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イラク戦争・日本の運命・小泉の運命
著者 立花 隆
自衛隊派兵、憲法改正、経済不況、言論統制…立花隆が「現在」を分析し、「歴史」を通観する! いま日本は、半世紀(ないし一世紀)に一度あるかないかといっていいほど大きな歴史の曲がり角を曲がりつつあるところだろうと思う。
<立花隆の「視点」>
●ブッシュに追従する小泉首相は、イラク戦争の本質を理解していない
●人質「自己責任」論は、根本的な認識が誤っている
●米英軍のイラクへの「先制攻撃」は、国際法違反である
●自衛隊の官製広報情報を垂れ流すメディアは、あの「言論の暗黒時代」を忘れたのか
●憲法9条があったから、日本は経済的繁栄を遂げることができた
イラク戦争・日本の運命・小泉の運命
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イラク戦争・日本の運命・小泉の運命
2010/04/13 09:52
1940年体制、日本の運命、鳩山政権の運命
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、小泉政権のなかば頃に刊行された時評である。したがって、当時は重要なトピックだった「イラク戦争」も「小泉」は、2010年現在、重要性が相対的に低下している。
しかし、本書の冒頭でことわってあるように、著者の関心は「日本の運命」にある。そして、一国の運命をみるには、数年のスパンではなく、百年、数百年のスパンでみなくてはならない。鏡をみるとき、奥へ足を踏みいれるには後ろ向きに歩かねばならないように、未来をみはるかすには過去を遡らなければならない。
過去に照らし、著者は概要つぎのようにいっている。
小泉(元)首相は「古い自民党」をぶっ壊すといったが、古い自民党とは1940年体制の生き残りの部分に寄生してきた口利き政治家の集団である。戦前から生きのびてきた中央、地方の政治的保守勢力と、1940年体制の戦後まで生き延びてきた部分とが結合して形成された。昭和後半期の日本を支配してきた政治的上部構造である。小泉のいわゆる「新しい自民党」も、下半身は古い自民党そのものだった。だから、古い自民党を壊すと、小泉政権の存在基盤も崩壊してしまうのであった・・・・。
ところで、1940年体制とはなにか。本書の主として第一章に即して整理してみよう。
*
話は満州事変にさかのぼる。
1931年の柳条湖事件に発する満州事変は、1935年の満州国建国で一段落する。
関東軍の参謀、石原莞爾は、満鉄経済調査課ロシア主任の宮崎正義を高く買い、先生と呼んで厚遇した。
宮崎は、1911年にペテルブルグ大学へ留学し、ロシア革命を現地で体験した。ソ連の1928年にはじまる第1次5か年計画の成功をみて、調査課に流れこんだ左翼崩れとともに、満州の経済発展計画を立てた。
そして、学生時代に北一輝の濃い影響を受けた岸信介たち革新官僚が、上記経済発展計画を実際に推進していった。
岸たちは、帰国後、満州国における試行をふまえた政策を打ち出していく。「1940年体制」のスタートである。
1940年体制は、源流の満鉄経済調査課がそうであったように、ソ連型、日本国家改造論者型、ナチス型のさまざまの国家社会主義の流れに、日本独特の国民性(農村共同体的自治社会の伝統)の風味が加わってできたものだ。
1940年体制の中心組織は、1937年10月に設置された企画院である。これは1943年に軍需省となった。戦後は経済安定本部(40年体制の司令部)、経済審議庁をへて、経済企画庁(高度成長の総司令部)となり、戦後の日本を主導する。
そして、強権によらぬ統制、計画経済を推進した。すなわち、予算措置による誘導、国家資金による補助や優遇税制の創設、許認可制度を援用した誘導、行政指導、内面指導、窓口指導など、多彩な手段を駆使した、やわらかな統制であった。
官僚統制になじんだ日本の社会には、きわめて有効な統制法だった。
日本経済は、その後十数年にわたり大きな成長をとげる。神武景気(1956~57年)、岩戸景気(1958~61年)をへて、高度成長(1955~73年)にいたる。1960年代は毎年10%を超える成長率を示した。
憲法第9条のおかげで戦争に巻き込まれなかったから、朝鮮戦争(1950~53年)やベトナム戦争(1960~75年)の特需が可能になった。国家予算に占める軍事費の割合が低く、その分、経済の成長に集中することができた。
経済成長は、1940年体制を確固たるものとし、一億人が総中流化する。
官僚は自民党と組み、自民党は経団連に象徴される産業界と組み、3極構造が日本をうごかした。
ちなみに、経団連のルーツは、戦前、官僚統制を全産業界に及ぼすために上から作られた中央統制組織である。経団連と国民政治協会(政治資金団体)は、表裏の関係にある。
*
要するに、1940年体制とは、経済成長を軸に、一方では社会の総中流化、均質化・平等化・一体化をすすめ、他方では政・官・財の3極構造を構成したものだ。
日本の経済成長に待ったをかけたのは、同盟国の米国である。モンテーニュは一方の得は他方の損になるといっているが、対外貿易の赤字相当分がそっくり日本との対外貿易で生じるようになった米国は、それまでの仲間意識を棄ててジャパン・パッシングを開始した。日米構造問題協議(1989~90)で、露骨に日本に干渉した。その結果、バブル経済(1983~90年)は崩壊し、失われた10年がこれに続く。
橋本首相(1996~98年)や小淵首相(1998~00年)は、さまざまな景気刺激策をとったが、いずれも不発。多額の借金だけが残った(「第2の敗戦」)。
