K2さんのレビュー一覧
投稿者:K2

アイヌ学入門
2017/02/25 17:37
文化とか民族とかを考えさせられる
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用事があって北海道へ行くことになり、道中で読むために、せっかくだからと選んだ本である。第3回古代歴史文化賞の大賞を受賞しただけあって、なかなか内容の濃い1冊だった。縄文・交易・伝説・呪術・疫病・祭祀・黄金・現代という8っつの視点から、アイヌについて解説する。縄文の伝統を受け継ぐアイヌ文化、和人の文化から大きな影響を受けたアイヌ文化という、多様な内実がよく理解できた。アイヌ文化の中に、日本の古代や中世の文化に起源するものが少なくないことに、驚いた。

暇と退屈の倫理学
2022/08/18 22:45
人生とは楽しむこと
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人間が生きていることの意味を問う野心作。多くの哲学者・思想家の言説を手がかりとしながら、退屈のメカニズムに迫る。退屈には2種があり、そのうちの1つは日常の中にあるとのこと。著者の主張とは異なるかもしれないが、人生とは楽しむことだ、と私は読んだ。非日常や狂気に捕われないためには、退屈との上手な付き合い方を学ばなければならないと感じた。

戦国大名と分国法
2018/08/01 16:50
戦後歴史学に再考を促す野心作
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
結城・伊達・六角・今川・武田各家の分国法を素材に、戦国大名について考える。文章は軽妙でいて内容は深い。分国法を残した上記諸家と、残さなかった大名との対比とその評価には驚いた。終章には、戦後歴史学の成果に再考を促す記述もある野心作。

国造 大和政権と地方豪族
2021/12/04 19:02
大化改新以後も国造制は維持された
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国造研究の第一人者による解説。部民制や屯倉など、国造に関係する諸点が合わせて取り上げられており、6〜7世紀の地方支配について理解を深めることができた。主要な研究史が整理されているのも有難い。大化改新以後も国造制は維持され、評制とは重層的な関係にあったが、令制国の成立によって終焉したと強調する。

城郭考古学の冒険
2021/02/15 21:56
城への熱い想い
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既発表の文章を再構成して一書とした本。もとの文章は近年のものがほとんどのため、著者の最新の認識がわかる。文章のいたるところから城への熱い気持ちがよく伝わってくるのだが、所謂「3点セット論」に対する批判や、城の整備・活用についての苦言などには、おそらくその想い故の激しさがこもっていて、正直驚いた。

戦国大名の経済学
2020/07/04 12:05
石高制成立の必然性
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戦国大名の収支から説き起こし、石高制への移行を解説。銭立から米立への税制の移行を、明の海禁政策→国内の銭不足→悪銭の利用→精銭と悪銭の換算率の必要性や悪銭忌避の意識→商取引現場の混乱→安定した価値を持つ米への注目→貨幣の代替としての米の利用→基準としての米の利用、という具合に整理。石高制成立の必然性がよく理解できた。

中世考古〈やきもの〉ガイドブック 中世やきものの世界
2020/04/18 16:19
「やきもの」にみる東日本と西日本
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中世の遺跡から普遍的に出土する「やきもの」について、用語・種類・変遷やその意味などを平易に解説。知っているようでいて、実は明確には理解できていなかった事柄が少なくなかった。内容の眼目は、「やきもの」からみた中世の社会、特に東日本と西日本の地域性の違いの指摘にあるようだ。中世考古学に興味のある初学者は必見。

在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活
2019/11/15 22:51
好きだから
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研究とは何か、研究者とは何かを考えさせられた。山本貴光・吉川浩満両氏による研究者の整理はなるほどと感心したし、「研究者とは生き方のひとつだとよく思う」という、熊澤辰徳氏の言葉はとても印象的だった。執筆者のみなさんは、好きだから研究を続けられるのだろう。

弥生時代の歴史
2019/03/04 19:55
複数の文化からなる弥生時代
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弥生時代の年代観を500年遡らせた歴博の研究で主導的役割を担った著者の弥生時代通史。弥生時代には時間的・空間的に複数の文化があることを強調する。縄文時代から弥生時代への移行は丁寧に叙述されわかりやすかったが、古墳時代への移行はサッと終わらせた感じで少し物足りなかった。

縄文時代の歴史
2019/02/18 17:33
最新の縄文時代論
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近年の研究成果をわかりやすく解説。縄文時代が、空間的にも、時間的にも、多様な文化の集合であったことがよくわかった。特に、中国地方の貧弱な様相は興味深い。また、一時的に階層化しながらも、それが定着しなかったということも、縄文時代の特性の一端を表していると思う。

武士の起源を解きあかす 混血する古代、創発される中世
2019/01/12 23:39
武士の起源をさぐる野心作
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武士の起源を、奈良時代にまで遡って解き明かす野心作。「成立」ではなく「起源」としているところに、著者のセンスの鋭さを感じる。「武士は京を父とし地方を母とするハイブリッド」と結論。『三代格』を始めとする史料を博捜して導かれた結論は説得的だが、第九章の論証がやや強引かもしれない。

徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか
2018/09/17 14:33
現代と関連させて論述
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正長の徳政一揆、嘉吉の徳政一揆、その後の徳政などを検証しながら、徳政の変質を追う。現代との関連という意識が随所にうかがえる。都と地方の関係、土倉の盛衰、信用や絆を超える個人の欲望など、興味深い論述の連続だった。終章では、内藤湖南の歴史観を批判して、視座の高さと広さの必要性を強調する。

破軍の星
2018/07/19 16:29
歴史家では描き得ない顕家像
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今年(2018)は北畠顕家生誕700年ということで、手にとった。柴田錬三郎賞を受賞しただけあって、なかなか深い内容。国のかたち、大義とは、男の生き方、などが描かれている。短期間のうちに2度までも長駆し得た顕家は、確かに非凡な人物であったろう。歴史家では描き得ない顕家像が造形されていて楽しめた。

杉山城の時代
2017/11/07 16:45
私はこう読んだ
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城郭研究で話題の杉山城について、論争当事者の1人である著者が、平易に解説した意欲作。非常に論理的な内容である。研究史から説き起こし、合理的な見解を導き出す展開は見事と言うほかない。しかし、結論には決定的な論拠はないように感じられた。「杉山城北条氏築城説が成立する余地はあるが、論証できているとまではいえない」と読んだ。