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新しい声を聞くぼくたち
著者 河野 真太郎
変わっていく世界と、ぼくたちのいらだち。
与えられた剣と鎧はどうやって手放したらいい?
映画や漫画など様々なコンテンツから、近年のフェミニズムの興隆の中で男性はどう生きるべきかを読み解く、画期的な文芸批評。
【目次】
はじめに
第一部 僕らは何を憎んでいるのか
第一章 能力と傷──ポストフェミニズム時代の男性性
第二章 やつらと俺たち──階級と男性性
第三章 男性性のいくつかの生き残り戦略──助力者と多文化主義
第二部 男性性、コミュ力、障害、そしてクリップ
第四章 『もののけ姫』と障害者の時代
第五章 コミュ力時代の男たち
第六章 「これは私の吃音だ!」──「個性」としての障害と治癒なき主体というユートピア
第三部 ライフコースのクィア化、ケアする男性
第七章 母の息子のミソジニー、母の息子のフェミニズム
第八章 ぼくら、イクメン
第九章 老害と依存とケア、そしてクィアな老後の奪還
おわりに──ケアする社会へ
新しい声を聞くぼくたち
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新しい声を聞くぼくたち
2022/10/10 00:33
分断からの脱却。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
男女格差は現在進行形で存在している。
にもかかわらず、そうした問題を自分事として捉え決してそのような差別は許してはならないと考える男性と、一方で女性ばかりが優遇されるのは不公平だと反発する男性が存在する。
こうした男性に生じている新たな分断を軸に、分断の歴史を映画・漫画・アニメというコンテンツから読み解いていこうとするのが本作だ。
英文学者である著者の並外れた批評性のおかげで、「ジョーカー」、「マッドマックス」、「羊たちの沈黙」、「ズートピア」、「マリッジストーリー」
といった私の好きな作品たちに、こんな側面があったのかと終始驚かされてしまった。
もちろん著者の言っていること全てが制作者たちによって意図されたものではないだろう。
それでも私たちの身近にある映画や漫画などの物語が、こんなにも学びに満ちていると知ることは大きな一歩に違いない。
自己責任論や能力主義。
性差や格差による不平等。
新自由主義か福祉国家のどちらか。
著者はこうした現在に蔓延る問題を二項対立や二者択一という形に分断しない。
そうではなく、そうした構造に囚われることのない新たな形を考えることこそが何よりも大切だと著者は述べている。
先述した映画や漫画から学びを得ようという姿勢こそが、正に二項対立に囚われない考え方だろう。
現実かフィクションかという境界線を引くのではなく、現実を知るためにフィクションから多くを学ぶという姿勢。
そうした姿勢にこそ、二項対立に囚われるのではなく境界線を曖昧に保ったままだからこそ得られる新たな可能性が宿るはずだ。