「小泉改革」が登場したのは、日本が破産状態にあったからだ。当時、すでに、国債及び地方債を合わせると、不良債権は719兆円という莫大な数字にのぼっていた。だが、小泉首相(2001~06年)は、その政策目標であるプライマリー・バランス(借金を増やさない状態)を実現していない。任期中、国債30兆円枠をまもったのは2回にすぎない(2001年度及び06年度)。
小泉改革は1940年体制の統制を次々にとっぱらっていき、その社会主義的側面をどんどん切り捨て、その結果貧富の格差が拡大した、と著者はいう。
2009年夏の衆議院議員選挙で自民党が下野した理由はここにある、などと断定するつもりはない。しかし、格差社会に嫌気がさした人の何割かは、自民党とは別の政党に投票したにちがいない。
しかし、日本の破産状態は、危機の度をますます深めている。新政権は、子ども手当ほか格差社会是正の施策に手をつけたが、財源確保に四苦八苦している。
イラク戦争・日本の運命・小泉の運命
2004/06/25 20:25
戦争いろいろ、国民もいろいろ、運命いろいろ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:sheep - この投稿者のレビュー一覧を見る
著名評論家の最新評論集。彼の本を読むのは実に久しぶり。「知のソフトウェア」以来だ。角栄金脈研究で名を成した様な記憶があり遠ざかっていた。勢いを失った角栄に対する攻撃、権力者というより「弱いもの虐め」と感じたからだ。
本書では現在の政策や人気絶大な総理に、驚くほどまともに反対の論陣を張っている。基本的に月刊「現代」連載をまとめたもの。著者は勝ち馬にのるという「計算で生きる」売文評論家ではなかったのかもしれない。イスラム地域に土地勘のある人物だったことも目から鱗。
以下かいつまんでご紹介を。
序章で、歴史を見る目 現代世界の大きな流れの彼なりの把握を展開している。この世界観が彼をしてこの本を書かせたのだろうか。イラク戦争以上の大きな歴史的角逐があればこそ。日本人えてしてアメリカばかり考えがちだが、ほぼアメリカに匹敵する拡大EUが今年成立した。アメリカ一極支配構造は束の間のものとして終わるというのが筆者認識だ。
第一章 現代史が証明する「小泉純一郎の敗退」 2001年北京大学での講義メモからおこしたもの。冷戦末期アメリカは日本を敵方(adversary)と見るように変わった。知らぬは日本国民ばかり。むき出しの資本主義の悪いところばかり押し進める改革は、社会不安をますばかりでうまく行くまい。(02年3月号)
第二章 小泉再選が秘める「新たなる使命」 自民支持率を上回る支持率を背景に「大宰相」となるべく憲法改定を視野にいれているという。(03年11月号) 大義なき戦争に加担し、国家経済、軍事制度の対米従属を深める売国的政策を貫徹することで大宰相になれる国があるという不思議。有名なあの言葉をもじれば「国家もいろいろ、国民もいろいろ」。謎のような国、国民ではある。
第三章 日本の選択私はこう考える 選挙に勝ったとして、憲法改定に向けて突っ走り始めたりすれば人気もたちまち凋落ということになりかねない。(03年12月号) そうだったろうか?
第四章 イラク戦争論 この戦争を正面から論じ、「眞紀子は復活する」し、自爆テロは防げないと。(04年1月号)
第五章 イラク派兵の大義を問う 大義のない出兵で得られるものなどない。シベリア出兵とニコラエフスクの悲劇を経験した日本は、今同じ轍を踏む。(04年1月号)
第六章 オイル・ウオー 自衛隊の撤退を勧告する 先の大戦があれほど悲惨なものになった原因の一つに、大政翼賛報道機関があった。今の新聞テレビ、大政翼賛報道と変わるところがない。隊員のせいぜい一割程度が形だけの浄水作業。残りは戦闘訓練。「残りの機能」が派兵の本質だ。「自衛隊の応援団と化した報道」。(04年4月号)異議を唱える在野ジャーナリストは都合よく暗殺された。誰が真犯人かマスコミ応援団は一切問わない。お笑いか応援団。北朝鮮など笑えない報道統制だ。
第七章 イラク撤退の時 人質達の高邁な活動が自らを救ったので、政府は足をひっぱっただけ。(04年6月号)
第八章 ブッシュと小泉の自己責任 イラク人はアメリカを信頼しておらず、今の事態はテロでなく、アメリカ帝国主義への抵抗。人質事件、責任は首相に。(週刊現代04年5月22日号)
終章 二つの大戦 冷戦後、日本はアメリカにとって敵方(adversary)となった。イラク国連軍派兵であれ北朝鮮殲滅であれ、手軽な戦争賛美は日露戦争をあおった東大教授達の言動と同じだ。筆者は「普通の国」でない選択肢を勧め、憲法九条を支持する。(本章は書き下ろし)
選挙は大本営応援団マスコミのせいで「年金」「二大政党選択」に歪められている。著者主張にもかからわず九条廃棄に向け、戦争、亡国の道を固める歴史的結果になる可能性が高い。戦争体制本格稼働。
本書を閉じた後、鋭い著者は「ブッシュと小泉の凋落を読み切っている」という期待が僅かに残る。
イラク戦争・日本の運命・小泉の運命
2004/09/24 18:17
小泉首相を評価できるか
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひがみ男 - この投稿者のレビュー一覧を見る
久し振りに胸にずーんとくる本を読みました。大変解りやすく、時機を得たいい本です。とくに199ページ〜の「先制攻撃が許されるケース」は最も印象に残りました。イラク戦争への自衛隊派遣に関わる小泉首相のやり方には
怖いものを感じます。各種改革も中途半端です。それでも立花さんは、小泉さんを評価されますか。私は彼を信じることが出来ません。
今後ともこのような本を書いてください。本当に面白く、為になる本でした。夫々の一行にも膨大な資料とデータがあるのがよく判りました。以上