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2件
裁かれた命 死刑囚から届いた手紙
著者 堀川惠子
一九六六年、強盗殺人の容疑で逮捕された二二歳の長谷川武は、さしたる弁明もせず、半年後に死刑判決を受けた。独房から長谷川は、死刑を求刑した担当検事に手紙を送る。それは検事の心を激しく揺さぶるものだった。果たして死刑求刑は正しかったのか。人が人を裁くことの意味を問う新潮ドキュメント賞受賞作。
裁かれた命 死刑囚から届いた手紙
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裁かれた命 死刑囚から届いた手紙
2021/05/05 04:41
議論はどこか
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:TAROLEB - この投稿者のレビュー一覧を見る
順番は逆で「教誨師」を先に読みましたが、本作は更に面白かったです。あまり知らなかった日本の司法制度がきちんと説明してあり、また時間軸と主題を巧みに織り込んでいて、一気に読み終えました。死刑囚である主人公の手紙の内容が後になるにつれて哲学的になること、またそれに心を揺れてしまう検事の心中も丁寧に描かれていて、いろいろ考えさせられました。死刑に立ち会う検事(おそらく裁判官や弁護士もそうではないかと思いましたが)が限られているというのは、人の命に携わる司法として驚きましたし、どうかと思いました。
ただ、死刑制度、特に絞首刑の残虐性に一石を投じているのは理解するものの、やはり一方的に加害者側の視点から物事を判じているのは、正直違和感を感じてしまいました。周囲の人たちが慮るのは、当事者としては判るものの、やはり被害者のことが全く無視されている感が否めず、最後の「そして、私たち」「文庫化によせて」の短文2つは正直すんなりと受け入れられませんでした。
ただ、本としては素晴らしい出来だと思います。ぜひお薦めしたいです。
裁かれた命 死刑囚から届いた手紙
2018/05/06 10:59
死刑制度の意味を問う
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くりくり - この投稿者のレビュー一覧を見る
この「物語」は死刑囚・長谷川武から、事件の求刑をした検察官に届いた手紙から始まった。「なぜ人を殺してしまったのか」の問いかけと死刑制度を世に問うのが本書の目的だろう。
本書で扱う事件はすでに死刑が40年も前に執行された強盗殺人事件だ。わずかな時間の尋問調書作成、捜査官に対する被告の自供、自白をもとに判断される刑事裁判だったが、取り調べでは、なぜ人を殺すまでに至ったのかの生育歴まで遡ることはない。弁護士により情状酌量のために長谷川の環境や生育歴が弁護されるが、求刑が覆ることはなかった。本書が秀逸なのは、これほど時間が立っているにもかかわらず、この裁判に関わる人たちや長谷川の家系を遡り、調べ上げているところだ。
本書を読み、この長谷川に再犯の可能性を見いだすことは難しい。求刑した検察官も、長谷川から届く手紙を読み続ける中で、恩赦ができないものかと苦悩する。
人を殺したことは事実である。罪は深い。しかし、「死刑」で償えるのか、罰としての「死刑」があるから殺人は抑止されるのか。更生した者、する可能性のあるものにも「死刑」は必要なのか?こうしたことを考えさせられた。
これまで、堀川氏の広島の被爆に関連したノンフィクションを、感銘を持って拝読してきたが、「死刑」についてあらわされたいくつかの堀川氏の著書は避けてきた。
しかし、裁判員制度が始まって久しい中、その問いかけはいつか自分が出さなければならないものに迫ってきたと言うことを本書から指摘された。
ただ単に死刑というショッキングなものを扱ったということではなく。「死刑制度」「死刑」を人道的視点から考える必要性を問うているのが本書であろう。