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月光の夏
著者 毛利恒之
若き2人の特攻隊員は、ベートーヴェンの名曲「月光」を、小学生たちの前で弾き、南溟の空に出撃していった。あの夏の日のピアノの響きは、痛切な思い出として刻みこまれた。愛と哀しみの感動にあふれるドキュメンタリー・ノベル。(講談社文庫)
月光の夏
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月光の夏
2004/12/19 08:45
戦争の狂気、平和と生命の尊さを伝え続けたい
7人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画「月光の夏」神山征二郎監督の原作。本書は、「実話をもとに、事実をふまえつつ、創作した小説である」
映画文化が衰退する中で、一年間で100万人の観客が足を運んだという話題作。その後も、上映運動が続いている。平和と特攻をテーマにした映画としては画期的なことといえる。
九州佐賀県鳥栖市の鳥栖小学校で、60年の歴史有るピアノが廃棄処分にされることになった。
「捨てるんでしたら、このピアノ、私にいただけませんか」こうして、一人の女性教師が45年前の戦争中の出来事を語ることとなった。
1945年5月末、鳥栖小学校にピアノを弾かせて欲しいと二人の特攻隊員が訪れる。音楽学校出身の隊員が、出撃を前に最後にピアノを弾きたいとの想いから、当時はまれであったグランドピアノを求めて訪れたのである。そして、ベートーベンの名曲「月光」を弾いて出撃した青年特攻の姿が語られる。
この話に、ピアノを残そうという運動が広がり、マスコミも報道するまでに大きな話題となる。
ところが、ピアノを弾いた特攻隊員の消息を追いかけるマスコミが見つけた人物が、「記憶にない」と語ったことから、実話ではなく作り話だとの報道がされる事態となる。
なぜ、元特攻隊員は語らなかったのか?
その背景には、戦後もマル秘事項として封印された秘話があった。「振武寮」という誰も知ることのない秘密の場所。特攻出撃して、なんらかのトラブルで不時着したり引き返してきた特攻隊員たちが、叱責されただけでなく、外部との連絡も断たれ軟禁状態に置かれた場所であった。
特攻の出撃により、敵艦隊に華々しく玉砕したと報告され、家族によって葬式が執り行われた者もいた。軍部が名誉の戦死と大本営発表をしているもとで行われた悲劇である。
ピアノの話をした女性が「迷惑をかけて申し訳ありませんでした」というお詫びの手紙を元特攻隊員に送った。女性は、嘘つきと非難されていたのにそのことには何も触れられていない。ただ「お詫び」した。
手紙を受け取った時には、その女性が嘘つきとして世間から非難されていることを元特攻隊員は知らなかった。しかし、女性が非難されている事実を知った時、女性の手紙には「お詫び」しか書かれていないことに思い至る。
そのことから、「記憶にない」と言った元特攻隊員は、女性の思いやりある心に気づき、真実を語る。そして、想い出のピアノのもとに駆けつけ、45年ぶりにピアノを弾く。感動の場面である。すべて実話である。
読みながら、涙が出て止まらなかった。これを書きながらも涙が瞼に溜まってくる。なのに、旨く書くことができない。
この感動を伝えたいのに、言葉がつながらない。本当に歯がゆい。ぜひ読んで欲しい!読めば、この書評がいかに出来損ないかもわかる。それほど素晴らしい小説である。
これらの実話が明らかになる中で、平和と命の尊さを考える青年の声が多く寄せられ、ついには映画化されるに至ったという。平和と命の尊さを永遠に繋げていきたい!
本書を読んで、横山秀夫『出口のない海』を十分に読み込めなかったことに思い至った。平和と命の尊さを描いた『出口のない海』の真意を遅ればせながら知ることができた。
月光の夏
2019/12/31 19:41
そう遠くない昔に
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
美しい題名ですが、悲しく重い本でした。そう遠くない昔に起ったことについて、多くの方に読んで欲しいと思います。