- みんなの評価
3件
森のバロック
著者 中沢 新一
生物学・民俗学から神話・宗教学に精通、あらゆる不思議に挑んだ南方熊楠。那智の森の中に、粘菌の生態の奥に、直観された「流れるもの」とは何か。自然や人間精神の研究の末織り上げられた南方マンダラの可能性とは?後継者のいない南方熊楠の思想、「旧石器的」な思考の中に、著者は未来の怪物的な子供を見出す。対称性理論への出発点となった記念碑的著作。
森のバロック
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
森のバロック
2006/11/23 01:21
熊楠=知の星座
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
星は、一つ一つの、天文学的あるいは文学的特質もさることながら相互の関係性が見い出されることによって、より豊かな事象や物語を紡ぎだす。本書は、世界を形成する「事」に注目し、自らの専門分野である粘菌学や民族学のアカデミックな領域に閉じこもることなく、途方もない、知の星座、を生成した巨人、南方熊楠についての本である。
についての本と私は書いた。そう、本書は、単なる研究書でもないし、クロニクルでもないし、ましてや物語でもない。あえて記述するとすれば、それらすべてを包含しつつ、その先の到達点を目指した、卓抜した知のノマドである中沢氏による極めて刺激的なテクストなのである。
これほど面白く(面白すぎたことも若干裏目にでたのかもしれない)かつ深い思考の強度に満ちた本書が、刊行当時、熊楠研究のアカデミックな陣営から、少々煙たがられたのも、無理のない話かもしれない。
確かに、中沢氏の論考は、神秘主義的思考の導入により、突然、ロジックのジャンプが行なわれることがしばしばある。
が、このジャンプをしなければ、熊楠ほどの多面体には到底、肉迫できないと思われる。
例えば、ミナカタマンダラを始めとする、不思議な図像の数々。
図像学的にはとても解読できないし、その含有する意味だけを追求しようとすれば、非常に多くの重要な事どもを取り逃がす羽目になる。中沢氏は躊躇しない。氏が有する知のテクネーを駆使して一気に思考のジャンプを試みる。すると今まで見えなかった事が明確な輪郭をとりはじめ、楽しげな運動を開始する。熊楠の思考に接続するための扉が開かれる。あとは、様々な事象とアクセス、リンクを繰返しながら、熊楠の宇宙を飛び回ることが可能となる。
500ページ強の大部である。だが躊躇することなく一気に読んで頂きたいと思う。怪物的、とか、途方もない、という紋切り型を超えた知のノーブルサヴェージ南方熊楠の全貌を捕らえる事ができるおすすめの一冊である。
*この書評はせりか書房版『森のバロック』への書評の再録です(ビーケーワン)
森のバロック
2006/11/23 01:18
知の大相撲
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記(ビーケーワン) - この投稿者のレビュー一覧を見る
南方熊楠自身が書いた本はいくつか持っている。正直非常に読みにくい。話の飛躍は凄まじいし その論理についていくことは凡才の僕には困難きわまる。
そんな南方に対して 中沢新一は 蛮勇を持って どうどうと立ち向かっている。それが本書の第一の印象である。一体 南方とは 博物学者であり 民俗学者であり 生物学者であり 哲学者であり しかもそのどれでもないという 桁外れの知性だが それに対し 中沢は全面的に戦線を拡大して そのどれもに付き合っている。状況を片手でわしづかみにするかのような 中沢の 南方を扱う手捌きが凄い。そう 時として 状況を把握するのは そんな蛮勇が必要なのだ。
南方と中沢が知の相撲をがっぷり四つでやっている。そんな気がする一書である。
*この書評はせりか書房版『森のバロック』への書評の再録です(ビーケーワン)
森のバロック
2020/03/29 11:31
中沢新一氏による粘菌の研究で有名な南方熊楠の思想を追った一冊です!
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、宗教史学者として有名な中沢新一氏による南方熊楠の思想や考え方を紹介した一冊です。南方熊楠という人物は、我が国の偉大な博物学者であり、生物学者であり、民俗学者でもあった人物で、研究分野では粘菌の生態を解明したことでも知られています。中沢氏は、独自の鑑識眼で、南方の粘菌の生態の奥に直観された「流れるもの」とは何なのか?南方の思想とは一体どういうものだったのか?といったことを丁寧に解明していきます。内容構成は、「第1章 市民としての南方熊楠」、「第2章 南方マンダラの来歴」、「第3章 燕石の神話論理」、「第4章 南方民俗学入門」、「第5章 粘菌とオートポイエーシス」、「第6章 森のバロック」、「第7章 今日の南方マンダラ」となっており、少し難しいところもありますが、南方熊楠の思想がよくわかるものとなっています。