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室町社会の騒擾と秩序 [増補版]
著者 清水 克行
「ハードボイルド」で「アナーキー」な、現代人には到底受け入れがたい中世社会を活写しながら、そこに存在する中世人独自の秩序を魅力的に描いてきた著者の原点! 「荘園制と室町社会」および原本に未収録だった幻の博士論文「序章」の一部と「終章」を収録。「喧嘩両成敗」も「大飢饉」も「耳鼻削ぎ」も、すべてはここから始まった――。
流罪に処されると、そのほとんどが道中で殺害されてしまい流刑地にたどり着くことさえできない一方で復讐を目的に自害し、また諸大名の軍勢が御所を取り巻いて将軍に異議申し立てを行うかと思えば、没落が確定した大名屋形には都市民衆が火事場泥棒に押し寄せる――。室町時代は現代人の目にはなんとも騒がしく物騒な社会に映る。しかし、それはよく言われる「自力救済」の暴力のみが支配する無秩序なものでは決してなかった。多様でいささか奇異な法慣習や民間習俗を分析対象としながら、その背景にある複雑で微妙なバランス織りなされる中世人の論理を、著者ならではの筆致で活き活きと豊かに描き出す。
さらに、そのようないわば中世的文化の「野蛮さ」が、江戸時代最初の100年を通していかに変容しひっそりと払拭されていくのか、それでもなお残りつづけているものとは何なのか、各主題を通じてその変容が浮かび上がる。
禁酒令、耳鼻削ぎ刑、梟首(晒し首)、都市民衆に開かれた禁裏など、魅力あふれる意外な視点から、中世社会を動的かつ大きな展望のもとに描いたデビュー作の決定版!
(原本:吉川弘文館、2004年)
【本書の内容】
序章 ふたつの室町文化
第1部 室町社会の法慣習
第一章 「御所巻」考――異議申し立ての法慣習
第二章 中世社会の復讐手段としての自害――復警の法慣習
第三章 政権抗争劇のなかの都市民衆――掠奪の法慣習
第四章 室町幕府「流罪」考――失脚者の末路をめぐる法慣習
第五章 室町殿の紛争解決法――紛争解決の法慣習
第2部 室町時代の都市生活
第一章 足利義持の禁酒令について
第二章 正長の徳政一揆と山門・北野社相論
第三章 ある室町幕府直臣の都市生活――『碧山日録』と「春公」についてのノート
第四章 荘園制と室町社会
第3部 戦国時代の文化変容
第一章 室町後期における都市領主の住宅検断
第二章 織豊政権の成立と処刑・梟首観の変容
第三章 「耳鼻削ぎ」の中世と近世
第四章 戦国期における禁裏空間と都市民衆
終 章
あとがき
学術文庫版あとがき
室町社会の騒擾と秩序 [増補版]
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室町社会の騒擾と秩序 増補版
2022/11/01 20:10
「喧嘩両成敗」「飢饉」「耳鼻削ぎ」
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mt - この投稿者のレビュー一覧を見る
もとは吉川弘文館で出した専門書。「喧嘩両成敗」「飢饉」「耳鼻削ぎ」といった後に一般書で書かれる話題の原型がここにある。特筆すべきは、博士論文をもとにした専門書とは思えぬ読みやすさで、下手な一般書よりもすらすら読める。清水先生のエッセンスがぎゅっと詰まった内容なので、ファンの人はもちろん、一連の対談本で興味を持った人にもおすすめ。個人的には足利義持の安定期に入った室町幕府政治を「サロン的」と評しているのが印象に残った。文化を紐帯とした、制度でなく「人」による統治の姿が、おぼろげながら見えてくるところである。
室町社会の騒擾と秩序 増補版
2022/12/03 22:52
社会史研究の奥深さ
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K2 - この投稿者のレビュー一覧を見る
法慣習や習俗といった視点から、戦国期の社会に迫る。長らく品切れとなっていた著者の研究の原点といえる論集が、増補の上で文庫化されたもの。かつては一世を風靡し、いまでは低調な感のある社会史研究だが、その奥深さを再認識させられる。博士論文がもとになっているものの、文体は軽妙で堅苦しさを感じない。
室町社会の騒擾と秩序 増補版
2022/10/17 22:48
シリーズとは違うノリ、いい意味で学術的に書かれている
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Sengoku Period - この投稿者のレビュー一覧を見る
電子書籍でも補論をあわせて力作だが、原本初版は2004年の改題本となる。気になったのは章の最後にまとめて数字付の参考史料など照合してかなりのページ数を食っている。各章ごとに文庫版のみ追記がありここでは近年出された論文論考異論などを簡潔に掲載。文春の室町ワンダーランドや、ハードボイルドとは違うノリ、いい意味で学術的に書かれているし、中世を生き返らせリアルさも伝わってくる。ただし中世の法やら訴訟の話が大部分を占めているので苦手な人は合わない。
中世のコトバは、現代とは異なる意味、形があり、その類似性のもつ中世のコトバは室町時代を通して、どのような繋がりカタチとなって干渉されていったかを述べられいる。点と点を結べば線となる、都を舞台にした室町時代事件簿のようなものである。主に室町時代に起こった罪と罰、都市と生活をテーマに類似性のある、関連した事例を多く載せているので、解決までの道のりを試行錯誤しながら読めるのではなかろうか。二部のはじめは義持の代の評論となる。将軍と天皇を二条落書で民衆?が揶揄してるあたりはオチもあって面白いが、短評なのが惜しまれる。