前に現われたのは、自分が世話になったこともあるオイル・パウダーマッサージ師の由紀だった。彼女の依頼は・・・
・雨とジョーカー(「小説現代」1995年7月):沢井の店に現われた青白い顔の男は、つぶやくような声で「ジョーカーっていう人はいるかい」と聞き、私が答えると、突然銃を抜き出し発砲した。そして、店を出ると・・・
・ジョーカーの後悔(「小説現代」1998年5月):人ごみを避けて渋谷の裏町を歩いている私にニッケルメッキを施した銀色のベレッタを向けてきたのは、紫外線ランプで真っ黒に焼いた肌に、縞模様のメッシュを入れた髪の少女・・・
・ジョーカーと革命(「小説現代」2000年1月):私を訪ねてきたコンピューターのソフトウェアの会社を経営しているという男は、昔、同じセクトにいて自分を裏切った仲間を見かけたといい、彼のことを調べてほしいという・・・
・ジョーカーとレスラー(「小説現代」2001年1月):巨漢の男に介助され車椅子に乗って店に現われた老人は、プロレスをやるために家を出た自分の息子を、組を継がせるため連れてきて欲しいと私に依頼したが・・・
・ジョーカーの伝説(「小説現代」2002年1~2月):私の前に現われた女は、誰も書こうとしない記事のために、伝説の殺人者「セカンド」を探し出して欲しい、できたらジョーカーの仕事振りも取材させて欲しいと・・・
解説 新保博久
巻末に、
*
本書は2002年4月に小社より単行本、04年8月にノベルスとして刊行した作品です。
*
と注意書きがあります。ま、出版履歴としては正しいのでしょうが、やはりここは収録各篇についての初出情報も併記すべきでしょう。とはいえ、出版社の不親切さを補うのは解説者の役割とわきまえているのか、新保はきちんとフォローをしてはいます。私が書いた初出は、新保のそれをさらに見やすくしただけです。
凄い作品だとは思いませんが、続きを読みたくなる面白さを持ってはいます。そう思った読者が多かったのでしょう、それに応えるかのように『亡命者 ザ・ジョーカー』がこの文庫が出た一ヵ月後に出版されています。機会があれば、読んでみたい、そういうそつの無い作品ではあります。